その巨人、転移魔法を使う
謎の岩石巨人が使う転移魔法にミラリアも巻き込まれて――
「くうぅ……!? 下手くそな転移魔法……!? ツギル兄ちゃんの方がずっと上手い」
岩石巨人が展開した転移魔法に巻き込まれ、私も一緒にどこかへ転移させられてしまう。
ただ、岩石巨人の転移魔法が下手くそすぎる。ツギル兄ちゃんは一瞬で目的の場所に行けるのに、こっちはグニャグニャした空間に流されてしまう。
なんとなくだけど、これは転移魔法の通路っぽい気がする。ツギル兄ちゃんはそんなものを通った感覚さえ与えないのに。
「グオオォォ!」
「魔法を唱えた本人も空間の流れに乗れてない。……凄く滑稽」
岩石巨人も私と同じく、転移魔法による空間に流されている。こいつ、魔法は下手くそっぽい。やっぱりパワー馬鹿だ。
今はこっちも身動きが取れないけど、流れの先に光が見える。多分あれが転移魔法の終着点。
仕掛けるならば転移し終わった後だ。そこでなら私も体の自由が利く。
ただ、一つだけ気になることがある。
――この転移魔法はいったい、どこを目指しているのだろうか?
カッッ!!
「……とりあえず、到着した。一安心」
「グオオォ!」
「そして、やっぱりこいつは襲ってくる。でも、もう容赦しない」
乱暴な転移魔法だったけど、辿り着いた先で地に足をつけることはできた。そこは安心だけど、状況自体はさっきと変わらない。
ここがどこかは後で判断しよう。この岩石巨人もうざったいから、ここで早々に斬り伏せる。
ズパンッッ!!
「グオ、オオォ……」
私自慢の居合による一閃。村の結界は破れずとも、石を斬るぐらいは造作もない。
素早く抜刀し、納刀に戻った頃に聞こえるのは岩石巨人の呻き声。実にあっけない。
この程度なら、実力はツギル兄ちゃんの1/20、スペリアス様の1/100といったところだろうか。
「これが村の外にいる怖い魔物だったとしたら、凄く拍子抜け。私でも全然戦える」
あっけなかったけど、ちょっと自信はついたかも。この程度の相手ならば、今の私には造作もない。
この成果をスペリアス様に伝えれば、修業期間も短くて済むかもしれない。あの人には早く認めてもらいたい。
そのためにも、早く家に帰ろう。転移魔法で洞窟の外に出てしまい、顔を上げれば空が見える。これなら歩いて帰れそうだ。
「お、おい!? 今のはどういうことだ!? あの少女は何者だ!?」
「転移したデプトロイドを一瞬で真っ二つに!? 剣筋も見えなかったぞ!?」
「あのデプトロイドの強度をだと……!? 一緒に戻ってきたことといい、本当に何者なんだ……!?」
そう考えて陽が沈み行く空を見上げていると、周囲から驚きの声がワヤワヤ聞こえてくる。
いったい、何に驚いてるのだろうか? 『デプトロイド』とか言ってるけど、それって何?
――いや、今の私にはそれ以上に不明なことがある。
「ここ……どこ?」
私が今いる場所なのだが、慣れ親しんだエスカぺ村ではない。周囲から聞こえてくる声も初めてのもの。
よく周囲に目を配れば、何やら大きな壁で覆われている。敷地も広い。こんな場所、エスカぺ村にはない。
「ねえ、おじさん達。ここはどこ? エスカぺ村は?」
「エ、エスカぺ村? き、聞いたことのない地名だ……」
「まさか、デプトロイドの転移魔法に巻き込まれたのか?」
「するとこの少女、まさかエデン文明とも関りが……? さっきの剣技にしても見たことがないぞ……?」
周囲の見慣れないおじさん達もこっちに来るので、とりあえず尋ねてみる。でも、きちんとした返事が来ない。
質問したのだから、しっかり答えてほしい。さっきから『デプトロイド』だとか『エデン文明』だとか知らない単語も出されて、私はチンプンカンプン。
「ここがどこか教えてほしい。エスカぺ村はどっち?」
「お、落ち着いてくれ! 我々は君に危害を加えるつもりはない!」
「か、変わった形状の剣だ……。刃を見せない構えといい、これもエデン文明の一つか……?」
全然会話ができないから、私もちょっとイライラしてきた。居合の構えをとり、おじさん達を威圧してみる。
このおじさん達、服装にしても初めてみる。あっちもあっちで私のことを初めて見たのは分かる。
ただ、どちらかというと『私の剣技も存在も全部初めて見た』って感じ。未知との遭遇にビックリしてる。
それについてはこっちも同じだけど。
――この人達、何者だろうか? なんだか不安で怖くなる。
「者ども、落ち着け。その少女も怖がってるじゃないか。ここは僕が応じる」
「レ、レパス王子!? 大丈夫なのですか!?」
「大丈夫だ。彼女もただ怯えているだけに過ぎない。敵意を見せずに接するのが正解だ」
おじさん達と睨み合ってると、後ろの方から誰かが歩み寄ってくる。
姿を見てみると、その衣装は一際豪華。キラキラしてるし、背中にハタハタとマントを身に着けてる。
他の人と見比べて一目瞭然な偉い男の人。年齢的にはツギル兄ちゃんと同じぐらいだけど、いったい何者だろうか?
「僕はこのディストール王国王子のレパスという者だ。よかったら、君の名前を教えてほしい」
「ディストール王国……?」
外の世界に出ちゃった。