◆慟哭体シュリキーグ・エステナⅡ
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本当に人間ってしぶとい。これまでの歴史で滅びかけても生き残っただけはある。
でも、そんな足掻きはこれで終わりにする。ワタシが神様として、明確な誓いのもとにリセットする。
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エステナの眼球を射抜いてくれたのは、箱舟の上にいるランさん。集約された火炎魔法をスナイパーライフルで放ち、正確に急所を捉えてくれた。
本当に見事な腕前だ。楽園へ攻め込むメンバーに選ばれたのは伊達じゃない。
「おい、お前ら! カワイ子ちゃんだけにええカッコさせとったら、海の荒くれロードレオ海賊団の名折れやろがい! ウチらも徹底的に撃ち込むんや! あのデカブツがどっか他所へ逃げる前になぁぁああ!!」
「ガトリングガン持って来ォいィ! オレのブラスタークロウもだァ! ありったけの火力をぶち込んで、目玉の神様を海の藻屑にしちまいなァァアア!!」
「ヤンスゥゥウウ!!」
「ゴンスゥゥウウ!!」
「アッリンスゥゥウウ!!」
ロードレオのみんなも同じように動きを見せてくれる。
箱舟の上に乗り出しながら、様々な武器を用意。狙いはエステナ。まだ海の上にいる前に勝負をつけようと、箱舟に搭載した全戦力で相手するつもりだ。
ドガァァアンッ! ギュゴォォオンッ! ドガガガガァ!
【い、痛い!? やめてって言ってるのにぃ!? ウゥ……ウガァァアアア!?】
巨大化したが故、エステナというマトは大きい。ランさんと一緒になり、箱舟からの総攻撃。あまりに様々な攻撃が飛んでくるから、エステナも両手で目を押さえてその場で震え始める。
どんなに体を大きくしても、エステナは『自我を手にした生命』だ。私達人間の延長線にいても、同じ線の上にはいる。
行いにしたって、同じ目線で判断できなくもない。
――みんなの力を合わせれば、神様にも挑めるという事実。そこだけはずっと信じており、実際の形となる。
「エステナ! あなたは『痛いのはやめて』と言ってるけど、それは私達も同じ! あなたがやられて嫌なことを、あなた自身もやってる! それでいいと思ってるの!? 本当に満足なの!?」
【ウ、ウウゥ……ワタシから切り離された分際が言ってくれる……! ワタシがやってることは……やってることは……!】
どれだけエステナが人間や世界に恨みを抱いても、怒り任せに壊し尽くしていい道理だってない。自分がやられて嫌な思いを――蓄積された憎悪を、世界中へ振りまくなんて間違ってる。
こうしてエステナ自身が多数に襲われてる今ならば、もしかするとこの声が届くかもしれない。届くのならば考えを改めてほしい。
――甘っちょろく見えても、私だってエステナ。同じエステナが悶えて狂う姿は見たくない。
【ワタシのやってることは……これから先の世界で本当に必要なこと! ウグアァァアアア!!】
ドギュゥゥウウウン!!
「め、目から何かが!? ビーム!?」
【無還吐息とも同じ波動を感じるぞ!?】
「まさか、魔王の技さえも学習して……!?」
だけど、私の声はどうしてもエステナには届かない。ワガママを言って暴れるように、慟哭を続けながら今度は箱舟も含めて薙ぎ払おうと仕掛けてくる。
目を押さえていた手を放し、その中央から放たれるのは最初のビームとは質が違う一閃。光さえ飲み込もうとするそれは、フューティ姉ちゃんの無還吐息と似通ってる。
闇雲に放たれたから当たりこそしなかったけど、無還吐息の脅威は私も身に染みて実感してる。当たるわけにはいかない。
【アナタ達の生存本能と一緒! ワタシだって生きたい! 生きてやりたいことがある! そのためには……この世界が邪魔なの! 人間も世界も……もう一度リセットしたいのぉぉおお!!】
エステナには『世界を壊した後』における何かしらの目的もある。私達が未来を望むように、エステナにも望む未来がある。
どんな苦痛に苛まれても、その先にあるものを掴みたい気持ちだって同じ。同じ自我を持つ者同士であっても、譲れない願いが対極にある以上、衝突は避けられない。
「あなたの目的全ては理解できない……! でも、世界を壊すつもりなら同じこと! みんな! お願い!」
【まだまだエステナの攻撃は荒い! 距離を保ちつつ、徹底的にぶち込むんだぁぁああ!!】
「任せなって! アタイも怖気てなんていられない! 出たとこ勝負ってもんさ!」
「こっちにはまだどデカい一発も残っとるんや! トラキロ、準備できとるか!?」
「砲門調整はできたでさァ! 神様だろうが、こいつは焦るだろがァァアア!!」
どうしても避けられないならば、こっちも徹底的に挑むまで。箱舟のみんなとも声を合わせれば、繋がる覚悟が感じ取れる。
ガトリングガンやスナイパーライフルで牽制しながらも、箱舟は次の一手をすでに準備してる。下部に設置された大砲は前方へ向きを変え、エステナへ狙いを定めてる。
――結界さえ貫くあの一撃ならば、エステナにも届いてくれる。
「天閃理槍……発射ァァアア!!」
カッ――ズグオォォオオンッ!!
レオパルさんの合図で放たれのは、箱舟の切り札――天閃理槍。太陽の光が槍となり、黒く煮えたぎる神様目がけて飛んでいく。
その破壊力は私の知る限りで最強。仮に手で守っても、そのままエステナまで突き刺さるほど。
今のエステナは無防備なまま。このまま届けば、撃ち落とすことも――
【が、学習した……光さえ飲み込む魔王の闇の使い方を! ワタシを消せるなんて思わないで! こっちこそ消してあげる! これでも……食らえぇぇえええ!!】
ドギュゥゥウウウン!!
「馬鹿なァ!? 天閃理槍が……搔き消されたァ!?」
「さっきの無還吐息みたいなビーム……!? 天閃理槍の光まで……!?」
――できたはずなのに、エステナは身を守るためにさらに思考を重ねてくる。
無還吐息が持つ『全てを飲み込む力』をエステナ自身が理解し、攻撃ではなく相殺に持っていく判断。その様子を見ても、攻撃と防御の使い分けができ始めてるのが伺える。
――マズい。エステナの進化が――脅威が止まらない。
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人間がどれだけ進化しようと、ワタシという神様はその上を行ってみせる。
進化が人間の特権と思わないで。これはあらゆる生物に与えられた権利だから。
ワタシだって同じ。ワタシは滅ぼされたくない。やりたいことだってある。
だから、もっともっと進化する。生きるために進化を続けて戦い抜く。
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