◆胎動体フェタール・エステナⅢ
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たった一人で彼女は進化を続けた。内に眠る強大なゲンソウの可能性があれば、真に神となれる器を持っていた。
戦いを通し、彼女自身も自らの可能性に気付き始める。
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【これなら、攻撃は届かない……! もう斬らせない……!】
「結界を鎧のようにしやがったか……!?」
「あ、あれでは攻撃が通用しませんの……!?」
全身を結界で守ったエステナは、再び宙を舞いつつこちらの様子を伺ってくる。
『様子を伺う』のも自我により思考が可能となったからできること。攻撃を受けたことで、守りを固める判断についても同じ。
――苦痛に伴う進化は、今もエステナに根付いてる。
【結界で守ってるからビームは使えない……! 突進も避けられる恐れあり……! ならばぁあ!】
グチチチィイ! グチュンッ!
【ッ!? 黒い粘液が動いた!?】
「みんな、気を付けて! これもエステナの一部だから!」
初めての戦いであっても、エステナは学習して次の一手を打ってくる。感情に惑わされながらも、確かな思考を張り巡らせてくる。
その結論が自身から分離した黒いネバネバを利用すること。再度触手のように地面を這わせ、私達の足元へ迫ってくる。
守りを固めたせいで攻撃手段が限られても、使える範囲で新たな手段を模索する。苦しみながら考えに考えることこそ、エステナ最大の武器だ。
グチュチュンッ!
「ひいぃ!? わ、わたくしの足が!?」
「シャニロッテさん!?」
【ワタシの分身に味方する人間から始末してあげる! そうやって動けないまま、恐怖に怯えて潰れちゃえぇぇええ!!】
どうにか逃げ続けるものの、壁に張り巡らせたネバネバまで使われたせいで流石に厳しい。シャニロッテさんの足元を囚われてしまい、エステナも狙いを定めてくる。
肉体を浮遊させ、少し助走させてからの突進。結界で守られた巨体を使い、シャニロッテさんを圧し潰すつもりだ。
――あの質量をまともに食らえばひとたまりもない。シャニロッテさんを守るのが優先だ。
「スペリアス様の魔剣……お願い! エステナを止めて!」
キンッ――ズガガガガァ!
【ッ!? たかが人間一人守るために、割って入るなどと……!?】
「『たかが人間一人』じゃない! 私にとって大事な友達! 本心から守りたい人!」
スペリアス様の魔剣を抜き身にして、刃を立てるようにエステナの結界へ押し当てる。私自身も足腰で踏ん張り、突進の勢いを押し止めにかかる。
防御しながらの攻撃。抜刀したまま使えるスペリアス様の魔剣があればこその芸当だ。足元を滑らせながらも、シャニロッテさんへの突進だけは届かせない。
それだけ守りたい想いが強いってこと。私を支えるために協力してくれた人を、私だって支えたい。
【そこまでして守りたいの……!? 異世界へと転生してまで、愚かな人間が闊歩する世界を……!? 苦痛をまき散らした根源を……!?】
「私とあなたが見てきた世界は違う……! あなたは楽園だけしか見れなかったけど、私は楽園以外の世界を見てきた……! 異世界へ転生することで、育まれた尊い命がこの世界にはある……! それを……壊させたりしない! 私をあなたと同じ神とするならば、みんなを守る守護神でありたい!」
【戯言を……戯言をぉぉおお!! アナタなんて大っ嫌い! そんなに人間の守護神をしたいのなら……ワタシが破壊神として消し飛ばすだけだからぁぁあ!!】
ギュゴォォオンッ!!
「あぐぅ!? しょ、衝撃が!?」
【自らの鼓動まで利用して……!?】
ただ、エステナは私とは違う。楽園の人間から与えられた苦痛は、復讐を根源とする自我を確立させるのみ。
決してその信念を曲げる様子はなく、さらに激昂して鼓動を激しくしていく。その鼓動さえも衝撃波へ変換し、私の体を吹き飛ばしてくる。
どうにかシャニロッテさんは守れたけど、エステナの力はなおも増し続けてる。戦いが続くほど、その進化が加速されていく。
【アハハハ! 今の凄い! ワタシ、こんなこともできるんだ! 戦いの中での痛みが……苦痛がワタシを進化させてくれる! これ、面白い! アハハハ!】
「ミ、ミラリア!? 大丈夫か!?」
「わ、わたくしのせいで……!?」
「安心して。大丈夫。……それより、早く勝負に出ないとマズいかも」
【あいつ、どんどんと力を増してるぞ……! このままだと、いずれ手に負えなくなる……!】
幸い、穴へ転落せずには済んだ。シャニロッテさんもシード卿の手で拘束から抜け出し、一緒になって心配してくれる。
対するエステナは一時喜びながら宙を舞ってる。攻撃はしてこないけど、エステナも自身の能力に気付き始めてる。
戦ったことなんてまったくなかったのに、次から次へと新たな能力を開花させていく。
『進化そのもの』こそがエステナ最大の武器。自身への理解も深まれば、どこまで進化できるのかさえ見当がつかない。
――誰よりも強大な神様は、今もなお先を求め続ける。
「勝負……か。やっぱ、ミラリアが斬り込むしかねえよな?」
「うん。だけど、私の剣技でも足りない恐れがある……」
「……ミラリア様。わたくしに一つ提案がありますの」
「奇遇だな、シャニロッテの嬢ちゃん。……俺も別で手立てがある」
【二人とも、何か考えがあるのか? ……その表情からして、相当の覚悟もありそうだな】
これ以上戦いを長引かせるのが愚策ってことはみんな承知の上。ただ、こっちも決め手に困ってるのは事実。
そんなタイミングでシード卿とシャニロッテさんが顔を見合わせ、真剣な表情で何かを思いついてくれる。どこか不安もよぎるけど、頼りにしたい気持ちもある。
――強大な一つの進化に対抗するには、みんなの力を合わせるしかない。
「最後はミラリアに託す形となる。だが――」
「そこまでの道のりは、わたくし達が作りますの」
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もう一人の彼女は周囲との出会いで進化を続けた。内に無限のゲンソウなどなくとも、守れる力を手にした。
これまでの出会いを通し、彼女自身はさらなる希望へ賭ける。
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