ついに双星は、同じ地にて
ミラリアとエステナ。人間と神様。
世界の運命を別つ二人がついに対面する。
「……不思議な気持ち。あなたとは初めて会うはずなのに、ずっと前から知ってたみたい」
【知ってて当然。だって、アナタもワタシなのだから。……一応、改めて自己紹介してあげる。ワタシこそがエステナ。愚かな人間が強欲のために生み出した装置にして、この世界に君臨する神様】
消し飛ばしたレパス王子のことなど意に介さず、言いたいことを述べるのは奥に佇む装置。楽園どころか、この世界に新たな進化を促した創世装置――エステナ。
レパス王子と違い、こっちは本物の神様と言っても過言じゃない。私達が今生きてる世界は、エステナが発端となって創られた。
そして、エステナ自身も独自の進化を成し遂げた。苦痛の中で自我に目覚め、自らの意志で守るべき楽園さえも放棄した。
――私の始まりもこのエステナ。全てはここから始まった。
【へえ……人間も一緒なんだ。アナタのことは不純物として取り除いたのに、予想外に面白いことをしてくれる】
「……おい、エステナ。勘違いすんなよ。ミラリアだって人間だ。俺達は人間としてこの世界を守るため、お前の前までやって来たんだ」
「……そうですの。生まれがどうこうなど関係ありませんの。わたくし達は皆、ミラリア様と共に未来を歩みたい者達ですの」
【神様だか知らないが、勝手な物差しで測らないでもらおうか……エステナ】
【おーおー、怖い怖い。でも、アナタ達だって勘違いしないでほしい。ワタシは彼女を評価してる。蔑んだりはしてない。……むしろ、ワタシの目指した姿と言ってもいい】
エステナの語り口はレパス王子達とは違う。どこか感情が混じってて、話す分には人間を相手にするものと変わらない。
みんなに意見を述べられれば、その裏に潜む『怒り』を認識して返答する。逆に言いたいことも言い返すあたり、確かに自分で考えて口にしてる。
――当然のように見えるけど、エステナも本来はただの装置だった。それが自我を得たことで、ここまで話せるようになったのか。
【今の名前はミラリア……だったよね? アナタの記憶もかすかに覗き見たけど、かなり苦労したことは知ってる。本来ならば不純物でしかなかったのに、よくぞここまで辿り着いたと褒めてあげる】
「……そう。一応、ありがとうって言っておく。そこまでお喋りできるなら、私の願いも聞いてもらえる?」
【それはできない。目的についても理解してる。……アナタ達はワタシを殺す気なんでしょ? ああ、そのことをとやかく言及なんてしないから。そうしたい理由も分かってるし。……ただ、一つだけ言わせてもらう。ワタシに話し合いが通じるなんて思わないで? こっちは気が遠くなるほどの期間、苦痛に耐えてこの時を待ってたんだから】
もしかしたら話が通じるかとも思ったけど、エステナは頑なに考えを変えようとしない。
同じエステナ同士と言えども、歩んだ道のりは全くの別物。無理もない話と言えばそれまでか。
エステナは楽園の住人が無作為に投げ捨てた苦痛を蓄積され続けた。その苦痛が自我を覚醒させたとはいえ、同時に恨みを覚えたのは想像に難くない。
自我と苦痛の因果な関係とはいえ、長い期間で蓄積された苦痛を簡単には晴らせない。エステナの行動を否定することは私にもできない。
【それより、アナタもワタシと一緒に来ない? 同じエステナとして、ワタシの気持ちだって分かるよね? ……この世界を滅ぼした先にやりたいことだってある。きっと、あなたも気に入ってくれるはず】
「悪い冗談はやめて。私は世界を壊させるわけにはいかない。ここにいるみんなと一緒に未来を生きたい。……あなたの方こそ、復讐という刃を外に向けないでほしい。楽園を終わらせた今、戦火を広げる意味があるの?」
【……ハァ、やっぱりダメか。そんな予感はしてたけど】
あえて反論ができるならば、エステナの復讐心が膨れ上がりすぎてるってこと。苦痛を与えてきた楽園だけでなく、外に広がる世界さえも攻撃の対象となってる。
それだけ大きい恨みが人間にあるってことだろうけど、エステナ自身には『その後』の計画がまだあるらしい。
それが何かは私でさえ分からないけど、世界を破滅させるという目的が明確なら関係ない。エステナだって予想してたのなら、やるべきことは変わらない。
――ここでエステナを倒す。そして、楽園に始まる破滅の歪みを食い止めるまでだ。
【本当はもう少し進化に時間が欲しかったけど、アナタ達を前にして戦わないわけにもいかないよね。ひとまずは見せてあげる。……まだ『胎動』の段階だけど、相手ぐらいはできるから】
エステナだってこのまま素直に倒されるはずがない。私の気持ちが変わらないと判断すれば、戦う意志を見せてくる。
自我があるからこそ、滅ぼされることを恐れる。レパス王子達と違い、エステナには明確な意志がある。
それだけでも十分過ぎるほど手強い。ただ、エステナの本質はもっと別にある。
ピキ――ピキキィ――
「こ、これは……装置が割れてるのか……!?」
「でも、壊れてるわけではありませんの……!? まるで、卵が割れているような……!?」
【な、中から何か出てくるぞ! 全員、構えるんだ!】
エステナは本来、楽園を維持するために作られた創世装置。そこから読み解けるのは、どんな魔法よりも根源的に強大なゲンソウを扱えるということ。
世界では女神と崇められたのも、古代の伝承からその力の強大さが伝わったからだろう。『世界を創り出す女神の力』という逸話そのものに嘘偽りはない。
そこに進化が合わされば、自らの肉体を新たに創り出すことだってできる。
――装置という殻を破り、自我を手にしたエステナ本体が姿を見せる。
パキィィイイン!
ドクン――ドクン――
【さあ、相手してあげる。ワタシはエステナ。この世界のあらゆる進化の頂点に君臨する神様。不格好だけど、力は本物だから。……人間が勝てると思わない方がいい】
「な、何あれ……ドクドクと……胎動してる……?」
この胎動こそが始まりの合図。
本作最後の敵――エステナ。いざ、ラストダンスへ。




