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◆疑楽王子レパスⅢ

怒りに燃える弔い合戦開始。

「フン! たかが死体一つのために体を張るなどと、馬鹿なところは成長していないか! ならばそこで無様に死んでる女もろとも、僕の手で斬り裂いてくれようぞぉぉお!!」


 私が立つのはフューティ姉ちゃんの眼前。もうこれ以上、傷を与えたくない。死んでいたとしても、私の大事な人は守り抜きたい。

 レパス王子は剣を両手で握りしめて袈裟斬りの構え。距離を詰めて、一気に斬り裂こうとしてくる。

 斬られても問題ない体だからか、かなりの大振りだ。威力はあるんだろうけど、隙も大きい。


「ツギル兄ちゃん、覚悟だけしてて」

【ああ。俺の魔力も魔法も好きなだけ使え。あのクソ王子だけは絶対に許すな……!】


 こっちも怒りに任せて斬りかかりたいけど、下手に動いてフューティ姉ちゃんが無防備になるのは嫌。心の中で煮えたぎりつつも、左手で魔剣の鞘を握って攻撃に備える。

 居合とは緩急差により威力を発揮させる剣術。理刀流の本にも書いてあった。

 今の私は内心で怒り心頭。だけど、あえて心を落ち着けて脱力する。

 こうすることで、今は『静』の状態にしておく。次に『動』へ転じた時、居合の鋭さは何倍にも跳ね上がる。




 ――左手で鞘に納めた魔剣を眼前へと構え、右手を柄に添えて準備完了。レパス王子が攻撃してきた時こそ、この怒りを爆発させる時だ。




「そんな鞘に納めたままの剣を構えて、僕の一撃を止められると思うなぁぁああ!!」



 ガン――



「理刀流奥義! 反衝理閃(はんしょうりせん)!!」



 ズバァァアンッッ!!



「な、何!? カウンター……だと……!?」


 鞘でレパス王子の剣撃を受け流しつつ、その衝撃を刀身へ伝搬。衝撃と同時に怒りも解放し、居合の速度も威力も過去最高だ。

 見切ることなどできはしない。許しはしない。その一閃により、レパス王子の体は腰の辺りで真っ二つに斬れる。


「うっぐぅ……フハハハ! 確かに強力な一撃だが、僕にとっては一時的な痛みに過ぎない! 二つに分断されたこの体とて、元に戻すのは問題ない!」


 それで袈裟斬りは止まったけど、レパス王子自身は痛がりつつもまだピンピンしてる。

 斬られた上半身は魔力で浮き、下半身はそのまま立って上半身とくっつこうと構えてる。出血さえもしていない。

 正直、不気味なんて話じゃない。下手な魔物よりもおぞましい。姿が人間な分、余計にそう感じてしまう


 ――でも、人間に見えるのは姿だけ。


「理刀流奥義……!」


 レパス王子も体を元に戻すためには時間がかかる。いくら再生することができても、動きが止まらないわけじゃない。

 今のレパス王子に言えるのは、単純に『一回斬られても死なない』だけ。だけど『一回だけ』じゃなかったらどうなるだろうか?

 どれぐらい死なないかは不明だけど、何回も斬られれば再生できても簡単にはいかない。


 ――いっそ、それで殺してしまっても構わない。レパス王子はもう人間じゃない。




刃界理閃(じんかいりせん)!!」



 ズパパパァンッ!!



「あがっ!? がぁ!? な、なんだこれは……!? か、体が……維持できなく……!?」




 もう一つの理刀流奥義、刃界理閃。この技は居合で発動するとはいえ、魔力を伴った斬撃が何発も範囲内を斬り刻む。

 反衝理閃で怯んだレパス王子には回避も防御もできない。無数の斬撃が手足どころか首をも跳ね飛ばし、細切れの肉塊へとなり変わっていく。


 ――フューティ姉ちゃんの協力で手にした奥義が、こんな形で役に立つなんて皮肉だ。どうせなら、殺される前に間に合わせたかった。


「く、くそぉ……!? は、早く……体を再生させて……!」

「……驚いた。まだ生きてるんだ。肉片が散らばってる状態なのに生きてるなんて、レパス王子は人間じゃない」

「だ、黙れ! お前こそ、よくも人間相手にここまで無情に剣を振るえたな!? お前の方こそ人間じゃない! エデン文明の剣技を身に着けたバケモノがぁあ!!」


 胴体も手足も首もバラバラになり、流石にレパス王子も再生に手間取っているようだ。それでもまだ生きており、首だけで私に話しかけてくる。

 ここまで徹底的に斬り刻むなんて、魔物相手でもやったことがない。むしろ血が出てない分、魔物を相手にするより嫌悪感も感じない。

 私のことを『人間じゃない』なんて罵って来ても、そっくりそのまま言葉をお返しする気しか湧かない。


「レパス王子の方が人間じゃない。斬り刻まれても死なない。血も出ない。……人間どころか、生物にも見えない」

「し、知った風な口を……! ぐうぅ……痛い……!」


 いくら何を言われようとも、レパス王子の言葉は響かない。バラバラのまま痛がってるけど、フューティ姉ちゃんが受けた苦しみはこんなもんじゃなかった。

 いきなり襲われた恐怖、訳が分からぬまま殺された絶望。それを考えれば、レパス王子に同情なんてできない。バケモノとなったならば尚更だ。


 ――私も私で不思議で不気味な気分。形だけでも人を斬ったのに、まるで罪悪感を感じない。少し自分が怖くなる。


「……リースト司祭。次はあなた達が相手する?」

「いえ、やめておきましょう。あなたが相手では、私どもの手に余ります。レパス王子の治療もありますので」

「そこまでしてレパス王子を助ける理由が分からない。でも、好きにすればいい。……フューティ姉ちゃんの遺体だけはこっちが譲り受ける」

「本当なら奪い返したいですが、致し方ありませんね」


 少し目を閉じて気持ちを整え、今度は見物してたリースト司祭に眼を向ける。こっちが少し強気に出れば、あっさり要望を飲んでしまった。

 この人も分からない。最初から今に至るまで、ずっと張り付いた笑顔のままだった。何を考えてるのか全く読めない。

 だけど、今はそんなことを考えてる場合じゃない。私にはやることが残ってる。


「……ツギル兄ちゃん。まずはフューティ姉ちゃんとの思い出の場所まで」

【……ああ、そうだな。弔うならあそこが一番か】


 魔剣に魔力を込めて居合を放ち、私とフューティ姉ちゃんの周囲に転移用の魔法陣を展開。まずはこの場から立ち去り、フューティ姉ちゃんを弔うのが先決だ。

 行き先は決まってる。フューティ姉ちゃんが教えてくれた、誰にも知られていない秘密の場所だ。

悲しき結末の幕を、ミラリアは率先して引くこととなる。

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