◆胎動体フェタール・エステナⅣ
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ワタシと彼女の違いは何? ワタシだって進化を続けた。彼女よりも長い期間、ずっと。
それさえ分かれば、ワタシは彼女を超えられる。完全な神様になれる。
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【何をコソコソ話してるの!? ワタシを前にして悪あがきの算段!? アハハハ! しぶとく這いずって生き続ける人間らしい! 本当に……煩わしいぃぃいい!!】
こっちも長々と作戦会議とはいかない。高笑いで高揚してたエステナも、再度旋回しながらこちらへ突っ込んでくる。
結界による守りは固めたまま。突進以外の攻撃手段としては鼓動による衝撃波のみ。だけど、それだけで十分な脅威。
対策は講じたけど、チャンスは一度きり。ここで決めないと、エステナはさらなる進化へ至りかねない。
――みんなと協力して、一瞬でもエステナの進化を上回ってみせる。
「おい、エステナ! そんな単調な突進だけで、本当に俺達を倒せると思ってんのか!? んなもん、俺一人も倒せねえぞ!」
【むう……!? 人間風情がワタシを侮辱するなんて……許せない! ワタシは神様! 馬鹿にしていい相手じゃない!】
「だったら試したみたらどうだ!? 俺は逃げも隠れもしねえよ! こっちへ来てみな!」
【舐めた真似……腹が立つ! そこまで言うなら、望み通りにしてあげる! ミラリアより前に……アナタが消えてぇぇえ!!】
まずはシード卿がエステナを挑発しつつ高く飛び上がる。攻撃を一身に引き受ける囮となり、私達とも引き離してくれる。
シード卿自身も障壁魔法を展開し、エステナの突進への備えは見せてる。ただ、今のエステナが相手では焼け石に水か。
「シャニロッテさん、お願い!」
「お任せですの! あの時よりもさらに洗練されたわたくしの爆発魔法……全力で託しますのぉぉおお!!」
【クッ……確かに凄い! 俺でも弾けそうだが……これならやれる!!】
だからこそ、こっちはエステナの攻撃が決まる前に勝負に出る。シャニロッテさんの手で魔剣へ爆発魔法の魔力が伝わり、鞘の中でツギル兄ちゃんが熱を帯びていく。
ユーメイトさんとの戦いでも使った爆発魔法の上乗せ。シャニロッテさん自身も鍛錬でパワーアップしており、あの時以上の威力で放てる。
エステナの纏う結界は強力だけど、原理としては楽園を守ってた結界が小型化したもの。天閃理槍ほどの威力はなくても破壊できるはず。
何より、私の剣技は『ゲンソウを打ち破るゲンソウ』として編み出された理刀流。エステナという『究極のゲンソウ』にだって負けない。
――過去に博士さん達が残してくれた希望は、今この時を生きる私達が繋いでみせる。
タンッ!
「ハアァァアアア!! エステナァァアア!!」
【ッ!? まさか……この人間は罠!? ワタシを騙したの!?】
体を捻って力を込め、螺旋を描くように飛び上がる。気合の叫びでエステナに気付かれるけど、その時にはもう射程圏内。
魔剣にこもった爆発魔法はみんなの気持ち。叫ぶ声は挑める気概。破壊を求める神様を打ち倒し、未来を掴み取る懸け橋。
――この一閃が世界を斬り開く。
「最大刃……昇竜理閃!!」
ドッパァァァアアアンッッッ!!
【あぐがぁ!? い、痛い……痛いぃぃいい!?】
あらゆる想いを込めて放つのは、魔王さえも斬り倒した究極の一閃。刀身には火炎魔法を上回る爆炎を纏わせ、シード卿を狙ってたエステナへと届かせる。
結界なんて関係ない。理刀流は魔法の――ゲンソウの理さえ斬り砕く。スペリアス様から教わったことを信じ、一心不乱に抜刀する。
それらの想いも含め、確かにエステナへと決まった一閃。ドクドクとした鼓動が不規則に乱れ、全身が悶えるように胎動してることからも明白だ。
【痛い! 痛いぃい!? こんな苦痛……初めて……! か、体が……壊れちゃう……!? た……助けてぇぇええ!?】
「……私だって、あなたを斬るのはいい気がしない。そうやって苦しむ姿を見るのも辛い。……でも、これはケジメ。同じエステナとして、あなたの暴挙は見過ごせない」
飛び上がったまま振り返って確認するけど、なんとも複雑な感情が流れ込んでくる。世界を壊そうとしてるとはいえ、やっぱり私を生み出したお母さんを斬ったという気持ちは怖い。
だけど、こうするしか方法はなかった。話し合いも通じないほど大きくなったエステナの憎しみは、斬ることでしか止められなかった。
痛がる姿にこっちまで苦悶するけど、エステナがあの姿を維持できるのは限界だろう。せめてこのまま、最後の時まで――
【い……嫌ぁぁああ!! ワタシ、消えたくない! 死にたくない! こ、こういう時は……そうだ! ご飯! ご飯食べる! 食べることが……生命の根源で……自我の衝動でぇぇえええ!!】
「ッ!? エ、エステナ!? 何を!?」
――見届けようとしてたら、墜落していくエステナに変化が現れる。
もうあの大きな心臓みたいな肉体は維持できてない。崩れながら床へ落ちるはずだったのに、自らの意志で穴の方目指して落ちていく。
下は底も見えない奈落。落ちて助かる気配などない。
――なのに、どうしようもなく恐ろしい予感が全身を走る。
「か、勝った……んだよな? エステナは倒れたんだよな?」
「ミ、ミラリア様……エステナに攻撃は確かに決まったんですの……?」
「……攻撃は決まった。でも、まだ終わってない。エステナは……まだ……!」
【こ、今度は何をするつもりだ……? あ、あいつはまさか……まだ進化を……!?】
床に着地して声を掛け合うけど、思ってることはみんな同じ。とても勝利した余韻など湧いてこない。
穴を覗き見て、エステナの行方を目で追わずにはいられない。もしもこの予感が的中するならば、戦いはまだ終わらない。
――深手を負ったエステナは、さらなる学習で進化へ至ろうとしてる。その叫びが――慟哭が穴からも聞こえてくる。
【この楽園全部、ワタシのご飯にすればいい! この苦痛も乗り越え……さらに進化を……! ワタシ、まだ負けてない! 負けたくない! ウアァァァアアァアアア!!】
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そうだった。彼女はご飯が大好きだった。だったら、ワタシもご飯を食べれば強くなれる。
食べるものなんて近くにないけど、食べられそうだからこれでいい。
ワタシを縛り付けた楽園の全てをご飯にすれば、彼女と同じく強くなれる。
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