◆慟哭体シュリキーグ・エステナ
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苦痛から生まれ出でた自我は、胎動を経てさらなる進化を目指す。
与えられた痛みさえも糧として、自身を陥れた楽園さえも糧として。
泣き叫ぶ慟哭と共に、神という生命はさらなる極地へ。
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VS 慟哭体シュリキーグ・エステナ
【そんなちっぽけなままで挑んでくるの!? ご飯でここまで成長したワタシを前に……勝てると思ってるのぉぉお!?】
「大きさなんて関係ない! こっちにはみんながいる! フューティ姉ちゃん、お願い!」
「分かりました! しっかり掴まっててください!」
新たに生えた浮かぶ両手を広げながら、一つ目となったエステナが激しく吠える。余裕がないようにも見えるけど、だからこそ油断できない。
相手は装置なんかじゃなくて荒れ狂う生命。手負いの獣ほど恐ろしい。
そのことを重々承知した上で、フューティ姉ちゃんの背に乗って挑みかかる。相手が巨大だろうと関係ない。
「あれだけ大きいなら、懐に潜り込む方がチャンスはある……! 行けそう!?」
「飛ぶのも初めてですが、魔王の力が馴染んでくれたおかげでしょう! 自信を持って挑めます!」
【至近距離まで来れば、後は手あたり次第に斬り刻んでやれ! 宙に浮かぶ山だろうが何だろうが、ミラリアにならできる!】
お姉ちゃんとお兄ちゃんに守られながら、エステナとの距離を縮める。体の大きさは恐ろしくあれど、時として不利に働く。
エステナも戦いに慣れてきたとはいえ、まだあの巨体は使いこなせてないはず。やはり、勝負するなら速攻が最適だ。
【ッ!? ま、またこっちに来る!? 来ないで! 斬られて痛いのは嫌ぁぁああ!!】
ブゥウオォォオンッ!!
「手がこっちに!?」
「くっ……!? この巨体でこれほど素早く……!? ですが、転生魔竜の力だって負けません! 突破します!」
無論、エステナも素直に許してはくれない。接近する私達を確認すると、その巨大な浮かぶ手で叩き落とそうとしてくる。
想像以上のスピードで振るわれ、風圧まで届いてくる。大きさに伴うパワーはハッタリなんかじゃない。当たれば一発でアウトだ。
それでもフューティ姉ちゃんは上手く躱して先を目指してくれる。ゼロラージャさんが転生で繋いでくれた力が、私達の活路を見出してくれる。
――どれだけエステナが進化を重ねようと、こっちだってみんなの進化で挑むまでだ。
【来ないでって……言ってるのぉぉおお!! そんなにヒラヒラ躱すのなら、こっちだってもっと数を増やすからぁぁああ!!】
ブゥウウン ――ゴオオォォオ!!
「魔法陣!? しかもあれって!?」
「かつての私も使った……物体召喚!?」
その大きな図体に対し、こっちの接近をとにかく恐れるエステナ。恐怖心がさらなる進化を促したのか、これまでと違う攻撃まで交えてくる。
後方へ逃げつつ宙に描くのは魔法陣。フューティ姉ちゃんが偽物のエステナにされてた時と同じく、物体を転移及び召喚するものだ。
ただ、召喚される物体はあの時と違う。魔法陣そのものも巨大化した肉体に相応して大きく、飛んでくるものも槍じゃない。
ゴォォオン! ゴォォオン!
【あ、あれって岩石か!? かなりのサイズと量だぞ!? どこかから持ってきたのか!?】
【これは宇宙空間の隕石……! アナタ達の知らない場所には、もっと大きくて怖いものだってある……! それをぶつけてあげる! ワタシを守るために!】
魔法陣から降り注ぐのは岩石の雨。何やら『宇宙空間』と呼ばれる場所からここまで引っ張って来たってことか。
大きさも数もかなりのもの。明確な質量を持った雨は、私達どころか下に広がる海にも降り注いでいく。
「やめて、エステナ! こんなものが降り注いだら、世界が壊れちゃう!」
【知ったことじゃない! 元より、この世界だって一度完全に壊して綺麗にするつもり! エステナ教団なんてオモチャにできなかったことは、ワタシが自ら成し遂げる!】
「そ、そんな……!?」
今は海の上だけど、このままでは陸にも被害が出てしまう。そうなれば、私達に託してくれた世界中のみんなだって危ない。
そんなこと、エステナには関係ない。むしろ、ついでで世界を滅ぼせるならそれでいいとさえ考えてる。
悔しいけど、どうにもならない。岩石の雨は私では止められない。
転生魔竜であるフューティ姉ちゃんでさえ回避するのがやっとで、エステナとの距離も――
「宿った経験をもとにやってみましょう……! コオォォ……無還吐息!!」
ギュゴォォオオンッ!!
「こ、これって、ゼロラージャさんが使ってた!?」
――再び開き始めてしまうものの、フューティ姉ちゃんも負けじと一手講じてくれる。
回避してから息を吸い込み、口から放たれるのは光さえ飲み込みそうな吐息。ゼロラージャさんから受け継ぎし魔王の技、無還吐息だ。
薙ぎ払うように広がって放たれた吐息は、降り注ぐ岩石を消し飛ばしてくれる。エステナという神様を相手に、魔王が共に戦ってくれる。
――その攻撃を見ると、ゼロラージャさんも一緒にいてくれてるみたい。その人の命が終わっても、次へ繋がる意志はここにある。
【ウ、ウウゥ……! 小癪な真似をしないで! 隕石はまだまだ用意できる! 無限の宇宙の力を何度でも――】
バギュゥゥウウンッ! ――ズガンッ!
【あぐあぁ!? い、痛い!? 目に何か飛んできた!? やめてよ!? 誰がこんなことするの!?】
エステナもすぐさま追撃を放とうとしてくるけど、本体の一つ目へ何か飛び込んで怯ませる。
かなり小さいけど、凝縮された一撃が正確に目の中央を射貫いたみたい。エステナも驚きながら悶えるけど、やったのは私でもフューティ姉ちゃんでもない。
――この場にいて、これだけ正確な遠距離攻撃ができる人なんて一人しかいない。私達の味方はまだいてくれる。
「よっし、ナイスショット! 図体がデカくても、目玉のど真ん中は染みるもんだろ!」
「ランさん!」
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神と呼ばれようとも、その存在は善ではない。
覚醒した自我が望むのは世界の滅亡。世界が望むのは滅亡を逃れた未来。
輝く明日を手にするため、世界中が手を取り合って破滅の神へ挑む。
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