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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
神々が選定せし楽園上空
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そして少女は、楽園を終焉へ

もう、紛い物に惑わされたりしない。

「ツギル兄ちゃん、シード卿、シャニロッテさん……やっぱり声はしない。でも、そこにいてくれてるって信じてる」

「さっきから何をブツブツしておるのじゃ、ミラリア? さあ、こっちへ来るのじゃ。今度こそずっとこの楽園で皆と共に暮らすのじゃ」


 眼前に広がるのは、最初に楽園へ立ち入った時と同じ光景。スペリアス様を筆頭としたエスカぺ村のみんなが、ただひたすらに私がこの地へ留まることを求めてくる。

 でも、この人達は真っ赤な偽物。この空間そのものがエステナに宿ったゲンソウで作り出された幻に過ぎない。

 今の私はただ甘いだけの夢を見てるだけ。エスカぺ村のみんなはもういない。


「本当にどうしたんだ、ミラリア? ここにはフューティ様だっているんだぞ?」

「私だって、ミラリアちゃんと一緒がいいんですよ? 楽園でずっと一緒にいましょうよ?」


 ツギル兄ちゃんにフューティ姉ちゃんの姿も見える。この人達も所詮は偽物だ。

 ツギル兄ちゃんは魔剣のままで、フューティ姉ちゃんは魔王となった。現実の二人がどうしてるかを知ってる今、冷ややかな目を向けることしかできない。

 全てを理解した以上、この偽りの世界には吐き気さえ覚えてくる。見たい夢があったとしても、人は夢の中では生きられない。


 ――現実から逃げ続けても、本当の幸せは手に入らない。


「……エステナ、聞こえてるよね? あなたが私を試したいと言うならば見せてあげる。……これが私の答え。世界を巡り、人として生きた果てに掴んだ道理」


 どこかでエステナも聞き耳を立てているのだろう。私の答えが知りたいならば、望み通りに見せてあげる。

 これが私の掴んだ進化、選んだ道、人としての在り方。あらゆる想いを胸に抱きながら、腰の魔剣へ手を添える。

 私の生きてきた道にはみんながいてくれた。声が届かなくても、今だって一緒にいてくれてる。

 楽園が見せる幻影はこの一刀にて斬り砕いて終わらせる。




 ――たとえどんな困難に見舞われても、目指したいものがある。




「聖天……理閃!」



 スパァァァァアアンッ!!


 ――グゴゴゴゴォ……!



「ミラリア、突然何ををををを――」

「そんなことをしてててて――」

「楽園に――楽園ににににに――」




 楽に溺れるだけの世界なんて望まない。私が欲するのは、みんなと一緒にたくさん感じて成長できる世界。

 そんな未来への願いも込めて、空間を斬り裂くように放った聖天理閃。闇瘴を破る力は、歪んだゲンソウさえも斬り払っていく。

 幻影のみんなは表情を変えることなく、笑顔のまま狂ったように言葉を放つのみ。それとは関係なく、聖天理閃で斬り裂かれた空間からどんどん歪みが広がっていく。

 いや、正確には『これまでの歪みが元に戻ってる』ってことか。ゲンソウの生み出した幻の箱庭が、ついに終わりを迎える。

 とはいえ、これは始まりの一幕といったところか。エステナもこの結末は予想していたことだろう。


「これが私の答え。楽なだけの幻なんていらない。……私は人として、現実を生きる」

#……アナタならそうすると思った。なら、楽園の真の姿も見せてあげる。ワタシにとってはどうでもいいけど#


 それを認めるかのようにどこからともなく声が響く中、私の意識も幻の箱庭から解放されていく。





「――う、うぅ……」

【ミラリア! 意識が戻ったか!?】

「さっきまで真っ暗だったが、ミラリアの目が覚めると同時に明るくなってくるな……!」

「つまり、上手くいったということですの! 流石はミラリア様ですの!」


 気が付けば眠ったように目を閉じており、開くとシード卿とシャニロッテさんが私の体を支えてくれてた。

 みんながいることから、ここが現実なのは間違いない。ツギル兄ちゃんも魔剣のままだけど、やっぱりこっちの方が落ち着く。

 みんなと一緒の現実こそ、私が人として歩むべき道だ。


「……少しずつ見えてきた。これが楽園の真の姿……!」

「いったい、自称神様がいるのはどんな場所で――ッ!?」

「な、何ですの……!? この異質な光景は……!?」

【これまで節々で見たエデン文明の――古代の技術そのものか……!?】


 周囲は暗かったけど、少しずつ明るくなっていく。横にも縦にも広い空間で、みんな一緒になって周囲を見渡す。

 これこそ、現在における楽園の真の姿。エスカぺ村のみんながいた頃とは違う完全な箱庭。実際に目にするのは初めてでも、スペリアス様の言いたかったことが一発で理解できる。


 ――楽園の住人も見えるけど、その姿はあまりに異質。『現実から逃げた人々』だってことが、異質さだけで理解できる。




「こ、これが……楽園の住人なのか……!? ね、眠ってるん……だよな……!?」

「ぜ、全員が何かの器に入り、ガラス越しに眠ってる姿にしか見えませんの……!? か、かなりの数があるのに……全員が……!?」

【俺達が見てるのは現実なのか……!? 夢を見てるとかじゃ……!?】

「……この光景は夢じゃない。むしろ、楽園の住人がここで夢を見てる」




 私の中でも妙な理解が進んでいく。この地を創り出したエステナと同調してるのかも。

 楽園の住人はガラス張りで液体の満たされた棺のようなものの中で眠るのみ。周囲が完全に明るくなっても起きる気配すらない。

 周囲にあるのはチカチカするポチポチに、ガラスに映し出された何かの情報。これこそ、エステナの創り出した楽園という箱庭の正体。




 ――ここのみんなはエステナの手により、覚めなくて都合のいい夢を見続けてる。




「おやおや。あなた方までここへやって来られましたか。意外と早かったものですね」

「なっ……!? テ、テメェは……!?」

「まさか、楽園まで逃げてたなんて……!?」


 私達以外は誰もいなかった空間へ、誰かがゆっくりと声をかけながら近づいてくる。

 やっぱり、この人は楽園へ辿り着く方法を知ってたんだ。元々が楽園にいた人なら不思議でもない。


 ――私としても、この人を野放しにはできない。




「リースト司祭……もしかして、まだ諦めてないの? エステナ教団はおしまいで、楽園そのものも今から終わりを迎えさせる」

「それは困りますね。少しは私の話にも耳を傾け、考えを改めてはくれませんか?」

これが楽園の正体。全てはカプセルの中で見る夢の中という楽な園。

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