古代より続いた楽園は、完全な崩壊へ
今ここに、神の暴虐が始まる。
「楽園が……必要ない? ま、まさか……!? みんな、伏せて!」
「ミラリア、どうしたんだ!?」
「さっきから聞こえる声……もしかして!?」
声の主はエステナで間違いない。私やセアレド・エゴと違い、正真正銘の本体が喋ってる。
その内容についても理解できた。エステナにとって、楽園の住人を形だけでも残したことに大した意味はない。
――単にオモチャとして手元に残してただけ。不要となったオモチャなんて、捨てないと邪魔になる。
ドガララララァァアア!!
「くうぅ……!? す、凄い揺れ……!?」
【中央に寄るんだ! 壁の方から崩れていくぞ!】
けたたましい轟音を響かせ、楽園という『エステナのオモチャ』が崩壊していく。まるで私が幼い頃『もういらない』と駄々をこねてた時みたいに、適当に扱われていく。
壁に並んでた楽園の住人が入った箱も、床が崩れ落ちた穴へどんどんと転落。大量の遺体が無情なままに暗闇へ消えていく。
「妾はぁぁあ! 永遠の美しさをぉぉおお!!」
「あっ……がぁ……」
これだけ盛大に崩壊してるのに、カーダイスさんは気付く気配すらない。そのままリースト司祭の首を絞めながら、一緒に崩壊に巻き込まれて転落してしまう。
カーダイスさんの頭には怒りしかなかった。リースト司祭も最後は意識があったかも怪しい。
――この高さでは助かりそうにもない。最後の最後まで憐れだったけど、正直構ってる場合でもない。
グゴゴゴゴォオオ……! グチュチュチュ……!
「こ、今度は何ですの!? 床の崩壊は収まったのに!?」
「ッ!? み、見ろ! 下から何かがせり上がってくるぞ!?」
【この状況で姿を見せるなんて、まさか……!?】
「ツギル兄ちゃんの読みで合ってる……! あれこそ、楽園を生み出した根源……!」
床は崩壊し、私達のいる中央以外は底の暗い穴となった。楽園の住人も全員が箱ごと捨てられてた。
そして、穴の中から気味の悪い物音を立てて、とうとうそれが姿を見せる。誰もいなくなった周囲の壁へ黒くて粘つくものを伸ばし、穴の底から這い上がってくる。
壁全体を覆う黒いネバネバのせいで、周囲の光景も禍々しく一変。照らす明かりさえもどこか不気味となり、アホ毛に感じる空気も過去最高に突き刺さるものを感じる。
この黒いネバネバは闇瘴に起因するものっぽい。ここの支配者が自我を得ることになった進化の布石だ。
――それが分かれば、誰が姿を見せたのかも確定だ。
「これが……この装置が……エステナ……!?」
「黒いもので覆われてるが、中から金属も見えるぞ……!?」
「生命のようには見えませんが、これこそが……!?」
【苦痛の中で進化を経て、自我を手にした女神……!?】
禍々しく変化したこの空間に鎮座するのは、私達が目指した最大の敵。楽園から吐き出された苦痛により、本来ありえない進化を遂げた無機物。
どんな生物よりもイレギュラーにして、この世界に当然と広がる力や生物を生み出した創造者。古代に生まれたゲンソウの頂点。
世界で語り継がれる伝承の域へ、実際に自我を持つことで辿り着いてしまった女神。外見に変化はあるけど、浮島で見たものと同じで間違いない。
――創世装置エステナ。人を騙して破滅へと導く神様が、ついにその全容を見せてきた。
「これが……私の本当のお母さん……?」
私にとって、エステナは特別な意味を持つ存在。私だってこの創世装置の一部であり、不要と判断されて吐き出された『世界を守る』という命令から生まれたんだ。
そんな肉親とも言えるエステナがこんな無骨な異形だなんて、予測はしてても改めて見ると寒気がしてくる。
もしかしたら、私もエステナみたいな姿だったのかもしれない。人間として生きることなど叶わず、一緒にこの装置へ押し込められたままだったかもしれない。
――『もしもの恐怖』と『今への安心』が入り混じり、思わず困惑してしまう。
【……ミラリア。思うところはあるだろうが、俺達のやることは変わらない。俺を手に取れ。今こそスペリアス様の願いも含め、過去との因縁を終わらせる時だ】
「……うん、分かってる。私はエステナを倒す。そのためにここまで来た……!」
でも、そんな困惑は一時のものとする。私にとっては、最早エステナが生みの親だろうと関係ない。
私の本当のお母さんはスペリアス様で、本当に守りたいのはこの世界とそこで生きるみんな。
スペリアス様に託された時から私の心は決まってる。世界を毒すエデン文明は、エステナを含めて私が終わらせる。
この創世装置本体を斬り裂いて――
「アヒャヒャヒャ! とうとう僕は最強の力を手に入れたぞぉお! これがエステナの力――神の力! 僕は神となった! もう貴様に後れは取らんぞ……ミラリアァァアア!!」
「こ、この声は……!? エ、エステナの内側から聞こえてきますの!?」
「み、見ろ! 中から誰か出て来やがる! あの野郎が……エステナに憑りついてたってことか……!?」
――終わりにしようとしたんだけど、突然エステナから奇妙な声が聞こえてくる。私の知ってるエステナの声は女声だったけど、この声は間違いなく男の人のもの。
シャニロッテさんやシード卿とも一緒になり、一時構えを中断。この声自体にも聞き覚えがあるし、さっきまでリースト司祭やカーダイスさんがいたこととも辻褄が合う。
やっぱり、この人も楽園まで辿り着いてたのか。そして、エステナの力を我が物にしようとした。
――エステナの表面を覆う黒いネバネバから体を乗り出し、さらに変貌した全容を曝け出してくる。
「待ってたぞ……ミラリアァァア!! だが、遅かったな! エステナの力を取り込み、僕は完全な神となった! これこそ、神そのものという究極の姿だぁぁああ!! アヒャヒャヒャァァア!!」
「レパス王子……!」
ついに姿を見せたエステナを前に、忌まわしき因縁と最後の衝突へ。




