{その少女、後の世でも語られる}
これが本作最終話です。
どうか最後までお楽しみください。
未来へと繋がれた世界にて、魔王軍や魔界も『一つの種族や国』と認識されていた。今も渓谷深くに居を構えているため往来は難しいが、それでも知る人ぞ知る秘境と呼ばれる。
闇瘴がなくなった地にも少しずつ恵みが届き、これまでの魔王が目指した魔界を当代魔王のフューティが叶えつつあった。
ただ当のフューティ本人に謁見することは簡単ではない。いまや側近であるトトネと共に『歴史の生き証人』となった二人は、不用意に『現代と過去が接触する』ことを恐れていた。
まさに世界最高峰の賢人。ともすれば、軽々しく謁見することも忍ばれる。
「あなたが……魔王様。立派な角に杖。こんにちはの初めまして」
「魔王様って、女性だったんですか……。てっきりいかつい大男かと思いましたが、側近の方も含めて本当にお綺麗で……」
「これこれ、お二方はワシでさえ及ばぬほどの賢人じゃ。もっと礼節をわきまえぬか」
「いえいえ、構いませんよ。私も魔王様も、あなた方にはずっと会いたかったですから」
「ええ……本当に。そして、やはり……もしかすると……」
そんな魔王の玉座へ案内されたのは、世界でも有名な絵日記冒険譚の筆者一家。無論、この一家とて簡単に魔王と謁見を願えるはずがない。
それでもこうして謁見が叶ったのは、魔王であるフューティの願いもあってのこと。『世界でも有名な著者に一目お会いしたい』という声をかけたのだ。
――もっとも、フューティの願いはそれだけではない。
「ねえねえ、魔王様。あなたも私の絵日記、読んでくれてるの?」
「もちろんです。いつ新刊が出るのかと楽しませていただいてますよ」
「ふあぁ……世界で一番賢くて神様みたいな魔王様にそう言ってもらえるなんて、凄く光栄。なら、魔王様のことも絵日記に描きたい。どんなご飯を――」
「ウフフ。まるであの時みたいですね」
「ふえ? 『あの時』って……いつの話?」
今のフューティは世界でも伝説の賢人であり、エステナに代わる神にも近いと言える。しかし、彼女はただ長き時を待っていた王に過ぎない。
フューティは本物の神を知っている。いや、神にも属した少女がどのように『人として生きたか』を知っている。
畏まった場であっても自らのペースを崩さない少女を見て、ほくそ笑まずにはいられない。待ち続けたフューティやトトネの目には、絵日記冒険譚の筆者たる少女は特別に映る。
腰に携えしは居合刀。今では発祥の由縁さえ朧気となったアテハルコン製のそれに少女の容姿も合わされば、知る者は想起せずにはいられない。
――『ミラリアが再び人として生を歩み始めた』と。
「……ふむ。魔王様も側近殿も、何かワシ達では想像できないことを知っておるような顔じゃな」
「ですが、俺達が会ったのは初めてですよね? ……でも、不思議とそんな気もしないんですよね」
「お兄ちゃんも? 実は私も……凄く不思議な気分」
ミラリアだけではない。共に旅路を歩む家族もまた、当時の姿を彷彿とさせる。
少女と同じ銀髪をした母や兄も含め、不思議と因果のようなものを感じてしまう。
はたして、それはエステナではない『本物の神』が見せた奇跡か。偶然と呼ぶにはあまりに稀有としか言えない。
――今この魔王城で待ち続けた者達が面するのは、ミラリアが『平和な世界でやりたかった』という『もしもの未来』であろう。
「……フューティさん。この子と家族さんには、あの歴史を語ってもよろしいのでは?」
「ええ、私もそう思っていましたよ、トトネさん。……少しばかり、私から昔語りをさせてはいただきませんか? あなた方を見てると、私もどうしても語りたいことがありまして」
ならばこそ、この家族には語りたい。歴史の真相を知る資格は、当時の少女の面影が重なる者にこそ語りたい。
世界を知り記録に残し、当時のミラリアと同じように旅してきた足跡。そこもまた、魔王が歴史を語るに値する資格と言えよう。
「ほう。魔王様の知る歴史には門外不出も含まれると聞いたが、よもやワシ達に語っていただけると?」
「なら、昔に『神様へ挑んだ人の神様』……だったっけ? エステナ教団でも聞いたあの話、詳しく聞いてみたい」
「俺もかの英雄様がどんな人か知りたいな。一説によると、今のお前ぐらいの少女だったとか? まあ、英雄様がこんなチンチクリンなはずないけどさ」
「……お兄ちゃん、意地悪。もしかしたら、英雄様だって私みたいにチンチクリンのアホ毛ピョコピョコだったかもしれない」
「これこれ、二人とも静粛にせぬか。魔王様がせっかく語ってくださるというのに……」
この家族が当時生きた者達が生まれ変わったと断言する要素はない。
当時のことなど知るはずもない今生なれど、フューティとトトネは優しく口を開いて語っていく。
「このお話はしっかり聞いてくださいね。私も下手に語るは忍んできたものでした」
「うん。耳の穴カポカポのアホ毛ビンビンで聞く。約束だって守る」
「ウフフ、本当に……いい子ですね。あなたならば、彼女と同じく正しい道を選べるでしょう」
今の世に至るまで、楽園が打ち壊した理は確かに修復されてきた。楽園の真実もエステナという神の正体も、今の時代には不要なものでしかなかった。
だからこそフューティも口にしなかった歴史。それでも、思うところがあれば語りたくなるのが人間。
――何より、アホ毛を弾ませる少女を前にして『語らない』という選択はできない。
「もしかすると、あなたこそが――」
「むう? ふえ? 私が――」
こうして続いた時代とて永遠ではない。いずれまた困難に見舞われることもあるだろう。
しかし、人も世界もそのたびに乗り越えることで先を掴んできた。感じる中で手にした進化が、未来の流れを育んだ。
永遠の安寧などなく、激動する心にこそ可能性の原石が眠る。人々で手を取り合い、苦難さえも打ち砕いていく。
かつて装置からか神からか生まれた人の少女も、そうして今の世界を築き上げた。それは今もこれからも変わらない。
それこそが多くの生命と感情に溢れる世界。そして――
――少女が魔剣と共に目指した楽園だ。
◇=〈Fin〉=◇
これにて「少女は魔剣と共に楽園を目指す」の物語はおしまいです。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
元々はノベルアッププラス様の方で連載を開始し、ノリで続けたらコンテストで最終選考まで残ったり120万文字まで到達してしまった思い入れの深い作品ですので、他所へも公開して読んでもらいたかった作品でした。無駄に手間取ってしまいましたが。
ちょっとした哲学と清濁織り交ざった世界の真相。テーマとするならば「生きるということ」……ってのは、ちょいとクサいですね。はい。私、そんなガラでもないですし。
でも書いてみたくなった結果がこの作品。創作は自由だ!(`・ω・´)
普段はノベルアッププラス様で活動しており、100万文字を超えて完結した作品はこれで3作目になりますね。(1作は処女作で荒が目立ちすぎるため、小説家になろう様には未掲載)
今後も長編が完結すれば、転載も視野に入れて行こうと思います。今度は執筆中の草野球ラブコメになるかもです。(WBC熱で書き始めて現在70万字ほど)
では、また別の機会にお会いしましょう。誰よりも人間であった少女の冒険譚、これにて閉幕です。
最後にもう一度、改めてありがとうございました。(`・ω・´)ゞ




