その少女達、紛れもない人間にて
人間になりたかった神様。
「ワタシが……人間……? 装置でも神様でもなく……アナタと同じ……人間……?」
「うん。きっとあなた自身も『そんなはずない』って気持ちで、今までずっと認められなかった。でも、あなたが目指したのは間違いなく『人間そのもの』だった。芽生えた自我が心に矛盾さえ引き起こし、本心をも遠ざける姿……それもまた、人間らしさだと思う」
「あ……あぁ……!?」
振り返ってみれば、エステナの軌跡は私も歩んだ道のり。家族に本心を伝えられなった姿も、こうしてエステナが『何が何でも神様になってみせる』って気持ちと重なる。
そして、真実に気付けてなかったことも同じ。私の言葉を聞いて両眼を見開くエステナから感じるのは『言われてみればそうだ』といった感情。
やっぱり、エステナ自身も気付けてないだけだった。ディストールでの私と同じく、別の理想で本心を覆い隠してた。
――そんな姿を見れば、エステナが人間にしか見えない。装置とか神様でもなく、私と同じ『進化して人間となった自我』だ。
「ほ、本当だ……! ワタシ、いつの間にか人間になってる……!? アナタの姿を模して……こんな風になりたくて……! 自我が芽生えた時だって、最初は『この世界で暮らしたい』って気持ちだった……! なのに、ワタシは神様になろうとして……どうして気付かなくて……!?」
「きっと、あなたはずっと一人だったから、今の今まで気づくことさえできなかった。教えてくれる人がいなかった……。ごめんなさい……! 私もあなたを独りぼっちにさせてた……! 私がもっと早く気付いて、あなたのもとへ戻っていれば……こんなことには……!」
「ミ、ミラリア……?」
私とエステナの最大の違いは『傍で指摘してくれる人がいたかどうか』ってこと。だからエステナはたった一人で考え続け、歪んだ道筋を進むことしかできなかった。
意見してくれる人なんていない。頼れる相手なんて存在しない。楽園という箱庭に偶然生まれ落ち、右も左も分からぬままここまで生き続けて人間となった。
私にしても、エステナが『世界を守る』という命令と共に切り離したからこうして生きられてる。エステナのその行動がなければ、私も一緒に誰に指摘されることもなく、世界を壊す道のりを歩んでたかもしれない。
――でも同時に、私がいないことで『エステナをずっと一人にさせてた』って事実が辛い。
「私があなたの存在に気付いていれば……! 自分の正体を最初から知っていれば……! ううぅ……ごめんなさい……! 私があなたと一緒にいれば……こうして敵としてぶつかる未来だって……!」
「……泣かないで、ミラリア。多分……ワタシはずっと『アナタの言葉』を待ってたのかもしれない……。自分でも本心を言いきれないけど……今は不思議と嬉しい。アナタに負けてもう消えそうなのに……『誰かに指摘してもらえたこと』や『人間として認められたこと』が……どこか心地よい……」
「エ、エステナ……!」
もしも道が違っていれば、エステナ同士が対立することだってなかった。もっと私が早く楽園へ辿り着いていれば、エステナに声を届かせることだってできた。
でも、今となってはもう遅い。エステナという破滅を望む存在は、同じエステナである私が打ち倒した後だ。
本当に私って、終わってから後悔してばっかり。それでもエステナは力なくも笑顔を浮かべ、私の頬を流れる涙を拭いながら言葉を紡いでくる。
「ようやく……ワタシも理解できてきた……。そうやってアナタが後悔できるのも、人間だからこそ……。そして……ワタシにも同じこと。思い返せば、ワタシのやったことって本当に『楽園に逃げた人間』と同じ……! 自分の中の嫌な気持ちを……全部好き勝手にまき散らしてた……! 世界再編にしたって……ただ正当化するための方便だったのかも……!」
「……エステナ、あなたはやっぱり人間。後悔することもできて、ダメだったところを反省することもできる。……本当にもっと早く会いたかった。こんなに苦しそうに痛いことして、ごめんなさい……エステナ……!」
「ワタシこそ、アナタの気持ちを知らずに暴れてごめんなさい……ミラリア……!」
お互いに涙で顔をグチャグチャにしながら抱き合う私達――二人のエステナ。最初から今みたいに言葉を交わせれば、どちらかが滅ぶ未来だってなかったはず。
一緒に旅をしたり、双子の姉妹になれたかもしれない。美味しいご飯を食べて、楽しく語り合う未来だってあったかも。
ただ、こうするしかなかったのも事実であり、むしろこうしたことでようやく語り合えたとも言える。凄く気持ちに不器用で、後悔ばっかり募る生き方。
――だからこそ断言できる。私もエステナも間違いなく人間だ。
サラサラ
【エステナの体が……灰となって消えていく……】
「もう……時間切れみたい……」
そうして語り合えたのも束の間、エステナの肉体に変化が訪れる。その命がついに終焉を迎え、少しずつ霧となって消えていく。
装置から生まれ出でて神様を目指し、最終的に人間となったエステナ。姿形も含め、もう一人の私自身。そんな人にトドメを刺したことは、ただただ心苦しい。
でも、これが結末。世界を別つ戦いは、エステナの敗北にて幕を閉じる。
――ただ一つ、私にはまだ役目が残ってる。そのことは消えつつあるエステナも理解してくれてる。
「ミラリア……ワタシはアナタにもう一つ謝らないといけない……。ワタシはすでに……アナタ達を陥れる『最後の一手』を発動させちゃってる……!」
エステナが打った最後の一手は、エステナ自身をも後悔させる。




