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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
471/503

◆滅人亡種レパス

VS 滅人亡種めつじんぼうしゅレパス


因縁との決着だが、今更敵になれるのか?

 狂った笑い声をあげて姿を見せたのは、他の二人と同じくここまで逃げ延びたレパス王子。ただ、その姿は私達の知るものから大きく変容してる。

 エステナから抜け出た全身は明らかに巨大化しており、角や翼といったものまで増えてる。肌の色も青白く変色し、最早生物なのかも危うい。

 だけどレパス王子本人は『神となった』と自称し、高慢さについてはそのまま。いや、むしろこれまでよりもはるかに酷い。


 ――神というより異形の怪物。この世のどんな生物よりも異質となり、私達の前へ立ちはだかって来た。


「僕はエステナの力を手に入れた! もう誰も僕には逆らえない! この力があれば、エステナ教団さえも必要ない! 僕一人でこの世界を支配してくれようぞぉぉお! アーヒャヒャヒャ!」

「お、おいおい……冗談だろ……!? あのクソッタレ王子、エステナの力まで手にしたのか……!?」

「この禍々しい魔力の胎動――いや、邪悪な気配は……!? と、とても勝てる気がしませんの……!?」


 実際に恐ろしいのは事実。シード卿とシャニロッテさんも怯えてしまい、レパス王子の相手などできそうにない。

 これがエステナの力で手にした進化ならば、確かに純粋な力で見れば勝ち目なんてない。レパス王子が手にしたのは、この世界における神様のものだ。

 蓄積した苦痛が自我を宿すほどの進化を促し、今もなお進化を続ける力。そんなものを自分の利益のためだけに使うレパス王子のものとなった以上、どんな凶行に出てもおかしくない。


 ――でも、不思議と負ける気はしない。


「……私達はもうあなたに用はない。目的は後ろにいるエステナ。邪魔だからどいて」

「アヒャヒャヒャ! 戯言をぬかすものだな! 僕はエステナを超えたんだ! まずはその見せしめとして、貴様から葬ってやるぞぉ! ミラリアァァア!!」


 一歩前へ出て、私一人でレパス王子と対峙する。ただ魔剣には手も添えず、一切の構えをとらない。とる必要がない。

 エステナの力を取り込んだことは理解した。でも、私だってエステナだ。


 ――レパス王子の身に何が起こってるかは、レパス王子自身よりも理解できる。


「さあ……今度こそ死ねぇぇええ!!」



 ボゴォムッ!



「アヒャヒャヒャ! 当たった! 当たったぞぉお! 見たか! これこそが究極の――神の力だぁぁあ!!」


 無防備な私に対し、レパス王子が右手を握りしめて振り下ろす。その速度も確かなもので、簡単に私の顔面へ迫ってくる。

 でも、避けない。避ける必要なんてない。


「さあさあ! 死ね! 僕の前にひれ伏し、後悔しながら死ねぇぇええ!!」


 その後もレパス王子は両手で何度も殴りかかってくる。チンケなセリフを口にしながら、一心不乱にパンチの連打を放ってくる。

 それでも避けたりはしない。魔剣を抜くこともなく、ただその様子を眺め続ける。


「あ、あいつ……何をしてんだ……?」

「ご、ご自身のやってることに気付いてませんの……?」

【……おそらく『気付けない』んだ。痛みを感じないから、あんなことになってもな】


 他のみんなもレパス王子の異常に気付き、これまでと違う動揺に言葉を乱してる。気付いてないのは、拳を振るい続けるレパス王子だけ。

 普通だったら一番に気付いてないとおかしい。だけど、苦痛を拒んだ肉体がこの異様な光景を生み出してる。

 どれだけ拳を振るっても無駄。私には一つとして効果がない。だって――




「……レパス王子、分からないの? あなたの両手、ボロボロだよ?」

「……は? なっ!? ば、馬鹿な!? 何故だ!? 神の力を手にした肉体だぞ!?」




 ――私には一発も届いてないもん。レパス王子の振るった拳は私の眼前で崩れ落ち、まったくダメージが入ってこない。

 私の声でレパス王子もようやく気付いたらしく、自らの両手に目を向けて動揺し始める。痛みがないから自分の体がボロボロなことにも気付かなかったのか。


「ク、クソォ! だったらこれはどうだ!? そんな華奢な体は踏み潰して――」



 ブオォオン――ボロロォ



「な、何故だ!? 何故僕の体が崩れ落ちる!?」

「……本当に愚か。あなたはエステナの力をものにできてない」


 それならばと巨体で踏み潰してくるけど、これにしても同じこと。私の頭上へ上げられた足でさえ、手と同じようにボロボロと崩れていく。

 崩れた体は灰となって舞い、これまでのように再生する気配すらない。パワーアップしたつもりだったろうけど、全くそんなことはない。


 ――苦痛を拒んだ肉体では、苦痛で進化したエステナの力を扱えるはずもない。


「あなたはもう人間どころか生命ですらない。神様なんてもってのほか。……言ってしまえば、死んでるも同然。あなたの時間はもう終わる」

「あ、ありえない……!? 僕はこの世界の頂点に立てるだけの器を持ってるのに……!? み、認めない! 認めてたまるかぁぁあ! アヒャヒャヒャァア!!」


 それでも、レパス王子は諦めない。いや、この現実を認めない。

 もう手足がボロボロで立ってることさえできないのに、飛び掛かって私に執念を見せつけてくる。

 これにしたって避ける必要はない。でも、ここで引導を渡すことがせめてもの慈悲か。

 長い因縁もこれで終わりにする。魔剣の一刀にて、完全にその意識さえも――



 バシュンッ! ザアアアァァ



「ッ!? レ、レパス王子が消えた……!? 灰となって……!?」

【う、後ろだ……! 後ろから攻撃を受けたらしい……!】


 ――終わらせようとしたら、私が斬りかかる直前でレパス王子の全身が灰となって消えてしまった。

 これまでの因縁を考えれば、なんとも呆気ない幕切れである。ただ、気にするべきはそんな感慨ではない。

 誰がレパス王子を消したのか? そんなことは少し考えれば明白だ。




 ――私達が本来倒すべき脅威こそ、ここの本当の支配者。生殺与奪なんて好きにできる。




【やっぱり、ゲンソウに溺れた人間ってつまんない。楽園の住人同様、大した学習要素にもならない。……オモチャとしても飽き飽き。でもまあ、いっか。ワタシも遊びはやめようとしてたところだし】

エステナがレパスの横暴をただ許すはずもない。

与えた力もただ適当なオモチャとして遊ぶためでしかなかった。

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