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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
496/503

その少女と魔剣の兄、帰れない

これが人間として生き、かつて装置だった少女の選んだ結末。

【か、帰れないって……何言ってんだよ!? 戦いは終わったんだろ!? なら帰ってこいよ!】

【そうだぞ、ミラリア! お前が帰ってこないと、勝利を祝うこともできねえ!】

【早く帰ってきてほしいですの! 転移魔法なり何なり使えば……!】

【私とも約束したじゃないですか!? どうか……どうか帰ってきてください! お願いです!】

「ごめんなさい! 本当に……ごめんなさい! もう……これしか方法がない! 今回だけは……約束を破らせて……! このままじゃ、みんなも世界もおしまいになる……!」


 私の言葉を聞けば、箱舟で待つみんなが口を揃えて拒んでくる。私だって本当は帰りたい。今すぐにでも、みんなのところへ。

 だけど、そもそもの帰る手段がない。宇宙からみんなのいるところまでは、転移魔法を使っても遠すぎる。

 何より、私がこの場を離れるわけにはいかない。制御してたエステナがいなくなったことで、すでにこの場所も墜落を始めてる。

 ゆっくりなんかじゃない急降下。周囲のチカチカが赤く点滅し、危険な匂いがアホ毛にもプンプン漂ってくる。


 ――そして当初の目的通り、地上を世界中からかき集めた闇瘴で焼き尽くす。エステナが死ぬ間際にした後悔が現実のものとなる。


【エステナもとんだ置き土産をしてくれたな……。もっとも、あいつだって芽生えた自我と本心に苛まれ、どうしようもなくなってたんだろうな……】

「エステナのやったことは悪いことだったけど、全部を責めるのは何か違う。……それに、これはチャンスかもしれない。今ここにある闇瘴を全部処分できれば……!」


 エステナが『世界を壊してやり直したい』って考えたのは、独りぼっちで広がる世界を知らなったから。私が傍へ寄り添うのが遅かったから。

 ならば、この処分をするのは私の役目。私だってエステナだから、創世装置としての能力でここを制御することだってできるはず。

 これまで世界中に蔓延ってた闇瘴は、エステナの手でこの宇宙へ集められた。だからこれを処分すれば、過去から現在へ繋がる歪んだ因果を断ち切ることだってできる。


 ――そのための手段も思いついてある。




「私とツギル兄ちゃんは……これからこの場所にある闇瘴と一緒に……太陽へ突っ込む!! それで闇瘴を……全部処分する!! 私達兄妹と……一緒にぃぃいい!!」

【みんな……本当にすまない!! でも……これしか方法がないんだ!! こうでもしないと……世界を救えないんだぁぁああ!!】




 私がエステナに代わり、この場所の軌道を地上から太陽へ変更。そのまま太陽へ突っ込ませる。

 天閃理槍だって太陽の力で放ってたし、太陽そのものとなればその威力は絶大。いくら闇瘴でも燃え尽きるに決まってる。


 ――ただ、それは私とツギル兄ちゃんも一緒になってのこと。私達もここで闇瘴と共に滅びるしかない。


【闇瘴と一緒に……太陽へ……!?】

【な……何を馬鹿なこと言ってんだ!? ミラリアァァアア!!】

【そんなことしなくてもいいですの! お願いですから……帰ってきてほしいですのぉぉおお!!】

【ダメです……ミラリアちゃん……! あなた達兄妹が犠牲になることは……!】


 その話を箱舟のみんなが耳にすれば、声を揃えての断固拒否。そう言ってくれることはありがたいし、できることならそうしたい。

 でも、世界を守ることと秤にはかけられない。どれだけ怖くても、どれだけ止められても、ツギル兄ちゃんと一緒にこの役目を全うするしかない。


【お、おい! トラキロ! もっともっと箱舟を上昇させるんや! ミラリアちゃんに届くまで……もっとやぁぁああ!!】

【さ、さっきからずっとやってまさァ! だが……箱舟の高度もこれ以上はァ……!? あ、上がらねェェエ!?】

【ク……クソがぁぁああ!!】


 ロードレオのみんなも必死になって箱舟を上昇させるけど、宇宙という場所へ至るには雀の涙。どう足掻いてもここへ辿り着くことはできそうにない。

 もう全部受け入れるしかない。みんなと交わした約束も、今投げかけられるお願いも、私は全部破らせてもらう。

 それだけの理由がある。そうしたいだけの気持ちがある。


【みんな……最後に聞いて! 私のために……最後までありがとう! 言うこと聞かなくて……ごめんなさい! 私は……本当に……私はぁ……ああぁ……!】


 泣きじゃぐりながらも必死に絞り出すのは、私が死の恐怖よりも優先したい感情。ここへ至るまでの全てに対する感謝の気持ち。

 神様ではなく人間として、愚行か美談かの判断も超えて、この気持ちがあるから私は最後の役目へ挑める。


 だって私は――




「私は……この世界が大好きだからぁぁああ!! 楽しいことも苦しいこともいっぱいあって、いろんな人がいっぱいいるこの世界は……私にとっての……『楽園』だったからぁぁああ!! だから……みんなは絶対に……生き延びてぇぇええ!!」




 ――偽りの楽園から生まれて、本物の楽園へ辿り着けたんだから。


 『(らく)』じゃなくて、本当の意味で『(たの)しい』居場所。どれだけ辛い思いをしても守りたい場所。それがこの世界。

 私が生きた世界は、私にとっての楽園だった。苦痛から自我を得たエステナにしても、エステナから分離した私にしても、みんなのいるこの世界に憧れてた。

 そして、実際に生きることができた。長い長い旅路で、辛いこともたくさんあった。でも、言葉にできないほど嬉しくて楽しいこともあった。


 ――そんな世界をエステナ(私達)の暴虐で壊させはしない。


「お願い……みんな……私に……最後のワガママをさせて……! これで……う、うあぁ……さようなら……!」

【じょ、冗談だろ!? ミラリア――】

【何か別の方法が――】

【もっとみんなで考えて――】

【ミラリアちゃん! ツギルさ――】


 涙で顔をグチャグチャにしながら、これにてお別れの挨拶は終了。みんなはまだ物申したかったみたいだけど、お構いなしにこっちから連絡を終える。

 これ以上は私も辛い。みんなの姿を見てられない。決心もこれ以上は鈍らせたくない。

 連戦による過度の疲労、入り混じりすぎた感情。おかげでまともに体を動かすことさえ叶わず、手足も震えてしまう。

 それでも奮い立たせる最後の気力。ここまでやって役目を成し得ずに終わるのだけは絶対に嫌。


【……ミラリア、俺を使え。この場所がエステナのゲンソウ――魔法の原初で制御されてるなら、俺が仲介になって触れられるようにもできる。そこから先は……お前にしかできない】

「……うん、分かってる。ツギル兄ちゃん……最後までお願い。これが私にとって……最初で最後の……エステナ(神様)としての責務……!」


 ツギル兄ちゃんも覚悟を決めてくれたのに、私が挫けてたら意味がない。やり方についても私なら理解できる。

 魔剣をゆっくり鞘から抜き取り床へ突き刺す。レパス王子が一番最初にデプトロイドを使ってた時と同じ感じでやればいい。




 ――目指すは太陽。世界中から集まった闇を払える光の場所へ。

「世界を守りたい」という願いのために。

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