◆新生体エステナ・エゴ
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胎動に始まり慟哭を経て、神はより完全な形で新生した。
無意識衝動に目覚めた女神の自我へ挑むのは、鏡合わせとなるもう一人の女神。
兄という魔剣を手にして、星を超えた宇宙の中で始めるのは、世界を別つ最終決戦。
この戦いの結末が、世界の命運をそのまま決める。
――ラストダンスは剣舞と共に。
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VS 新生体エステナ・エゴ
「「ハァァァアアア!!」」
ガキィィイイン!!
同じ掛け声を上げ、同じように手にした刀を振るう私とエステナ。初手は互角で、辺りに衝突音が響き渡る。
向こうは二刀で私は一刀の居合。手数はエステナに分があるものの、剣速ではこちらが上。総じて互角といったところか。
「アナタにだけは負けない……! ワタシから零れて生まれた分際で……いい気にならないでぇぇええ!!」
「ッ!? こ、この太刀筋は!?」
【ミラリアの動きを見切ってるのか!? これまでの戦いで学習して!?】
ただ、エステナもこれまでとは別格と言っていい動きで対処してくる。こちらが納刀してガードに回ると、すかさず牽制を加えての追撃。
剣なんて初めて握るはずなのに、動きはまるで熟練の剣客と同等。スペリアス様にも引けを取らない。
エステナ最大の武器である『学習と急速な進化』が、最初のわずかな攻防だけでも読み取れる。
「アナタの技は全部学習してきた……! 進化を続ける私を前に、勝てるはずがない!」
「甘く見ないで……! 進化はあなたの特権じゃない……! それに……まだ見せてない力だってある!」
「ッ!? こ、このスピードは!? さっきまでより速い!?」
それでも、私だって負けない。負けるわけにはいかない。
今回は初手からツギル兄ちゃんと合体し、見切りも速度も段違いに向上。消耗なんて関係なく、ここで全てを決めるためだ。
ツギル兄ちゃんから力を与えてもらい、研ぎ澄まされた集中力。エステナの進化にも食らいつき、こちらも技を昇華させていく。
エステナがたった一人で進化を続けようと、こっちだって進化できる。ツギル兄ちゃんと一緒ならば、どんな実力差だって埋められる。
――気を抜けば負け。そんな限界極地な状況が、私をこれでもかと奮い立たせる。
「小賢しい……忌々しい……! どう足掻こうと無駄だって理解できないの!? だったら思い知らせてあげる! いくら元が同じでも、アナタはワタシが生み出した不純物……こんなことはできないでしょ!?」
バサァア!
「つ、翼が生えた!?」
【本当に……女神みたいな姿を……!?】
戦局は拮抗してて、エステナの攻め手も完全には届かない。そこに焦りか憤りを感じたのか、向こうはさらなる一手へ踏み切ってくる。
一度私と距離を置き、両腕を開いてからさらなる進化。白い私の姿に黒い翼を生やす姿は、まるで本当の女神みたい。
もちろん、ただ翼が増えただけじゃない。エステナ自身も自在に宙を舞い、上下の動きを加えられるようになってしまう。
人どころかあらゆる生命の進化を取り入れた生態系の頂点――神様。苦痛によって極まった進化は、想像できる全てをその身で体現できるということか。
「アナタに魔法は使えない。生み出す時、不要なゲンソウは極力取り除いた。……だから、こんな技は真似できない! 真似できない技にどこまでついてこれる!?」
ブゥゥウン――バシュンッ!
「この魔法陣は!?」
【フューティ様が使っていた槍の召喚!?】
同じ剣技という土俵では攻め切れないと感じたエステナ。そこで考え出されたのは、距離を置いての魔法攻撃。
しかも使ってくるのは、魔法陣から槍を召喚するというかつてのフューティ姉ちゃんも使ってたもの。あれにしたってセアレド・エゴが使っていた魔法だから、本体のエステナが使えてもおかしくない。
確かにこの技は私には真似できない。でも、ついて行けないわけじゃない。
ブゥゥ――パリィィイン!
「魔法陣ごと……斬り砕いた!?」
「真似できなくても、対処はできる……! この魔法だって一度は目にしてる……!」
スペリアス様から授かった理刀流は、ゲンソウの理さえも超える。いくら相手が『ゲンソウの頂点』と言えるエステナでも例外じゃない。
次々に魔法陣を召喚されようとも、槍の発射前に斬り砕いて封殺。エステナの攻撃は苛烈だけど、合体した今ならまだついて行ける。
向こうが神様としてその力を振るうなら、こっちは徹底的に人の技で抗ってみせる。それが今の私にできる全て。
――目指すはエステナを倒した先にある未来。そのためならば、ツギル兄ちゃんとどもにここで全てを出し切ってみせる。
「……なーんちゃって。それで破ったつもりなの?」
「……? 何を言って――」
ブゥゥ――ズバンッ!!
「あぐうぅ!?」
【ミ、ミラリア!? 後ろから!?】
エステナにも動揺を見せられたと思ったのも束の間、唐突に背中へ走る焼けるような痛み。どうやら背後から攻撃されたみたい。
さっきまで魔法陣の槍に気を取られて油断したか。気が付けばエステナもこっちの視界から消えている。
攻撃してきたのはエステナ自身。手に持った刀で斬りかかってきたことは理解できる。
ただ、今のは私にも見切れなかったこと。エステナは本当に『一瞬のうちで』私の背後へ回り込んでいた。
この技はまさか――
「これが最初のゲンソウ――本来生み出したかった力。人を転移させることこそ本懐。それは術者であるワタシも例外じゃない……!」
「まさか、自分自身を魔法陣に通して……!?」




