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その剣技、まだ先がある

一度は聖堂へ戻り、ミラリアも治療を受ける。

「その薬、染みる。もうちょっと優しくして」

「ダメですよ。こういう怪我は放っておくと、後々もっと酷いことになりますから」


 巨大サソリの退治を終え、聖堂へと戻ってきた私達。マントも変装魔法も外して、久々に自慢のアホ毛が伸び伸びできる。

 フューティ様も早速薬を用意して、私の右腕をしっかり治療してくれる。魔法だけでは不完全だそうだ。

 でも痛い。染みる薬って嫌い。こういうのはエスカぺ村だけでなく、どこに行っても同じなのか。


【『痛い』ってのは『生きてる』って証だ。文句を言わず、フューティ様に治療してもらえ】

「むぅ……ツギル兄ちゃん、偉そう。自分は頑丈な魔剣だからって……」

【これでも痛い時は痛いぞ? お前がバンバンやる時なんか、振動が刀身まで来てたまったもんじゃない】


 椅子に座って治療を受ける私の横で、立てかけられたツギル兄ちゃんがあれこれ口にしてくる。

 分からなくはないけど、どこかフューティ様を立ててるみたいで気に食わない。そんなにフューティ様が気に入ったのだろうか?

 もしも治療中でなければ、またバンバンしていたところだ。確かにフューティ様のことは私も気に入ってるけど。


「ところでフューティ様、闇瘴って何? 私、そこをきちんと聞けてない」

「ああ、そうでしたね。あの時は必死でしたから。言うなれば『苦痛と恐怖を纏った闇』でしょうか。この世界のどこからともなく湧き出し、その地を汚染する脅威です。一説によれば、世界に蔓延る魔物も闇瘴から誕生しているそうです」


 とりあえず、今は騒動も終わって一息つけてる。いい機会だし、フューティ様に気になってたことを尋ねてみる。

 あのサソリを巨大化させ、強大な力も身に着けさせた闇瘴。私もこれまで魔物とはなんとなく戦ってたけど、闇瘴こそがその根源と言われてるらしい。

 苦痛と恐怖を纏ってるなんて怖い。その力で生き物を狂暴化させるのはもっと怖い。


「濃い濃度の闇瘴を受けてしまえば、先程のサソリのように狂暴化した怪物になってしまうこともあります。人間が受けてしまえば、苦痛と恐怖が病のように体を蝕みます。おまけに闇瘴は放っておけば、より被害を拡大させるばかりです」

「それを浄化するのが聖女であるフューティ様のお仕事。理解できてきた。確かにあれが広がると思うと怖い。……もしかして、エデン文明とも関わってる?」

「さあ……どうでしょうね? 闇瘴も魔物も、ずっと昔からエデン文明とは関係なく存在しています。関わってるとは考えにくいですね」


 さらに話を聞いていけば詳細も見えてくる。エスカぺ村にはなかったけど、外の世界にはずっと闇瘴の脅威があったのか。

 そう考えると、エスカぺ村は本当に平和だった。今になってまた名残惜しくなってくる。


 ――でも、一つだけ同じようなものがエスカぺ村にもあったのを私は知ってる。


「お社の地下に封印されていた影の怪物……。闇瘴にもあれと同じ気配を感じた」

【ミラリアもそう感じてたか。俺も刀身越しにそんな気はしてたんだ】

「ツギル兄ちゃんも? もしかして、影の怪物も闇瘴の一つだったりするのかな?」


 フューティ様の治療も終わりつつある中、ツギル兄ちゃんとも同じ考えが頭の中をよぎる。やっぱり、あの気配は私の気のせいじゃなかったんだ。

 影の怪物はエデン文明と一緒に封印されていた。それと同じものを感じる闇瘴だって、もしかするとエデン文明と繋がってるかもしれない。

 ちょっと気になる。調べてみる価値はありそう。


「それにしても、ミラリアちゃんが使った回復魔法を宿した一撃は見事でしたね。あの技がなければ危ないところでした」

聖天理閃(せいてんりせん)のこと? あれはフューティ様が剣術書を見せてくれたおかげ。うろ覚えだったけど、なんとか使えた」

【ミラリアは剣術の才能だけはあるからな。まあ、魔剣である俺の魔力あってこそだが】

「むぅ……ツギル兄ちゃん、自慢したがり。でも、実際にそうだから悔しい」


 それと今回、理刀流の技を使えたのも大きな収穫だ。あの時はうろ覚えの行き当たりばったりだったけど、もっと技を磨けば昇華できる。

 聖天理閃の一撃で邪悪な力を祓い、聖女パワーがなくても闇瘴を消すことだって可能なはず。これは今後のために必要だと思う。

 今回はフューティ様がいてくれたから良かったけど、再び旅に出ればそうはいかない。闇瘴は世界中にあるみたいだし、しっかり覚えておいて損はない。

 理刀流の技には魔法がないと扱えないものも多く、私の場合は魔剣での代用が必須となる。

 魔剣の扱いにしても、まだまだ私は甘い。もっと鍛錬を重ねて、最大限力を発揮できるようにしたい。


 ――ツギル兄ちゃんを調教してるみたい。


「もっとツギル兄ちゃんの調教――魔剣の扱いや理刀流の技も覚えたいし、どこか修練できる場所はないかな?」

【おい。今、俺のことを『調教する』とか言わなかったか?】

「気のせい。でも、今のままだと不安なのは事実」


 思わず思ったままの言葉が出そうになるけど、修練したいのは事実。このままだとまた闇瘴に出くわした時に不安だし、旅を続ける上でも必要なことだ。

 他の理刀流の技も含め、今のうちに鍛えるのも悪くない。旅の中では危険がいっぱい。そう何度も行き当たりばったりは成功しない。

 とはいえ、そんな都合のいい場所があるかも分かんない。


「修練できる場所……ですか。でしたら、私に心当たりがあります」

「え? そんな場所があるの?」

「ええ。私だけのちょっとした秘密の場所とでも言いましょうか。よければ、ミラリアちゃんを一度案内しますが?」

「行きたい。お願い」


 そうこう話をしてると、フューティ様が一つ提案してくれる。まさか本当にそんな都合のいい場所があるなんて、聖女様様である。

 ならば善は早し。フューティ様の秘密の場所ってのも気になる。きっと、素敵な場所なのだろう。

 まずはそこを見学してみて、実際に修練できるか伺うのが一番だ。




「この棚を押して……ありました。この階段から地下へ降り、通路を歩いた先になります」

【……これって、隠し通路ですよね?】

「コッソリ抜け出すために、頑張って掘りました」

「……これは予想外」

意外とアグレッシブな聖女様。

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