遥かな宇宙にて、神と人は衝突する星の如く
ミラリアが見てきたものは、エステナの理念を否定する。
「……ワタシのやってることが楽園の人間達と同じと? だけど、ワタシの計画は楽園なんてチンケな逃避とは違う。これから先の未来を見据えて、進化の極地へ至るための試練を――」
「世界の滅亡を試練と言いたければ言えばいい。でも『今までの世界が嫌だから』なんてのは、楽園の人間が抱いてた願望と同じ。同じように強欲に走ってるって……分からないの?」
「……チィ」
エステナも楽園の人間も、目指す未来が違っても『自分のワガママ』で野心を抱いてる。全部を自分達の思い通りに描こうとしてる。
でも、世界ってそんなものじゃない。私も人として生きて、旅の中で経験して、エステナとは別の進化を歩むことで理解を深めた。
先に何があるのか分からないのは怖い。ただ、怖さの中で一歩前へ出るか後ろへ下がるか判断することが重要で、最初から決められた道なんてない。
生きることに確かなレールなんてない。だからみんな悩むし失敗もする。楽園を創ったことも、エステナが目指す世界も、そういった『生きることの本質』を否定するようなもの。
「……つまり、アナタの答えは『ノー』ってこと? ワタシの計画をあくまで邪魔するってこと?」
「あなたが世界を闇瘴で焼き尽くそうとする限り、意地でも邪魔させてもらう。私はあなたとは別の進化を辿り、別の結論へ辿り着いた。……今の世界には、一度ゲンソウで滅ぼされた後で必死に生きてる人達がたくさんいる。私に手を差し伸べてくれた人達も――今もこの場で力になってくれる家族も」
エステナと私の考えは相容れない。仮に納得できたとしても、私にはもっと優先すべきことがある。
生みの親でもあるエステナと戦うことを決めたのは、これまで人間として生きてきた世界を守りたいから。その代表者とも言うべき人は、今でも私の傍にいてくれる。
――人としての兄、ツギル兄ちゃん。その魔剣を手に取り、共に心を通わせて言葉を紡ぐ。
「人としての形じゃない。人としての気持ちが――自我が大事。あなたが神様であろうとも、私も本当は同じ神様だろうと――」
【俺が魔剣であろうとも、やるべきことは変わらない。エステナ……お前に世界は滅ぼさせない。俺達はこの世界を生きていきたい。その邪魔なんかさせやしない】
「…………」
正直、御託は聞き飽きた。エステナが世界の破滅を願うなら、私は世界の守護神として立ち向かうまで。
私がエステナの『世界を守る』という命令から生まれたとか関係ない。ツギル兄ちゃんを始めとしたみんなのために、心から剣を振るいたいと思える。
エステナは苦い顔でこっちを睨むけど、納得してもらえなかったやるせなさもあるのだろう。元が同じエステナなのだから『分かってくれるはず』なんて期待を抱いてたのかも。
そういう様子が一目で判断できるぐらいに芽生えた感情。辿った道筋は違っても、エステナも私と同じく『生命としての自我』を手にしてることは理解できる。
――それでも――いや、だからこそ、相対する思想の上での対立は逃れられない。
「……みんな、私の声が聞こえる? 私、絶対にこの戦いで負けない。みんなと世界を守ってみせる。……そして、帰ったらまた一緒にワイワイご飯を食べよう。私もまた旅して……世界中のみんなに会いに行くから」
【今はどうか俺とミラリアの勝利を願ってくれ。約束は……必ず守る】
水晶から映し出された世界中のみんなにも声をかけ、絶対に破れない約束事。この宇宙という世界の果てにて、これから最後の戦いが始まる。
挑めるのは私とツギル兄ちゃんだけとはいえ、心は一つだ。みんなだって同じように思ってくれてる。
【ミラリア! 魔剣の兄貴! その約束、絶対に違えるんじゃねえぞぉぉお!!】
【どうか勝利を収め、わたくし達のもとへお戻りくださいませぇぇえ!!】
【みんな待ってるぞぉお! 神様なんかに負けんなぁぁあ!!】
【ミラリアちゃん、ツギルさん……! どうか……ご武運を……!】
私の声が届いてくれて、世界中のみんなが声援を述べてくれる。今の私にとって、それこそが最大の活力だ。
一人で戦ってるわけじゃない。多くの声援が背中を押してくれる。これほどまでに心の奥底が熱くなるのは初めてだ。
――世界の未来を創るのは、今を生きる人々の熱い気持ちかもしれない。
「……通信ホログラムを強制遮断。アナタが紡いできたものを、ワタシはこれ以上見たくない」
ただ、エステナはそれらを否定するばかり。無理矢理水晶の機能を停止させ、軽く浮きながらこのステージの中央へ動き始める。
私の勧誘を諦めはしたのだろうけど、その背中はどこか寂しい。みんなの気持ちで熱くなる私と違い、エステナの心はどこか冷たいところへ向かってる。
「内心、アナタが説得に応じない可能性は考慮してた。交渉が決裂し、最終的にここで決着をつけることになる気はしてた。……なのに、この気持ちは何? 予想できてたはずなのに、アナタを見てると苛立ちが止まらない……!」
「エステナ……」
エステナが滲ませるのは、自分でも制御できない感情の蠢き。まるでディストールにいた時の私みたいにも見える。
曲がりなりにもかつての私と重なる姿。白い私となったエステナには、否が応でも感じてしまうものがある。
「もういい……もうたくさん! 今はアナタと決着をつける! アナタとだけは個人的に雌雄を決したいのだけは事実! ワタシという神様の邪魔なんかさせない!」
キィン! キィン!
【武器を召喚した……!? 二刀流か……!】
ステージ中央に移動したエステナが用意したのも、魔剣と同じような二本の刀。向こうは左右の手に一本ずつ持っての二刀流だ。
これまでと違い、戦い方にも人間のような器用さが現れてる。私の姿だけでなく、技に関しても学習したと見た方がいいだろう。
「……ツギル兄ちゃん。ここから先、決着まで解除はしない」
【……ああ、それがいい。むしろ、そうするしかない】
サイズが小さくなったとはいえ、エステナはここに至るまで進化を繰り返した。苦痛の中で足掻きながらも、私に勝つためにずっと考えてきた。
その力の底は計り知れない。ならば、こっちも最初から全力で挑むまで。
魔剣を横一文字に構え、合体するための準備はできた。もうここまで来たら、出せる全てを出し切るしかない。
「私はあなたを止める。ツギル兄ちゃんと一緒に世界を守ってみせる」
「アナタにワタシは止められない……! 守りたい世界と一緒に消してあげる……! エステナは……二人もいらない!!」
世界が青い球体として浮かび、お日様が赤く燃え上がって見える宇宙という場所。そこに用意されたのは、エステナという神様が用意した決戦の舞台。
決めるのは世界の行く末。私が勝てば世界は破滅を免れるが、エステナが勝てば闇瘴で世界は破滅の苦痛で焼き払われる。
――二つに一つ。世界の命運は二人のエステナが定めることとなる。
スゥゥ――キィィィイインッ!!
「エステナァァアア!!」
「ミラリアァァアア!!」
私とツギル兄ちゃんが合体したのを合図に、正真正銘最後の戦いが幕を開ける。
長き物語における最後の決戦。決めるのは同じ装置から生まれた二つの自我。
さあ、今度こそ始めよう。正真正銘のラストダンスを……この宇宙で!!




