{少女のいなくなった世界}
ここから三人称によるエピローグ。
◇ ◇ ◇
「な……なあ!? ミラリア達はどうなったんだよ!? 無事なんだよな!?」
「今……空の彼方で何かが輝くのが見えたが……あれって、ミラリアの仕業だよな……?」
「そうであってもなくても、無事に決まってますの……! ミラリア様もツギルさんも帰ってくると約束しましたの……! さ、さっきのだって……タチの悪い冗談に決まってますの……!」
ミラリアとツギルの兄妹が挑んだ最後の舞台。エステナが用意した世界を崩壊させるための闇瘴。全ての事情を箱舟の者達は理解できずとも、確かにミラリアが自分達のために戦ってくれていることは理解していた。
しかし、場所は大地をはるか離れた宇宙。わずかに目で見て取れるのは、何かが太陽と重なるように燃え尽き輝くような光のみ。
「……私には感じられます。今この世界には闇瘴の気配がありません。ミラリアちゃんとツギルさんがエステナとの決戦に赴いた頃から弱まってましたが、それが完全に潰えたと見えます」
「だ、だったら、ミラリアが勝ったのは確かなんですよね!? 元凶のエステナがいなくなったから、闇瘴も完全に消えて――」
「……いえ、エステナが消えたとしても、闇瘴がなくなるわけではありません。だから……闇瘴がなくなったのはやはり……」
唯一、フューティだけは何が起こったのかを朧気ながらに理解できる。かつて聖女だった魔王は、闇瘴の気配を敏感に察知できる。
はるか宇宙で巻き起こった何かが燃え尽きる光も、全ての闇瘴が焼失したからだと予測できる。偽物のエステナとなっていた時の記憶も含め、フューティはこの中で誰よりも推察を重ねられる。
――そして、それがミラリアが遺した最後の言葉とも重なることを。
「ミラリアちゃんとツギルさんは……闇瘴と共に……太陽によって燃え尽きました……。この世界を守るため……その身を賭して……」
「そ、そんな……嘘だろ……!?」
「ミラリア様と……ツギルさんが……!?」
重い口取りでフューティが語る通り、エステナに挑んだ二人の兄妹はもうこの世にいない。他の者達にしても、ミラリアの言葉から推察できなかったわけではない。
ただ認めたくなかった。認めるわけにはいかなかった。自分達の平和のため、親しい人間がその身を犠牲にしたなどと考えたくもなかった。
――目を背けていた真実が、フューティの言葉でとうとう心の中へ入り込んでしまう。
「世界を……守るためやて……? せやかて、美談にはならへんやろ……。なんで……なんでミラリアちゃんが……!?」
「……あんなに真っ直ぐな少女が……オレらなんかのためにィ……!」
ロードレオ海賊団も含め、箱舟の上には暗い影が落ちる。
呆然自失とする者、涙を流して崩れ落ちる者、己の無力さに打ち震える者。皆が皆、ミラリア達の死を悲しまずにはいられない。
魔剣を携えた幼い少女は、旅の中でたくさんの出会いを経た。旅の果てに己の出生を知り、自らの意志で運命を選択した。
その選択には愛する母の想いもあれば、出会った人々や世界そのものへの感謝もあった。本来は人ではないのに、同じ存在とも言える神へと挑んだ。
そして神に勝利し、世界を救った。進化の歩みを止めなかった少女は『誰よりも人間』になっていた。
――それゆえ、残された者達の悲しみも大きい。誰よりも人間だったがために、誰よりもその死を悲しまれた。
「ミ、ミラリア……そんな……。こんなので世界が救われたって……アタイは……!」
「クソォ! どうしてミラリアが犠牲になんだよ!? せめて俺が代わりに……なれれば……!」
「い、嫌ですの……! ミラリア様もツギルさんもいない世界なんて……わたくし……!」
箱舟にこの大戦の勝利を祝う気配などない。あるのはただ、最も大切なものを失った苦悩のみ。
救われた世界に残されたのは、希望の未来ではなく後悔という無念。晴れ渡る空と違い、その気持ちが晴れることはない。
「……皆様、立ち上がりましょう。そして……乗り越えましょう。ミラリアちゃんがツギルさんと共にここまで体を張ったのは、私達が嘆き悲しんで立ち止まるためではありません」
しかし、そんなことはミラリアとツギルが望んだ未来ではない。二人は死ぬ間際まで、この世界を守ることを考えていた。
フューティもそのことを理解し、溢れる悲しみを堪えて口を開く。その姿はかつての聖女としての聡明さか、新たに魔王となった偉大さか。
苦しさを乗り越えて先を見据え、残された者達が本当にするべきことも見据えている。
――『どれだけ苦しくても目指すべき道がある』ことは、ミラリアという『人間の少女』が教えてくれた。
「私もお二人の犠牲については……言葉にできません。……ですが、やるべきことだけは分かります。私達は立ち上がらなければいけません。……ミラリアちゃん達が命を賭してまで守ってくれたこの世界で……望まれた通り生きるために……!」




