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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
484/503

◇進化シーケンス:慟哭

創世装置エステナはまだ終わらない。

【な、なんだこの吸い込みは!? ミラリアだけを狙ってるのか!?】

「こ、これは……かつて私が受けたものと同じ……!? ミラリアちゃん、しっかり掴まっててください! 絶対に私から離れないでください!」


 私達の頭上まで浮かんだ球体からの吸い込みは、私だけを的確に狙ってくる。私もかつての記憶が呼び覚まされる。

 エスカぺ村のお社地下にあった封印の間。あそこにいたセアレド・エゴも、同じようにフューティ姉ちゃんを吸い込もうとしてきた。

 あの時と同じことができるのも、エステナという私やセアレド・エゴの本体故か。ただ、今回の狙いは完全に私一人へ絞ってる。

 フューティ姉ちゃんの背中にしがみついて耐えるものの、逆にフューティ姉ちゃんまで引っ張られる始末。このままだと一緒に巻き込んでしまう。




「……フューティ姉ちゃん。一つだけ約束しとく。私は何があってもみんなのもとへ戻ってくる。そしたら、旅もお話もいっぱいしよう」

「ミ、ミラリアちゃ――ま、まさか……!?」

「ツギル兄ちゃん、一緒に来てくれる? 先の見えない戦いだけど――」

【皆まで言うな。……俺も最後まで付き合わせろ。お前の兄貴だからな】




 ならば、やるべきことは一つだけ。エステナの望みが私一人なら、フューティ姉ちゃんは関係ない。

 ツギル兄ちゃんには魔剣として――いや、一番大切な家族として、どうしても一緒にいてほしい。ここから先が本当の決戦だからこそ、一緒にいてもらわないと私は戦えない。

 もう会えなくなっちゃたけど、スペリアス様の魔剣も一緒に携えた。できうる限りの準備を整えれば――



 タンッ!



「いってきます! 絶対に帰ってくるからぁぁああ!!」

「ミ、ミラリアちゃん!? ツギルさぁぁあん!?」


 ――フューティ姉ちゃんの背中を蹴り、吸い込む風に身を任せる。

 振り返ってる余裕なんてない。ただ、口にした約束だけは絶対に守ると心に決めた。

 見つめるべきはエステナが待ち構える球体の中。吸い込みと共に上昇を続けるその内部へ、私とツギル兄ちゃんだけで挑む。


「待ってるといい……エステナ。あなたが私との決闘を望むのなら――」

【俺達兄妹で相手してやる。破壊神に対抗する人間としてな】


 風の中を舞いながら、胸に抱くは戦いの誓い。二人だけで向かうのは、エステナが用意した決戦の舞台。

 地上どころかフューティ姉ちゃんと箱舟まで遠のいていくけど、エステナがご所望ならあえて従わせてもらう。


 ――世界を懸けた戦いは、この次で終わらせてみせる。





「中……真っ暗。何も見えないけど……?」

【先も見えないあたり、最初に楽園へ踏み入った時と同じものを感じるな……。とはいえ、あの時みたいに幻影の世界ではないか。俺とミラリアが会話できてるのがその証明だ】


 吸い込まれて導かれるままやって来たのは、エステナが作り出した球体の中。直前に闇瘴を吸い込んでたけど、肌に突き刺さる嫌な気配はない。

 ただ、中は一筋の光も差し込まないほど真っ暗。地に足がついてるのは分かるけど、方角もよく分からない。

 足元から持ち上げるような感覚が迫ってくるのは、今もなおこの場所がはるか上空を目指してるからか。さっきまでもかなり高い場所にあったのに、まだ上を目指してるみたい。


「……エステナ。あなたがここにいるのは分かってる。早く姿を見せてほしい。決闘がお望みなら、私は逃げも隠れもしない」


 このままでは埒が明かない。元凶であるエステナが姿を現さない限り、状況も何も判断できない。

 ここに招き入れたってことは、こっちの声も届くはず。私だって戦って決着をつけることに異存はない。


 ――そして、生きて帰る。守るべき世界を守り、みんなのもとで再び未来を生きてみせる。




【宇宙開発を急――他国に後れを――】

【ミサイルの技術――万一戦争――】

【何か争いを治める力が――】

【件の博士――ルーンスクリプトというもの――】


【な、なんだこれは……? 何かが空間に映し出されてる……?】

「これって……浮島で私が見たものと同じ? この世界の……過去の光景?」




 誓いを込めながらエステナを待ってると、当人ではないものが映りこんでくる。ところどころ見えづらいけど、浮島のスペリアス様が見せてくれたものと同じに見える。

 古代の人間が言い争ったり、競い合ったりしてる光景。やってることの詳細は分からなくても、みんなの心が『戦ってる』ってことは分かる。

 戦ってる相手は当時の時代の人間同士。魔王でも神様でもない。まるで、私達が戦ったエステナ教団みたい。


【もう疲れ――があれば、魔法として世界を――】

【しかし、ルーンスクリプトでどんな事態が――】

【だが、実現――ある。ルーンスクリプトで魔法を開発――】


 そんなみんなの顔だけど、物凄く疲れてる。戦って競って争ってで、何かに頼ってこの現状を打破したいって気持ちが見えてくる。

 その何かとは、博士さんが生み出したルーンスクリプト――すなわち、ゲンソウ。昔の人達も『ただ楽したい』ってだけでなく、どうしようもない現状に突破口を開きたくてゲンソウに手を出したのかも。


 ――そんな思惑も今は歪み、エステナという神様との戦いへ発展してる。戦いを避けた結末としては皮肉なものだ。




「アナタもこう考えてるでしょ? 『人間の行いって皮肉だ』……なんて。ワタシもそう思う。苦痛の中で進化して自我を得て、ワタシを神様なんて崇める人間も現れた。別に言われた通りするつもりじゃなかったけど、ワタシのメモリーに眠ってた太古の記憶が一つの行動指針を生み出した。『本物の神様になってみよう』……って。馬鹿みたいな歴史を修正し、世界に真の安定を与えようって」

「エステナ……」




 そして、ゲンソウから発展した神様は今もここにいる。この光景を私に見せ、訴えかけるように囁いてくる。

 これまでよりもはっきりとした声で。憐れみを含む感情のこもった声で。

神との決戦は最終局面へ。神が抱いたある目的と共に。

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