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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
482/503

◆慟哭体シュリキーグ・エステナⅣ

#####


太古より続いた贖罪にも、神とは別の自我が宿り始める。

誰かのために動くということが、苦痛に歪んだ進化とは別の道を歩む。

一つでない道は同様の可能性を見せれど、行きつく結末は異なる。


#####

【ど、どうしたんですか? 何か嫌な予感が……?】

【ワシもただのプログラムに過ぎぬはずが、おぬしらとの触れ合いで変わったのかものう。未来を目指して手を取り合う姿は、苦痛による進化とはまた違ったものじゃった。……じゃからこそ、ワシがこれ以上覚醒する前に終わらせよう。決心まで鈍りそうじゃ。……後のことは頼んだ――】

「ス、スペリアス様!? 何を!?」


 ツギル兄ちゃんと私できちんと聞き返す暇もなく、スペリアス様との連絡が途絶えてしまう。魔剣からは声がしないどころか、不思議と『もう二度と声が聞けない』気すらしちゃう。

 慌ててエステナの方に目を向け直せば、その背後から凄まじいスピードで接近する巨大な影。スペリアス様の本体がある浮島だ。


 ――それを確認した時、スペリアス様の狙いを理解できた。




 ドッッッゴォォオオオンッ!!



【あぐがぁ!? う、後ろから!? 何、この島は!? 邪魔しないでよぉぉおお!?】

「ス、スペリアス様……!? そんな……!?」




 私達に両手を止めるように願ったのは、万一にもエステナに食い止められるのを阻止するため。凄まじい轟音と共にエステナの背後から襲うのは、太古の記憶が眠る浮島。

 スペリアス様の本体も含め、あの浮島がなければこの時を迎えることなんてなかった。楽園やエステナを止めることが役目でもあった。


 ――その役目を全うするため、浮島ごと捨て身でエステナへぶつかっていく。轟音と共に圧し潰しながら。衝撃でボロボロ崩れながら。


【ッ……! フューティ様! 今のうちに接近してください! エステナもまだ完全には仕留めきれてません! ミラリアも気持ちを切り替えろ! スペリアス様の想いを無駄にする気か!?】

「ツギル兄ちゃん……!? 分かってる! フューティ姉ちゃん、お願い! 突っ込んでぇぇええ!!」

「お二人とも……分かりました! 嘆くのは後でお願いします!」


 スペリアス様が語った別れの言葉が頭にこびりつく。でも、ツギル兄ちゃんの言う通り。

 この捨て身の一撃は、感情の芽生え始めてたスペリアス様が繋いでくれた希望。苦痛ではなく、絆で培った自我が導き出した可能性。

 私だってそうして人としての自我を確立してきた。スペリアス様だって『忌まわしい過去の払拭と未来への懸け橋』として、エステナに挑んでくれた。


 ――悲しんでる場合じゃない。ここで決めなきゃ、全部が全部台無しになる。


【くうぅ……!? こ、これで勝ったと思わないで! まだ……まだワタシは終わらない! 終わりたくない! 痛くったって我慢すれば……こんなものぉぉおお!!】


 両手の自由を奪われ、浮島の突進で大きく体勢を崩したエステナ。目玉をグルグルさせて戸惑いながらも、まだ大空に巨体を浮かせて健在。

 その間にこちらはフューティ姉ちゃんに乗って一気に接近。あの巨体が相手でも、立ち向かえる術はある。


「ツギル兄ちゃん、準備はいい!?」

【大丈夫だ! この一太刀で決めるぞ!】

「魔剣解放……これが私達兄妹の全力!!」


 魔剣を横一文字に構え、素早く刀身を出し入れして切り札発動。ツギル兄ちゃんとの合体があれば、相手がどれだけ大きくても挑める自信も湧いてくる。

 今必要なのは『実際にできるかどうか』という考察ではなく『なんとしてでも成し遂げる』という気概。フューティ姉ちゃんがエステナの至近距離まで近づけば、後は飛び乗るなりして全ての想いをぶつけるまで。


【こ……来ないでよ!? あっ、ああぁ!? 怖い!? こうなったら……全部全部全部……ぜーんぶ壊れちゃえぇぇええ!!】



 ギュゴォォオオンッ!! ゴォォオン!

 



「またさっきのビーム!? しかもガムシャラに!?」

【岩石まで召喚してきたぞ!? マズい……逃げ場がない!?】


 ただ、エステナも火事場の馬鹿力とばかりに抵抗してくる。

 困惑しながらも目玉をギロつかせ、こちらへ狙いを定めての光さえ飲み込むビーム。もう後がないからか、無茶苦茶でも私達を仕留めようと足掻いてくる。

 しかも最悪なことに、エステナに接近しすぎて回避できるタイミングじゃない。このままだと、フューティ姉ちゃんも一緒に――


「同じ性質ならば……同じ性質で打ち消すまで! 無還吐息(ゼロブレス)!!」



 ギュゴォォオオ――カッ!!



【う、嘘!? ビームを消された!?】


 ――消えちゃうと思ってたら、フューティ姉ちゃんが口を開いて無還吐息(ゼロブレス)で反撃。

 エステナのビームも無還吐息(ゼロブレス)に近いからか、魔王による本家本元の無還吐息(ゼロブレス)で相殺できた。一か八かだったろうけど、気持ちの強さが突破口を開いてくれた。


 ――その確認ができれば、私もツギル兄ちゃんと共に背を蹴って飛び上がる。感謝を述べる暇すら許されない。


「岩石もこっちへ突っ込んでくる……!?」

【だったら利用してやれ! あれぐらいの衝撃なら、魔剣で耐えてやる!】

「理解した! 頑張って我慢してて!」


 飛び上がった眼前に迫るのは、エステナの召喚した岩石が一つ。ビームは逃れても、まだエステナとの間合いを遮ってくる。

 でも、この岩石がエステナにとって最後の盾。これさえ凌げばエステナまで届くし、逆に利用する手立てだってある。



 ガキィィイン!!



【ぐっ……!? ミラリアに乗り移ってても、魔剣の衝撃が響いてくる……!? だが……衝撃は確かに捕えたぁあ!!】

「これで終わりにする……! エステナァァア!!」

【な、何をする気……!? そんな刀一本で、ワタシを斬れるはずが……!?】


 飛んできた岩石を鞘で受け止めつつ、生じる衝撃を魔剣へ伝搬。いつもならすぐさま解放するけど、狙うべきエステナにはまだ届かない。

 ツギル兄ちゃんに耐えてもらいつつ、今度は岩石の上へ飛び乗って再度跳躍。合体することで集中力も反応速度も跳ね上がり、難しい動きも可能としてくれる。




 ――エステナの眼前まで迫れば、刀身に蓄えられた衝撃を一気に解放。これがトドメの一閃だ。




「反衝……理閃んんッ!!」



 ズグッパァァアアアンッ!!

#####


プログラムのイレギュラーが作り出した進化は、光と闇のように対立した。

歴史にもしもがあるならば、神も同じように歩めたかもしれない。こんな結末は訪れなかったかもしれない。

もっとも、これさえもまだ結末とするのは早い。


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