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◆疑楽王子レパスⅡ

エステナ教団が選んだのは、あろうことか聖女のフューティではなく。

「リ、リースト司祭? な、何言ってるの? フューティ姉ちゃんが……エステナ教団の聖女が殺されたんだよ? は、早くレパス王子を捕らえないと……?」

「レパス王子のことは、エステナ教団でも来賓としてお招きしました。何より、エスターシャ神聖国の同盟国であるディストール王国の王子です。こちらも粗相を働くわけにはいきません」

「な、何言ってるの……? 本当に……何でそんなこと言うの……?」


 期待した私の言葉に対し、リースト司祭は張り付いた笑顔のまま、淡々と自分の意見を述べてくる。その姿、あまりに不気味過ぎる。

 だって、フューティ姉ちゃんはエスターシャ神聖国でもエステナ教団でも、とっても偉くて大事な人なんだよね? そんな人が殺されたのに、どうして笑ったままでいられるの? 意味が分からなさ過ぎて怖い。


 ――この人もレパス王子と同じく、人間なんかに見えない。


「残念だったね、ミラリア。そもそもディストール王国とエスターシャ神聖国が同盟を結んだのは、僕がエデン文明の解明を進めるためにあったのさ。そこにいるリースト司祭は特に協力的でね。世界中にあるエステナ教団の支部も使い、楽園を始めとした様々な情報を提供してくれている。僕が助かったことにしても、この体にしても、リースト司祭の協力あってのものだ」

「ディストール王国は世界中でも大国に位置しており、協力しない理由はありません。下手をすれば、エスターシャ神聖国の立場が危うくなります。フューティ様の命とレパス王子の尊厳。それらを秤にかければ、後者に傾くのも必然でしょう」

「そ、そんな……? い、意味分かんない……?」


 こんな話をしていても、リースト司祭の後ろにいるエステナ教団の人達さえ何も言わない。ただ黙って無表情のまま、私達の話を聞いてるだけ。

 これではあの時と同じだ。またディストール王国の時のように、私の周囲に味方はいない。

 外の世界では、こういうことが普通なの? エスカぺ村での常識は、何一つとして通用しないの?


「だ、だったら、ペイパー警部は!? あの人、フューティ姉ちゃんのこと心配してた! あの人ならこの状況を見れば――」

「ええ、怒り狂うでしょうね。ですが、それは私としては困る話です。あの人はフューティ様の身を案じるあまり、大局というものが見えてません。なのでレパス王子が招かれるより少し前、別件を申しつけて聖堂を離れてもらいました。しばらくは戻りません」

「そ、そんな……!?」


 わずかな望みは事前にフューティ姉ちゃんへ事情を説明してたペイパー警部。私のことも追ってるけど、そんなことは関係ない。今は一人でも味方が欲しい。

 だけど、その望みさえもリースト司祭は打ち砕いてくる。完全にレパス王子に味方し、ペイパー警部が駆けつけてくれることもない。


「理解したかね、ミラリア? ここに君の味方はいない。また以前のようにはいかない。……この楽園の力を疑似再現した肉体で、今度こそ君を葬ってやろう」

「フューティ様のご遺体につきましても、早々にこちらへお譲りください。死んだとはいえ、聖女になれるだけの格を持たれたお方です。まだこちらで研究し、肉体については利用する手立てもありましょう」


 レパス王子もリースト司祭も後ろで控えるエステナ教団の人達も、みんながみんな私の敵だ。それどころか、フューティ姉ちゃんの味方ですらない。

 それどころか、殺されたフューティ姉ちゃんをまるで『物』のように扱ってくる。もう命がなくたって、そんな扱いしていいはずがない。


 この人達には見えないの? フューティ姉ちゃんの胸に開かれた穴が? そこから流れ落ちる血が? 絶望のまま固まった表情が?

 もう嫌だ。この人達なんか嫌いだ。自分を抑えられない。




 ――謝ったって許さない。




「魔剣解放……振陣(ブレゾーン)!」



 グゴォォオン!!



「な、なんだこれは!? 衝撃波が床に!?」


 ツギル兄ちゃんに確認もとらず、まず放つのは衝撃魔法を床に伝搬させる技、振陣(ブレゾーン)。それによって起こるのは、局地的な地震と言ってもいい。

 フューティ姉ちゃんの前に立ち、守るように地震を起こす。近くにいたレパス王子やリースト司祭を寄せ付けず、振動を駆使して距離を置かせる。


「あなた達にフューティ姉ちゃん、渡さない。もう怒った。……完全に怒ったぁぁあ!!」

「くぅ!? 魔剣とエデン文明の技は相変わらず奇特で侮れないか……!」

「これは私どもでは手に負えませんか。レパス王子、いかがいたしましょう?」

「エステナ教団は黙って見てろ。僕としても、ミラリアはこの手で下したい。お前達に改造してもらった肉体を試すチャンスでもある。……何より、フューティの死体にはまだ利用価値がある。それを奪い返さないとな」


 一度距離を置きはしたけど、レパス王子がこのまま引き下がるはずもない。右手に剣を持ち、こちらににじり寄ってくる。

 もう死んじゃったとはいえ、こいつらはフューティ姉ちゃんの遺体にまだ何かするつもりだ。そんな冒涜は絶対に許さない。


【……なあ、ミラリア】

「ツギル兄ちゃん、勝手に魔法を使ったのはごめん。でも、私は気持ちを抑えられない。もう……抑えたくない……!」

【分かってる。それでいい。……存分に暴れろ。あの思い上がった怪物王子を全力でぶちのめせぇぇえ!!】

「うん! レパス王子だけは許さない! 何があっても……絶っっ対に許さなぁぁい!!」


 ツギル兄ちゃんも私と同じ気持ちだ。普段は私のストッパーなのに、今回ばかりは全力で後押ししてくれる。

 仮に止められても、今の私は止まれない。フューティ姉ちゃんを殺されて、怒りなんてとっくに振り切れてる。




 ――凶刃でもいい。今だけは荒れ狂うままに魔剣を振るう。

もうその怒りは止められない。

さあ、いよいよ本格開戦だ!

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