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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
64/503

その少女、大海原へ出る

新章では新たな大陸へ。

悲劇を乗り越え、ミラリア初めての冒険はさらなる展開を迎える。

「これならラクチン。もうすぐ海へ出られそうな気がする」


 フューティ姉ちゃんを埋葬した秘密の広場から川を下り、私達はエスターシャ神聖国を後にする。

 遺してくれた手帳の通りに海を目指してるんだけど、どうやらかなり遠くにあるらしい。歩いても歩いても大きな池っぽいものは見えてこない。

 でも、こういう時に役立つものを私は知ってる。エスカぺ村の絵本で幼い頃に読んだ乗り物の知識だ。

 丁度森林地帯も続いてたし、材料についても問題ない。木を斬って丸太を作り、ツタで縛るだけのお手軽設計だ。

 実動についても問題なく、川の真ん中をプカプカしながらスイスイ進んでる。




「このイカダに乗って、川に流されながら海を目指そう」

【ちょ、ちょっと待て!? 本当にこれで大丈夫なのか!? ただ木を並べて縛っただけの板だろ!?】




 絵本の中では、主人公がこのイカダに乗って川を下っていた。私も同じようにすれば、川の流れに任せて海を目指せる。

 外の世界には憧れてたから、こういう知識は結構覚えてる。やっぱり、知識を得ることは大切だ。役立つことが多い。


【な、なあ、ミラリア!? 俺が思うに、海を渡るにはもっと立派な船とかが必要なんじゃないか!? イカダじゃ無理がないか!?】

「大丈夫。イカダも立派な船。絵本の通りに作ったから、海だって渡れる」

【すまん! 流石に不安しかない! 一度イカダを岸に寄せて、海に出るのを考え直し――ギャァァァア!?】

「あっ、前方に岩。ちょっと斬るね」


 なお、ツギル兄ちゃんはさっきから絶叫ばかり。腰の魔剣から声が出るから、近くてとてもうるさい。

 確かにちょっと川の流れで揺れるけど、そこまで怖がるほどじゃない。途中の岩にぶつかりそうになっても、居合で斬り砕けば問題ない。

 そもそも船は流石に作れない。エスカぺ村の川にもボートはあったけど、あれは組み立てが難しい。イカダが妥協点だ。

 フューティ姉ちゃんが託してくれた遺志を無駄にしないためにも、こういった妥協点は必要と言えよう。


「見て見て、ツギル兄ちゃん。川が広くなって、大きな池が見えてきた」

【ほ、本当にこのまま海に出るのか!? 本当に本気なのか!?】

「ツギル兄ちゃん、怖がり、しつこい。私のイカダに不備はない」

【なんなんだよ!? お前のイカダに対するその妙な信頼は!?】


 そうこうしているうちに、海と思われる光景が眼前に見えてくる。こんなに大きな池、初めて見た。これが海に違いない。

 イカダも川の流れに乗り、そのまま海へと入っていく。


「ふ、ふあぁ……! お、おっきい……!」


 海に入ったイカダの上で眼を見開けば、そこに映るのは想像だにしなかった光景。海は大きな池だと聞いてたけど、想像してたよりずっと大きい。

 大きすぎて向こうの陸地が見えない。水面が線のように見える。後、ちょっとだけ丸い。

 やっぱり、本の中で見た知識だけじゃ不十分だ。現実は想像の遥か上を行く。


「フューティ姉ちゃんとも一緒に、この景色を見たかったな……」

【そ、そうだな。そんな感傷にも浸りたくなるよな。俺も実際に海を見るのは初めてだし、感慨深いものがある】

「こういう景色を見ると、旅というのも悪くない。新たな光景を見ることでも、活力が沸いてくる」


 海に出ると揺れも少し収まり、ツギル兄ちゃんも余裕が出てきたみたい。魔剣になっても景色は見れるらしく、なんだかんだで楽しんでるっぽい。

 フューティ姉ちゃんのことは今でも思い出すと心苦しい。でも、それでクヨクヨしてたらフューティ姉ちゃんだって天国で悲しんじゃう。

 だから、この旅が終わるまでは極力明るくしよう。この青い海のように、広くて穏やかな心を持って――


【……なあ、ミラリア。ちょっといいか?】

「むぅ? 今度は何? ツギル兄ちゃん?」


 ――などと海のように穏やかな心の流れを感じてると、またしてもツギル兄ちゃんが口を挟んでくる。

 今はイカダの揺れだって収まってるし、何も危険なことはない。順調に元いた大陸を離れ、この先にある大陸を目指してる。

 方角だって問題ない。私のアホ毛が感じる風の流れから、イカダは間違いなく進んでいる。

 それなのに、ツギル兄ちゃんは何やら不満げな様子。いったい、何がどう不満なのだろうか?




【イカダに使ってる丸太の数……減ってないか?】

「……あっ、本当だ。さっきよりも少ない」




 どうやら丸太のツタが解け、私達が乗るイカダから外れてしまったようだ。

 しかもよく見ると、残ってる丸太もツタが解けて外れそう。このままだと、イカダが海の上で分解してしまう。

 やはり、お手軽設計には無理があったか。私も初めて作ったから、強度面に問題があったのだろう。


「でも、大丈夫。安心してほしい。これぐらいの分解なら対処できる」

【ほ、本当か? もう海のど真ん中まで来てるし、引き返すのも難しいぞ?】

「引き返さない。このまま先に進む」

【え? い、いや、もうイカダも限界っぽいんだが?】


 とはいえ、こんなことで慌てちゃいけない。別に誰かが死ぬわけじゃないんだ。

 気がつけばイカダもかなり流されてるし、予想ではもうじき次の大陸だって見えてくるはず。ここでイカダが壊れたって、最終的に向こうの大陸に辿り着けばそれでいい。


 ――少し濡れちゃうけど、これもまた旅の一興。こういった経験も悪くない。




「ここからは泳いで次の大陸まで渡る」

【……はぁ!?】

無茶や、ミラリア。

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