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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
476/503

◆胎動体フェタール・エステナⅣ

#####


ワタシと彼女の違いは何? ワタシだって進化を続けた。彼女よりも長い期間、ずっと。

それさえ分かれば、ワタシは彼女を超えられる。完全な神様になれる。


#####

【何をコソコソ話してるの!? ワタシを前にして悪あがきの算段!? アハハハ! しぶとく這いずって生き続ける人間らしい! 本当に……煩わしいぃぃいい!!】


 こっちも長々と作戦会議とはいかない。高笑いで高揚してたエステナも、再度旋回しながらこちらへ突っ込んでくる。

 結界による守りは固めたまま。突進以外の攻撃手段としては鼓動による衝撃波のみ。だけど、それだけで十分な脅威。

 対策は講じたけど、チャンスは一度きり。ここで決めないと、エステナはさらなる進化へ至りかねない。


 ――みんなと協力して、一瞬でもエステナの進化を上回ってみせる。


「おい、エステナ! そんな単調な突進だけで、本当に俺達を倒せると思ってんのか!? んなもん、俺一人も倒せねえぞ!」

【むう……!? 人間風情がワタシを侮辱するなんて……許せない! ワタシは神様! 馬鹿にしていい相手じゃない!】

「だったら試したみたらどうだ!? 俺は逃げも隠れもしねえよ! こっちへ来てみな!」

【舐めた真似……腹が立つ! そこまで言うなら、望み通りにしてあげる! ミラリアより前に……アナタが消えてぇぇえ!!】


 まずはシード卿がエステナを挑発しつつ高く飛び上がる。攻撃を一身に引き受ける囮となり、私達とも引き離してくれる。

 シード卿自身も障壁魔法を展開し、エステナの突進への備えは見せてる。ただ、今のエステナが相手では焼け石に水か。


「シャニロッテさん、お願い!」

「お任せですの! あの時よりもさらに洗練されたわたくしの爆発魔法……全力で託しますのぉぉおお!!」

【クッ……確かに凄い! 俺でも弾けそうだが……これならやれる!!】


 だからこそ、こっちはエステナの攻撃が決まる前に勝負に出る。シャニロッテさんの手で魔剣へ爆発魔法の魔力が伝わり、鞘の中でツギル兄ちゃんが熱を帯びていく。

 ユーメイトさんとの戦いでも使った爆発魔法の上乗せ。シャニロッテさん自身も鍛錬でパワーアップしており、あの時以上の威力で放てる。

 エステナの纏う結界は強力だけど、原理としては楽園を守ってた結界が小型化したもの。天閃理槍ほどの威力はなくても破壊できるはず。

 何より、私の剣技は『ゲンソウを打ち破るゲンソウ』として編み出された理刀流。エステナという『究極のゲンソウ』にだって負けない。


 ――過去に博士さん達が残してくれた希望は、今この時を生きる私達が繋いでみせる。



 タンッ!



「ハアァァアアア!! エステナァァアア!!」

【ッ!? まさか……この人間は罠!? ワタシを騙したの!?】


 体を捻って力を込め、螺旋を描くように飛び上がる。気合の叫びでエステナに気付かれるけど、その時にはもう射程圏内。

 魔剣にこもった爆発魔法はみんなの気持ち。叫ぶ声は挑める気概。破壊を求める神様を打ち倒し、未来を掴み取る懸け橋。


 ――この一閃が世界を斬り開く。




「最大刃……昇竜理閃!!」



 ドッパァァァアアアンッッッ!!



【あぐがぁ!? い、痛い……痛いぃぃいい!?】




 あらゆる想いを込めて放つのは、魔王さえも斬り倒した究極の一閃。刀身には火炎魔法を上回る爆炎を纏わせ、シード卿を狙ってたエステナへと届かせる。

 結界なんて関係ない。理刀流は魔法の――ゲンソウの(ことわり)さえ斬り砕く。スペリアス様から教わったことを信じ、一心不乱に抜刀する。

 それらの想いも含め、確かにエステナへと決まった一閃。ドクドクとした鼓動が不規則に乱れ、全身が悶えるように胎動してることからも明白だ。


【痛い! 痛いぃい!? こんな苦痛……初めて……! か、体が……壊れちゃう……!? た……助けてぇぇええ!?】

「……私だって、あなたを斬るのはいい気がしない。そうやって苦しむ姿を見るのも辛い。……でも、これはケジメ。同じエステナとして、あなたの暴挙は見過ごせない」


 飛び上がったまま振り返って確認するけど、なんとも複雑な感情が流れ込んでくる。世界を壊そうとしてるとはいえ、やっぱり私を生み出したお母さんを斬ったという気持ちは怖い。

 だけど、こうするしか方法はなかった。話し合いも通じないほど大きくなったエステナの憎しみは、斬ることでしか止められなかった。

 痛がる姿にこっちまで苦悶するけど、エステナがあの姿を維持できるのは限界だろう。せめてこのまま、最後の時まで――




【い……嫌ぁぁああ!! ワタシ、消えたくない! 死にたくない! こ、こういう時は……そうだ! ご飯! ご飯食べる! 食べることが……生命の根源で……自我の衝動でぇぇえええ!!】

「ッ!? エ、エステナ!? 何を!?」




 ――見届けようとしてたら、墜落していくエステナに変化が現れる。

 もうあの大きな心臓みたいな肉体は維持できてない。崩れながら床へ落ちるはずだったのに、自らの意志で穴の方目指して落ちていく。

 下は底も見えない奈落。落ちて助かる気配などない。


 ――なのに、どうしようもなく恐ろしい予感が全身を走る。


「か、勝った……んだよな? エステナは倒れたんだよな?」

「ミ、ミラリア様……エステナに攻撃は確かに決まったんですの……?」

「……攻撃は決まった。でも、まだ終わってない。エステナは……まだ……!」

【こ、今度は何をするつもりだ……? あ、あいつはまさか……まだ進化を……!?】


 床に着地して声を掛け合うけど、思ってることはみんな同じ。とても勝利した余韻など湧いてこない。

 穴を覗き見て、エステナの行方を目で追わずにはいられない。もしもこの予感が的中するならば、戦いはまだ終わらない。




 ――深手を負ったエステナは、さらなる学習で進化へ至ろうとしてる。その叫びが――慟哭が穴からも聞こえてくる。




【この楽園全部、ワタシのご飯にすればいい! この苦痛も乗り越え……さらに進化を……! ワタシ、まだ負けてない! 負けたくない! ウアァァァアアァアアア!!】

#####


そうだった。彼女はご飯が大好きだった。だったら、ワタシもご飯を食べれば強くなれる。

食べるものなんて近くにないけど、食べられそうだからこれでいい。

ワタシを縛り付けた楽園の全てをご飯にすれば、彼女と同じく強くなれる。


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