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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
499/503

{少女の望んだ世界}

「ミラリアちゃんが望んだ通り……ウチらだけで生きてくってか……」

「言いてェことは分かるが、今はそんな気分にもなれェなァ……。ミラリアちゃんのことを……忘れられねェ……」


 フューティが紡いだ言葉こそ、ミラリアも望んだ未来。妹のように慕った少女の想いは、魔王となった姉が理解していた。

 ただ、語られても素直に受け入れられるものではない。ロードレオ海賊団を始め、者達はどよめくばかり。


「ミラリアちゃんのことを――お兄さんと一緒に世界を守ってくれた少女のことを、忘れる必要はありません。……むしろ、忘れてはいけません。『人の完全な死』とは、人々に忘れられてしまった時。だから……私達でずっと覚えておきましょう。魔剣と共に誰よりも世界を愛した少女の物語を……!」

「ミラリアのことを……忘れない……」

「そう……だよな。俺達がずっと悲しんでたら、天国のミラリアも浮かばれねえ」

「心の傷が癒えるのに時間はかかるでしょうが、忘れるはずがありませんの……! ミラリア様のことも……ツギルさんのことも……!」


 それでもフューティは新たな言葉を紡ぐ。先代魔王であるゼロラージャから引き継いだ記憶が、今後の在り方を教えてくれる。

 忘れられないからこそ、皆は悲しみに沈む。されど、沈んだままでは人は生きていけない。

 苦難を乗り越え何度も立ち上がり、間違えながらも進化を求める。それこそが生命の在り方にして、世界を紡いでいく生き様。


 ――そのことはミラリアが教えてくれた。無形の神から生まれた少女の旅路こそ、世界が歩むべき姿であった。


「……わたくし、決めましたの! ミラリア様の活躍を後世にまで語り継ぎますの! ミラリア教団の教えを――ミラリア様が旅の中で培った経験を、もっと世界へ広めますの!」

「……ああ、シャニロッテちゃんの言う通りだ。振り返って嘆こうとも、前を見るのはやめちゃいけねえ」

「アタイも同感さ。……だけど、ミラリアって神様扱いされるのを嫌ってなかったか? 『ミラリア教団』なんてものが後世に残って、ミラリアが神様として崇められ続けるってのは……どうなんだろ?」

「あくまでミラリアちゃんは『人間の少女の英雄』ですからね。神はエステナのままでよろしいかと。……『誰が神なのか』は重要でなく『誰のおかげなのか』が重要なのです。私達は絶対に……ミラリアちゃんを忘れません」


 少しずつであれど、箱舟の者達は未来も受け入れていく。悲観する結末があれど、次に目指すべき在り方を求めていく。

 まだ先は長くても、ミラリアの願いは形になりつつある。彼女が愛したこの世界を、今後も繋いでいくために。


「……よっしゃ。ウチも変にクヨクヨすんのはしまいにするか。まずは全員を箱舟で故郷へ送り届けなな。ニャンニャンパラダイスがどないなってるかも気になるし」

「いやァ……そこは『ロードレオ海賊団が』でいいんじゃねェですかねェ? 本当にこの人は、何があっても頭の中ピンク色で焦るぜェ……」

「フフフ、少しはいいじゃないですか。……ミラリアちゃんが望んだのは、私達がこれまで通り生きることでもありますから」


 受け入れた未来は、沈んでいた皆に少しずつ元の明るさを取り戻させていく。わずかな笑顔に笑い声も零れ始め、再び元の道筋へ戻っていく。

 悲しむのは人の性。されど、悲しむばかりで掴める未来はない。

 世界はこの苦痛を乗り越える必要がある。闇瘴という遺恨もなくなったこの世界で、これからも生きるために。


「ところで……フューティ様。あんたはこれからどうするんだい? エステナ教団もなくなっちまったし、それ以上に魔王だし」

「聖女の役目はとうに終えてます。今後は魔王として、魔王軍に身を置くしかありませんね」

「そうは言いますが、魔王軍って『闇瘴を浄化するため』に存在してたはずですの。ミラリア様のおかげで闇瘴はなくなったので、今後はどうしますの?」

「まあ、魔王というのは魔物の王様です。一国の主としての役目はありますね。……それともう一つ、私も個人的にやりたいことがありまして」

「個人的に……ですか? 魔王としてではなく、フューティ様が?」


 ロードレオの手により、箱舟は空を漂って各人の故郷を目指す。別れの時が近づく中、ふと気になるのはフューティの動向。

 魔王という存在へ転生したことで、この中の誰よりも異端と言えば異端な境遇。新たな生活を考えると、皆も心配に思うところはある。

 しかし、フューティ当人に不安はない。それどころか、他の誰にも描けない未来絵図を頭に浮かべている。


「魔王の寿命って、とっても永いんです。これまでは闇瘴浄化で寿命を縮めていましたが、今はその必要もありません」

「長寿なのは羨ましいが、それもそれで寂しかったり面倒じゃねェかァ?」

「そうでしょうね。寂しくなると思います。……ですがどれだけ長い時を待ってでも、もう一度会いたい人がいます。もしかすると、魔王と同じような輪廻転生も……」

「ん? それってもしかして――ああ、いや。ウチも下手に口にするより、胸の内に留めとくわ」


 フューティにも確信などない。それでも待ち続けたい。

 自らが魔王となったように、人の命とはどこかで巡るもの。そう信じた上で、目指したい未来がある。


 ――かの兄妹が再びこの世界へ生まれ落ちるという希望を求めて。




「ミラリアちゃん、ツギルさん……また会いましょう。私も忘れることなく、あなた方を待ち続けます……!」

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