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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
497/503

その少女と魔剣の兄、世界を守る

過去の因果と共に、少女と魔剣は全てを終焉へ。

【よし……予想通り、俺なら繋ぐことは可能だ……! ミラリア……後を頼む……!】

「ありがとう……ツギル兄ちゃん。……私の頭にも、使い方が流れ込んでくる……! 初めてのはずなのに――いや、これが創世装置本来の……!」


 床に刺した魔剣(ツギル兄ちゃん)を通し、ここの中枢にも入り込めたみたい。エステナが口にしてた不思議な言葉が、意味の伴った知識となって使い方を教えてくれる。

 きっと今私の頭に入って来たものこそ、創世装置としての能力みたいなもの。記号のような言葉で、ルーンスクリプトも混ざり込んでる。

 それらを実際に使える形で覚えられるのって奇妙な感覚。これも私がエステナだからこそか。


 ――問題ない。エステナみたいに、私にだって制御できる。


「……システムの権限を移行! 私が――ミラリアが……新たなエステナとして認証! 降下停止! 軌道修正開始! 目標……太陽へ!!」



 ゴォォウ



【よし……動いたぞ……!】


 思うがままに必要な言葉を口にすれば、室内の赤いチカチカも収まってくれる。同時にこの場所全体が反対方向へ動いたのを感じられる。

 透明なドームから外を眺めれば、私達の住んでた世界が少しずつ遠のいていく。落下して闇瘴をばら撒くことは避けられた。


 ――そして、新たに向かい始めた先にあるのは大きくて赤く燃え盛る太陽。私達と闇瘴を焼き尽くす焼却炉だ。


「ハァ、ハァ……あっ……」



 ――ドサッ



【ミラリア……疲れが限界に来たか……。まあ、俺もだがな……】


 太陽へ向かったのを確認すると、一気に襲い掛かる疲労感。背中から床へ崩れ落ち、魔剣を力なく横たえる。

 自慢のアホ毛も完全にシナシナ。顔の上へ垂れかかり、いつもみたいに動かすこともできない。

 もっとも、それは全身にしても同じこと。起き上がるどころか、魔剣を握る力さえ残ってない。

 ツギル兄ちゃんも過度な消耗で限界っぽい。私もツギル兄ちゃんも、ここまで気力で持ちこたえてたに過ぎなかったか。


「ハァ、ハァ……こんな状態だと……仮に帰る方法があっても……体がついて行かない……」

【ミラリア……お前はよくやった……。もう……『諦めるな』なんてことも言わない……。言えるならば……『お疲れ様』だ……。お前は……俺達の世界を救ったんだ……】

「うん……ありがとう。ツギル兄ちゃんも……お疲れ様……」


 太陽へ向かいつつあるこの場所で、ツギル兄ちゃんと最後の語らい。帰ることはできなかったけど、一番守りたいものは守れた。

 闇瘴についても、エステナが世界中からこの場へ集めてくれた。これ全部がなくなれば、世界は完全な形で『楽園を生み出した忌まわしい過去』から切り離される。

 今の世界は『新たな形で正当に進化した楽園』だ。もう過去の不純物が進化の礎になる必要もない。

 これから先の世界を歩めないのは悔しいし、望むならば見てみたい。だけど、これが私にできる精一杯。


 ――エステナという神様として、最後に世界を守る役目を果たせた。




「……ねえねえ、ツギル兄ちゃん。私もエステナも……世界では神様と呼ばれる存在だった。でも……それって『存在が神様っぽい』ってこと……だよね?」

【ああ……そうだな。つまり、お前やエステナとは別に……『本物の神様』という存在も……いるのかもな……】




 最後の最後で少し気になったのは、エステナ(私達)を神様と定義する理由。私も神様って『世界を創った存在』ぐらいには認識してる。

 確かにエステナは世界を創った。楽園に始まり、これまで生きてきた世界もエステナの存在あってのこと。

 でも、もっと昔に――それこそ、古代よりも前に世界を創った誰かがいたかもしれない。遠く離れていく故郷――青くて丸くて美しい世界を。それこそが私達の定義する『本物の神様』というものだろう。

 実際にはいないのかもしれない。みんなが世界を見ていく中で、そういった存在を信じたくなっただけかも。そういう『思い描く願い』ってのも、人間だからこそか。


「もしも本物の神様がいるなら……一つだけお願いしたいことがある……」

【ああ……この際だから口にしておけ……。太陽が近づいてるからか……どんどんここも熱くなってきた……】


 ならば、私も一つだけ願わせてほしい。太陽にもかなり接近して、全身がジリジリ焼ける感覚もしてくる。

 体はもう動かないし、できることなんて願うだけ。だけど、死ぬ前にどうしても願いたいことがある。


 私は装置から生まれ、人間として育った。スペリアス様を育ての親として、ツギル兄ちゃんと一緒に兄妹として育ててもらった。

 楽園を目指す旅の中では多くの人々に出会い、広がる世界という神秘に触れられた。生きることが壮大な旅路で、全部が全部宝物だった。

 それらこれまでの人生に後悔はない。ワガママ言ったり苦しかったことも多々あれど、私は『ミラリアという人間の人生』を誇りに思う。




 ――だから、神様。もし可能ならば、私の願いを聞き入れてほしい。




「もし……生まれ変われるなら……もう一度……人間として――」

さらば、ミラリアにツギル。

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