その聖女、萌える
あらすじ:聖女が萌えた。
フューティ姉ちゃんが『燃えた』だかなんだかしちゃった翌日。今日も私は朝から秘密の場所で理刀流の修練だ。
そんなわけで早起きして、朝食を口にするんだけど――
「ねえねえ、眼鏡メイドさん。フューティ姉ちゃん、どこ?」
「何やら陽が昇る前から調べ物をしたりで駆け回っております」
――フューティ姉ちゃんの方はとっくの昔に活動していた。今日は私も早起きだったのに、随分と元気である。
とりあえず朝食は眼鏡メイドさんが持ってきてくれたし、こっちはこっちでやることをしよう。
「ところで、その『フューティ姉ちゃん』という呼称は?」
「フューティ姉ちゃんが燃え上がる魔法の言葉」
「は、はあ……。なんだかフューティ様も『しばらく暇を与えます!』などとおっしゃってましたし、私の知らないところで何が起こっているのやら……?」
眼鏡メイドさんと会話するのってあんまりない機会だけど、詳しいことは話せない。もどかしいけど、まだフューティ姉ちゃんが一緒に旅すると決まったわけではない。
とはいえ、肝心のフューティ姉ちゃんはなんだかやる気満々っぽい。きっと今でも、私と旅をするためにあれやらこれやらしてるんだ。それが何かは分かんないけど。
「ごちそうさま。私もやることやってくる」
「そう……ですか。まあ、私はただお仕えするメイドです。深入りは控えましょう」
眼鏡メイドさんも特に言及はせず、私が食べた朝食の食器を下げて部屋を出ていった。
ディストールにいた時からあの調子だったけど、メイドというお仕事はそういうものなのだろう。多分。
ここは『切り替えが上手』ということにしておこう。
「ツギル兄ちゃん。早速修練に向か――」
【ハァ……。フューティ様の姿を見れないってのは、なんだか気力が削がれるな。あの眼鏡メイドさんも綺麗なんだが――】
ガンッ!
【い、痛いって!? ちゃんとするからやめてくれ!】
「分かればいい」
できることなら、ツギル兄ちゃんも見習ってほしいものだ。雑念ばかりの魔剣ってのも嫌。
■
「……技の精度も上がってきた。明日仕上げすれば、一通りはものになったと思っていい」
【俺もミラリアの剣術に慣れてきた気がするな。実際に振るわれる剣そのものだから、速さや鋭さをそのまま体感できる】
そんなこんなで秘密の広場での修練二日目。実に順調な成長を感じる。
この調子なら予定通り、明日には理刀流の技をマスターできそうだ。元々はスペリアス様から教わった剣術がベースなのもあって、習得自体は問題ない。
「もう夕方。……そういえば、ご飯食べるの忘れてた」
【フューティ様も今日は来なかったからな】
「もしかして、嫌われてる?」
【いや『忘れられてる』だろうな。ミラリアにお姉ちゃん呼びされて、変なスイッチが入っちゃったんだろ】
なお、今日は昨日のサンドイッチのような差し入れはなかった。思わずフューティ姉ちゃんに嫌われてる思ったけど、そうではないらしい。
やっぱり、私が『フューティ姉ちゃん』って呼んだから燃えてるんだ。血が沸き立つほど燃え上がってるんだ。
この調子だと、本当に旅についてきそう。一緒に旅できるのは嬉しいけど、まだこっちは判断に迷う。
「……でも、私だってフューティ姉ちゃんと一緒がいい。もっとお話しだってしたい」
【今日の修練は一通り終わったんだし、話だけなら今からでもしに行ったらどうだ? フューティ様だって、ミラリアの言葉なら断らないだろ】
「……うん、そうする。むしろ、そうしたい」
迷ってはいても、私の心はどちらかと言うとフューティ姉ちゃんが一緒に来ることに賛成気味。だけど、この判断がまた私の独りよがりじゃないかどうかも不安。
とりあえず、話はしておきたい。今日の修練も終わったし、まずは洞窟を抜けてフューティ姉ちゃんの部屋に戻ろう。
「――というわけでして、オレッチもキナ臭いものを感じてます。昨今はロードレオ海賊団や魔王軍といった、ただでさえ見逃せない情勢の中でもあって――」
【待て、ミラリア。部屋にフューティ様以外の人間がいるぞ】
「男の人の声? 前にも聞いたことあるけど……?」
そう思って部屋の手前まで戻ってくると、出入口になってる蓋の向こうから誰かの声が聞こえてくる。
フューティ姉ちゃんでも眼鏡メイドさんでもない。でも、聞き覚えのある年輩の男の人の声だ。
静かに蓋を開けて部屋の様子を伺ってみると、机で向かい合ってフューティ姉ちゃんが誰かと話してるのが見える。
あの帽子とコートの姿は、エステナ教団の警備部隊長とかいう役職の――
「これまでディストール王国は国内の混乱で動けずにいましたが、新たに再編された上層部がこのエスターシャ神聖国にやって来てます。……それも同盟国などという友好的なものではなく、何かしらの疑いをかける様子で」
「ペイパー警部のお話を聞く限り、あまり良い状況でないのは事実のようですね。……私も気にかけておきましょう」
(あっ、これまた迂闊に後書き書けない雰囲気や)




