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◆闇瘴虫ペインピオンⅡ

この状況を打破する起死回生の一手!

【魔力を集中させるのか? 何をする気だ?】

「昨日の夜に読んだ理刀流の技。あれを試してみる。読んだだけでも、あの技が使えれば闇瘴ごと斬り裂けるはず」


 ツギル兄ちゃんにもお願いして、魔剣の魔力を高めてもらう。私の方も腰を構えて意識を集中し、次の一撃に備える。

 使うのはフューティ様からもらった剣術書に書かれていた理刀流の技。その中でも『邪を斬り裂く』と言われるもの。

 頭の中に残った情報を手繰る限り、あの技は放った後の隙が大きい。だから、次の一撃で確実に仕留めないと危ない。


「さあ、こっち! 今度は負けない!」


 準備を整えつつ、フューティ様から離れてまずは間合いを作る。こっちに巨大サソリの意識が向いて、安全な位置取りができれば準備完了だ。

 もう油断なんかしない。この一撃で終わらせてみせる。




「チュギィィィィイン!!」

「えっ!? ダ、ダメ! そっちはフューティ様の方! 危ない!」




 そんな目論見とは裏腹、巨大サソリは私ではなくフューティ様の方を襲おうとしている。

 迂闊だった。こっちは距離をとって巻き込まないようにしたはずが、逆にフューティ様を一人で危険に晒してしまう。

 咄嗟に声をかけた時にはもう遅い。巨大サソリの尻尾がフューティ様に振り下ろされて――



 ガキィンッ!



「チュギィイ!?」

「わ、私だって聖女です……! 自分の身を守るぐらいの魔法は使えます……!」


 ――しまったんだけど、フューティ様は眼前に両手を掲げ、魔法の障壁でその尻尾を受け止めた。

 ああいう防御は私にはできない。魔剣による魔法は『居合で一時的に発生させるもの』であり、属性を付与した攻撃はできても、守りに弱い面がある。

 聖女ってやっぱり凄い。私にできないこともやってのける。


「ミラリアちゃん! 今です!」

「わ、分かった!」


 何より、フューティ様のおかげで隙ができた。巨大サソリは今もフューティ様の障壁に意識が向き、私の方を完全に見逃してる。

 この隙を逃さない手はない。魔力のこもった魔剣に右手を添え、頭の中で使うべき魔法のイメージもする。


 ――邪を払うは聖なる力。回復魔法を斬撃へと変換し、一瞬一刀の元に斬り伏せる。


「理刀流……聖天理閃(せいてんりせん)!」



 シュパァァアンッ!!



「チュ!? ギィィ……!?」


 フューティ様が動きを止めてくれた巨大サソリに対し、真横から縮地による突進と同時に放つ居合。その刀身に宿らせるは回復魔法と同じ力。

 だけど、これは相手を回復させる癒しの魔法ではなく、相手を斬り裂く明確な斬撃。邪悪な力で再生する肉体も、この技の前では意味を成さない。

 おまけに抜刀後の納刀もできないほど、超高速による全力の一閃だ。これぞ理刀流の一つ、聖天理閃。


 ――巨大サソリも流石に耐えられず、悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちる。


「こ、これで倒した……?」

「いえ、正確には動きが止まっただけです。後は私がやりましょう」


 一瞬のうちにかなりの集中力を使い、流石の私もヘトヘトだ。でも、まだ全てが終わったわけじゃない。

 私の役目は巨大サソリをひとまず止めること。闇瘴の力はまだ消えていない。

 それについてはフューティ様が巨大サソリに手をかざし、魔法を唱えて対処してくれる。


「ᚲᛁᛃᛟᚢᚺᚢᛏᛟᚲᚢᛏᚢᚢᚹᛟᛗᚨᛏᛟᛁᛋᛁᛃᚨᛗᛁ ᛗᛖᚷᚨᛗᛁᛖᛋᚢᛏᛖᚾᚨᚾᛟᛗᛟᛏᛟᚾᛁ ᛉᛁᛃᛟᚢᚲᚨᛋᚨᚱᛖᛃᛟ」


 フューティ様の魔法により、巨大サソリの体から黒い霧が抜けて消えていく。これが聖女の力による闇瘴の浄化ということか。

 私が使った一瞬の斬撃と違い、フューティ様の魔法はしっかり時間をかけて邪を祓っている。この力がなければ、私ではどうしようもなかっただろう。


「フューティ様、ありがとう。助かった」

「お礼を述べるのはこちらの方です。ミラリアちゃんがいたからこそ、こうして無事に闇瘴を浄化することができました」

「でも、フューティ様がいなかったら、闇瘴ってのを浄化することさえできなかった」

「あらあら。では、お互い様のおあいこですね。フフッ」


 無事に浄化も終わってフューティ様に語り掛けると、微笑みながら言葉を返してくれる。その様子を見る限り、やっぱりこの人はレパス王子にように私を利用してるようには見えない。

 本当に裏表がないと言うべきか、裏側も私に見せてくれると言うべきか。フューティ様のことは警戒よりも信じたい気持ちが強くなる。


 ――私にお姉ちゃんがいたら、フューティ様みたいな人が良かった。




「フューティ様! ご無事で!?」

「これはこれは。闇瘴の気配も消えてますし、どうやら我々の出番もなかったようですね」




 少しその場で話しながら休んでると、聖堂の方角から駆け付けてくる一団が見える。先頭を行くのは確かペイパー警部とリースト司祭だったっけ?

 ペイパー警部は心配そうにしてるけど、リースト司祭は相変わらず張り付いたような笑顔でニコニコしてる。落ち着いてるってことなんだろうけど、やっぱりどこか怖い。


「この巨大なサソリが闇瘴を取り込んでいたのですか……!? こんな奴を相手に、よくぞご無事で」

「この方の協力あってこそです。私達は先に聖堂へ戻りますので、後のことをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「かしこまりました。闇瘴を取り込んだ昆虫の事例は珍しいですし、私の方で調査して今後の糧としましょう」


 とりあえずは一件落着。もう心配はなさそうだ。

 そのことを確認するとフューティ様は私の手を引き、足早にこの場を離れようとする。

 まだ気になることもあるし、そんなに急がなくてもいいんじゃないかな?


「フューティ様。私、ちょっと気になることがある」

「それは後で伺いましょう。怪我の手当てだって、聖堂でしっかり行う必要があります。今はミラリアちゃんの体が第一です」


 私を心配してくれてることは分かるし、感謝もしてる。魔法での応急処置だけじゃ不安にもなる。

 でも、私にはどうしても気になってることがある。あの巨大サソリと戦ってた時から感じていたことだ。




 ――どうして巨大サソリや闇瘴から、お社で戦った影の怪物と同じ気配を感じたのだろう?

影の怪物も闇瘴も、何か一つの力の元で繋がっている?

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