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その聖女、追われる立場になる

教団の警部が語るのは、聖女の身に迫る危機。

「ペイパー警部って、私のことも追ってたよね? 今度は何を話してるの?」

【静かにしてろ。しばらく様子を見てみるぞ】


 部屋でフューティ姉ちゃんと会話してるのはペイパー警部だ。私のことを追ってるし、その発端となったディストール王国の話まで出ている。

 今出ていくのは危険すぎる。変装だってしてない。ツギル兄ちゃんの言う通り、隙間からコッソリ話を聞くしかなさそうだ。


「オレッチとしても、ディストール王国の動きには不信感しかありません。王族の死についても、まるでフューティ様に責任があると考えているらしくて……」

「確かに私は直近でレパス王子とエデン文明の調査をしていました。ですが、それと王城の爆破や王族の死は関係ありません。……などと説明しても、素直には受け取ってもらえない状況ですか」

「下手をすれば、フューティ様の身に危険が及びます。オレッチとしては、一度エスターシャ神聖国からも離れていただきたく……」

「かしこまりました。重要な情報ありがとうございます、ペイパー警部。今日はもう下がってください」


 そうして話だけ聞いてれば、直接私の話は出てこない。とはいえ、あんまりいい雰囲気にも聞こえない。

 とりあえず、ディストール王国の人がエスターシャ神聖国に来てるってこと? しかもフューティ姉ちゃんの責任って何?


「……ミラリアちゃん、大丈夫ですよ。もうペイパー警部はいません」

「ふえ? 私が隠れてること、気付いてた?」

「聖女ですから」

「そっか。聖女だからか」

【いや、聖女は関係ないような……?】


 ペイパー警部が部屋を立ち去ると、フューティ姉ちゃんが声をかけてくれる。隠れていた私の気配に気づくなんて、聖女って凄い。ツギル兄ちゃんは疑り深い。

 抜け道の蓋を開けて部屋に戻り、詳しい話を伺ってみよう。私だって気になる。


「ペイパー警部、何を話しに来てたの?」

「どうやらディストール王国が爆発事件と国王やレパス王子の死を、私の責任にしようとしてるようです。今もエスターシャ神聖国の近くに派遣団がいるらしく、私との面会を望んでいるとか」

「ッ……!? あの事件、フューティ姉ちゃんは関係ない! 私は関係あるけど、全部レパス王子の仕業! 酷い言いがかり!」

「私もミラリアちゃんの言葉を信じています。ですが、事実など向こうにはどうでも良いのでしょう。自国の王族が起こした不義理など、そう簡単に認められるものではありません。丁度他国から来ていた人間に罪を擦り付ければ丸く収まります」

「私、そんなの嫌! 抗議したい!」

【ミ、ミラリア。気持ちは分かるが落ち着けって。お前が出てきたって、逆に話がもつれるだけだろ?】


 聞いてみれば、なんとも頭にくる話だ。フューティ姉ちゃんだって被害者だ。レパス王子が暴挙に出たから、こっそりディストール王国を抜け出さないといけなくなった。

 そもそも、疑いは私に向けられてたはず。なのにフューティ姉ちゃんまで疑うなんて、いくらなんでも横暴だ。


「国のメンツというものは、一個人の首でどうにかなるものではありません。ミラリアちゃんだけでなく私の首も揃えれば、ディストール王国としてはメンツが立つのでしょう」

「だからって、そんなことを認めて……!?」

「もちろん、私だって素直に認めることはありません。……それより、今から一緒に外で夕飯でも食べに行きませんか? 今日はお昼もお持ちできなかったので、お腹も空いているでしょう?」

「す、空いてるけど……」

「なら決まりです。また変装魔法を施して……っと。さあ、行きましょうか」


 どうにも反論を抑えられないけど、フューティ姉ちゃん自身はいつも通り穏やかな物腰だ。それどころか、またしても私の心配をしてくれる。

 確かにお腹は空いてるので、思わずご飯の誘いまで受けてしまう。準備ができれば、そのまま聖堂を出て夕暮れの街並みへと繰り出していく。


 どうしてこんなに優しい人が悪い扱いを受けなきゃいけないの? 世の中って理不尽だ。

 このままだと、フューティ姉ちゃんが酷い目に遭っちゃう。そんなことだけは避けたい。





「いかがですか? この店の魚ムニエルは? 私も好物なんですよ」

「うん、美味しい。……それより、フューティ姉ちゃんは大丈夫なの?」

「あらあら。私の心配をしてくれるのですか? それならば大丈夫です。むしろ、ミラリアちゃんこそ予定通り明日にこの国を発った方がいいですね。ディストールの方々に見つかれば、ミラリアちゃんの方が危ないですからね」


 街に出て連れてこられたのは、とあるお店にある個室の食卓。そこで夕飯をいただくんだけど、食事に中々集中できない。

 やっぱり、フューティ姉ちゃんのことが心配。そのことを口にしても、フューティ姉ちゃんは笑顔で逆に私の心配をするばかり。

 このままだと、私はまた何か後悔してしまいそうな気がする。何か私にできることはないだろうか?


 ――とりあえず、一つだけある。


「ねえねえ、フューティ姉ちゃん。やっぱり、私と一緒に旅してほしい。一緒に旅に出て、ディストールから逃れよう。私が守るから」


 そもそもフューティ姉ちゃんが提案してくれた、私やツギル兄ちゃんと一緒の旅立ち。それができれば、近くまで来ているディストール王国の人達からも逃げられる。

 ペイパー警部だって言ってた。一度はフューティ様もこの国を離れた方が安全だって。

 ならば丁度いい。これを機会にフューティ姉ちゃんもエスターシャ神聖国から離れて――




「……すみません。こちらから頼んでおいて申し訳ありませんが、やはりなかったことにしていただきたく存じます」

「ふえ? な、なんで?」

運命の歯車は再び動き始める。

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