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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
495/503

その少女、最後の役目を果たす

最後の戦いに勝利し、エステナも終焉となる。

故に、残された「苦痛そのもの」も制御できない。

「私を……陥れた。……もしかして、この場所のこと?」

「うん……。こうしてアナタと語り合えるって分かってたら、こんなことはしなかった……。ワタシも夢見て憧れた世界を……ワタシ自身の手で……ああぁ……!」


 内心、こうなる予感はしてた。今でこそ後悔するエステナだけど、世界を壊して創りかえるって願望を抱いてたのは事実。

 もう霧となって消えそうなエステナが泣きながら語る言葉の意味は、節々だけでも理解できる。きっと、当初の計画では『私をここへ招き入れた時点』でほぼ完遂されてたんだ。


 ――そうやって『陥れた計画』は、もうエステナ自身でも止められない。


「ごめんなさい……! ワタシではもう――」

「大丈夫。私だって世界を守りたい。……だから、ここから先は私が受け持つ。あなたの後悔も自責も……理解した上で全部」

「うあぁ……ごめんなさいぃ……! せっかくアナタに会えて、ワタシ自身も理解できたのに……!」

「謝らくていい。……何より、最後にせめて私は感謝を述べたい。ここまでの全てを紡いでくれたあなたに――もう一人の私に」


 それでもやれることはある。私がいればまだ打開策はある。

 エステナがいなくなったら、その時は私が代わりになる。だから今は簡単にでも、これまで紡いできた気持ちをエステナへ送りたい。


 この世界はかつて人々の強欲で滅んだ。

 そこから異世界へ転生することで蘇ったのは、楽園から吐き出されたものが――エステナの存在があったからこそ。

 神様になろうとしたエステナは、内心で人間になることを目指してた。同時に、この世界も今の人間もエステナが起因して創られた。

 私という存在も、エステナがいてくれたから。エステナがいなかったら、私の存在も何もなかった。


 ――だから、別れる前にこの言葉を送りたい。




「エステナ……ありがとう。世界を……私を……創ってくれて……!」

「ワタシこそ……ありがとう。ワタシのことを……理解してくれて……!」



 サァァァ



【消えた……か。女神の――いや、エステナという人間の終焉……か】




 お互いに感謝の気持ちを述べたのと同時に、腕の中にあったエステナの肉体は完全に霧となって消えた。

 今度は進化なんてない。本当の意味で『エステナという自我を持った生命』の終わり。

 お互いに同じ存在だったのに、違う道を歩んでぶつかり合って、最後の最後に分かり合えても結末を変えるには至らなかった。どちらか一方の思想を選ぶしかなかった。

 結果、勝者は私。選定されたのは『今の世界を守る』という結末だ。


 ――ただ、そのために必要なことが残ってる。もう一人のエステナとして、どうしてもやるべきことが。


「ケホッ……ハァ、ハァ……。ツ、ツギル兄ちゃん……先に謝らせて……。私でさえできるのは――」

【皆まで言うな。お前がエステナの代わりにやろうとしてることは、俺だってとっくに理解できてる。……どのみち、こうするしかないんだろ? だったら俺も最後までミラリアに付き合う。むしろ一緒させろ。……俺は最後までお前の兄貴だ】

「……ありがとう。本当に……ありがとうで……ごめんなさい……!」

【まあ、フューティ様達に何も言わず……ってのは後悔が残るがな】

「それは私もそう。……ちょっと待ってて。今ならもう一度使えるかも……」


 納刀した魔剣を杖代わりに、最後の役目のために奥の方へ歩みを進める。ツギル兄ちゃんも私がやろうとしてることは理解してくれてて、先の結末まで受け入れてくれる。

 本当にいいお兄ちゃんに巡り合えた。宇宙なんて場所まで一緒に来て、全部受け入れてくれることがただ純粋に嬉しい。

 同時に怖さもある。寂しさも悲しさも後悔も。だからせめて、私達兄妹を待ってくれてる人に伝えておきたい。

 エステナも使ってた水晶はまだあるし、これなら連絡を取ることぐらいはできる。




【ッ!? み、みんな! またミラリアの姿が映ったぞ!】

【ミラリア様!? な、なんとボロボロに……!?】

【エステナは倒せたのか!? だったら早く戻ってきてくれ!】

【箱舟近くまで来れば、後はどないかして拾ったる! とにかく降りてくるんや!】

【さあ、ミラリアちゃんにツギルさん! 早く!】




 浮かぶ水晶に手を当て、繋がったのは箱舟の上。そこで待ってるみんなもこちらへ気づき、大声で呼びかけてくれる。

 ずっと私達の心配をしてくれてて、早く戻るよう両手を広げながら勝利の喜びよりも帰還を求めてくれる。

 私だって本当はすぐにでも帰りたい。『無事に帰る』ってのもみんなとした約束だ。約束は破りたくない。




 ――でも、今回ばかりは約束を破るしかない。世界へ落ちようとする強大な闇瘴を止めるためにも。




「みんな……ごめんなさい! 私とツギル兄ちゃんは……もう……帰れない!!」

エステナに代わって世界を滅ぼす苦痛を制御できるのは、同じエステナであるミラリアのみ。

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