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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
486/503

◇進化シーケンス:慟哭Ⅲ

エステナが――創世の神が望むのは、愚かな世界の完全なやり直し。

 エステナの背後に浮かぶのは、まさに漆黒としか言いようのない塊。表面から放たれる禍々しい邪気のようなものが、アホ毛にもゾワゾワと伝わってくる。

 この場所を作り出す際、世界中からかき集めた闇瘴。その力を私達の住む世界へぶつけ、地表全てを苦痛の憎悪で焼き払おうという算段か。

 実際、それぐらいのことはできてもおかしくない。これまでの闇瘴とは根本的な密度が違う。


【こ、これを世界にぶつけるだって……!? い、いったいどうやって……!?】

「それは外を見れば分かる。アナタ達には信じられないかもしれないけど、今ワタシ達は本来の世界からかなり離れた場所にいる。……あそこを見て。あれがワタシ達のさっきまでいた場所――もとい、星」

「あ、あれは……!? 浮島で見せてもらった……!?」


 肝心の『世界へぶつける』方法についても、エステナは織り込み済み。全方位透明なガラスの壁の向こうをよく見ると、黒い空間に岩がフヨフヨ漂ってる。

 多分、これはさっきエステナが攻撃に用いてた『隕石』とかいうものだ。他の光景も含め、目に映りこむ全てが私の住んでる世界と全然違う。


 ――そして、本来の世界はエステナの指差した先――青い球体だ。ずっと浮上してたこの地は、いつの間にか大地どころか空をも超えていた。


「ここは『宇宙』って言うさらなる世界。あの隕石はアナタ達が夜空に見るお星様。反対を見るとお日様だってある」

「宇宙……太陽まで……!?」

【じ、次元が違うとかそんなレベルじゃない……! こ、こんな世界、誰も知るはずがない……!】

「昔の人間はこの宇宙を解明しようとしてたけどね。文明レベルは昔の方が上だった。……まあ、その文明が滅びの運命に繋がっちゃったんだけど」


 エステナには古代の知識がある。今の時代でエデン文明なんて呼ばれる知識をもとに、語り始めるのはこれまでの歴史。

 歴史研究が趣味のアキント卿ですら知らないことを、人間みたいに立ち上がってゆっくりクルクル歩きながら口を紡いでくる。


「競争して、戦争して、疲れて……人間の歴史なんて、そんなことの繰り返し。挙句ゲンソウなんて力を――魔法を生み出して、楽な道へ逃げようとした。だけどそのせいで進化を放棄して、一度世界を滅ぼしちゃった」

「……でも、世界は異世界へ転生することで蘇った」

「そんなこと言うけど、結局はまた古代の力で戦争してる。エステナ教団にしても、ワタシが焚きつけなくてもいずれ同じことをしてた。……人間はどこまで行っても人間。策を弄してやり直さないと、また同じことを繰り返す」


 復讐とは別にエステナのやりたいこと。本物の神様としてやるべきこと。

 世界を滅ぼすことは、ただ単純な自我の願望だと言いたくないのが聞き取れる。


 ――それこそ、過去を知る神様が抱く『人間に対する憂い』と言うべきもの。




「闇瘴で世界を滅ぼした後、闇瘴を肥料に新たな人類を創生する。自我さえも生み出すことを可能とした、苦痛という進化の原石。……その力をもってして、ワタシは『今までの人間を超える新人類』を神様として創造する。ワタシが一から作り直せば、新人類は新たなステージへ到達できる」

「新しい……人間……!?」




 エステナが目指す果てにあるのは、世界に対する『究極のやり直し』と言えるもの。

 かつて起こった異世界転生とも違う。あらゆる過去の痕跡を一度完全なゼロへと戻し、創世の力を有するエステナが再度組み直すつもりだ。

 焼き払った新たな世界には、闇瘴が新たな生体系を作る肥料として広がる。きっと、再編される世界も最初は地獄のような光景になるだろう。

 それでも可能性を見出したのは、エステナ自身が経験したから。苦痛の果てにある自我をも生み出す進化こそ、エステナの望みだ。


「これまでみたいに不完全な人間じゃない。ワタシが経験して学習した全てをベースとして、人間もあらゆる生命も――世界の全てを、完全な形で進化させる。本物の神様として世界の原初となり、同じ愚行を繰り返さない世界を実現させる」

「……そのためなら、今ある世界は捨てちゃうしかないってこと?」

「そうなる。この宇宙から闇瘴を地上目がけて放てば、世界は完全に終わる。助かるのはここにいるワタシ達だけ。……これらの点を踏まえ、もう一度アナタに問わせてもらってもいいかな?」

「……聞いてあげる」


 もしもエステナの計画が実行されれば、今私達のいる場所以外は破滅の闇で滅ぼされる。大切なみんなどころか、まだ会ったことのない人々も助からない。

 創造のために破壊を求めるのは、仮にも神様の由縁だろうか。そして、エステナが私をここへ導いた意図も見えてくる。




「ミラリア……アナタにもワタシと一緒に来てほしい。ワタシとは異なるアナタの進化は、新たな世界の役にも立つ。……今ここに再び分離されたエステナは一つの思想へ戻る。もう創世装置なんかじゃなくて『世界の原初の神様』となる。ワタシと一緒に世界を創り直そう……ね?」

ミラリアに――もう一人のエステナにも、その手が差し伸べられる。

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