大勢での晩餐は、喜びの輪と共に
ミラリア待望のご飯タイム!
ヤカタさんとネモトさんが用意してくれたのはバイキングというものらしい。たくさんの種類と量のご飯がテーブルに置かれ、みんなが好きなものを選んでお皿へ載せていく。
これは実に面白い。一つの種類をたくさん食べ過ぎてお腹いっぱいにならず、いろんな種類のご飯を堪能できる。
「ポートファイブには『オコメ』ってのはなかったが、これは美味いもんだ。タツタ揚げにも合いそうだね」
「なんだったら、ポートファイブとの交易に加えるよう頼んでみるか。オレッチなら各地で顔も利くし」
「その時はカムアーチのことも頼ってくれよ。俺が持ってる貿易網も役立つはずさ」
「スーサイドも加わった方がいいですの! この機会ですし、他の地域とも関わりたいですの!」
みんなもお皿を持ち、ご機嫌にご飯を選んでいく。空間を超えるトンネルのおかげで、世界中からたくさんのご飯を用意できたのも大きい。
ヤカタさんとネモトさんの手腕あればこそとはいえ、今この場所で世界は確かに繋がってる。人々の心も含め、私の守りたい世界が凝縮されたみたい。
――そんな光景が故郷エスカぺ村があった場所に広がるなんて、実に感慨深い。
「さあ、ミラリアちゃん。私達も席に着いて――って、盛りすぎじゃないですか?」
「これぐらい食べたい。全部の種類を制覇したい」
【戦いが終わって緊張も解ければ、いつもの食いしん坊ミラリアか。らしいと言えばらしい】
思うことは多々あれど、私も今はご飯を堪能しよう。お皿に限界まで盛りつけてグラグラしてるし、そろそろ食べないと崩れそうで危ない。
バランスをとりつつ、フューティ姉ちゃんと一緒にテーブルへ。あんまり遠くにも行けないし、とりあえずは近くに座るとしよう。
「お? ミラリアちゃんからウチのもとへ来てくれるとはな。いや~、モテる女は辛いの~。おまけに、そっちは新しい魔王かいな? いや~、こっちもこっちでベッピンさんやないかい。せやけど、ウチのストライクゾーンからはちーっと年齢が上すぎるか」
「ミ、ミラリアちゃん? この人は……何ですか?」
「……場所、間違えたかも」
【よりにもよって、レオパルがいる席かよ……】
でも、こういう時に限って運がない。座った席の向かいにいるのは、すでに食べ始めてるレオパルさん。最早喧嘩祭りから始まってた威勢もどこ吹く風で、いやらしくニタニタしながら目を向けてくる。
これは完全に普段の変態へ戻ってしまったと言えよう。本当にこの人はオンとオフの差が激しい。
できることなら避けた方が賢明だけど、盛りつけたお皿のバランスが悪くて動けない。フューティ姉ちゃんも困惑してるのに、私のお皿のせいで動けない。
――なんという失態だ。せっかく魔王として蘇ったフューティ姉ちゃんを困惑させるなんて、妹失格である。
「ぬぬっ!? あそこに見えるは、ミラリアお姉ちゃんに新魔王様!? 向かいには大変な海賊さん! よく分からないけど、私もそっちの席へ行きます! ミラリアお姉ちゃん一人に重荷は背負わせません!」
「重荷ってウチのことか!? せやけど、長耳ちゃんまで一緒とはもってこいや! ウチのテンションも最高にハッスルで――」
「だったら、俺もご一緒させてもらおうか。ミラリアと一緒だしな」
「……オレもいるかァ。また余計な粗相を働かれても困るしなァ」
「シッシッ! 野郎はお呼びやあらへん! どっか別のテーブル行けや!」
そこへさらに加わるのは、私の妹トトネちゃん。おまけにシード卿やトラキロさんまで現れて、同じテーブルの席を埋めていく。
なんだか、このテーブルだけ異様に盛り上がってる。周囲と比べてとにかく騒々しい。
「わたくしも行きますの! ミラリア様と一緒ですの!」
「だったら、アタイもそっちに行こっかな? ちょいと場所を空けておくんなよ」
「オラもお邪魔したいべが、流石に狭くなってるべ」
「レオパル君。君は別のテーブルへ移りたまえ。学生時代のあれこれをバラされたくはないだろう?」
「なんでや!? なんで一番最初からおるウチが除け者扱いなんや!? コルタ学長も卑怯やろ!?」
さらにさらにと割り込んでくるのは、シャニロッテさんにランさんにホービントさんにコルタ学長。流石に人数が多すぎて、ご飯の置き場も椅子も足りなくなってくる。
どうやらみんなして私と一緒にご飯したいらしい。私も大勢の方がいいけど、ギュウギュウでお口へ運ぶどころの騒ぎではない。
「だから普段の行いをしっかりしろって、何度も口酸っぱく言ってるのによォ……」
「それだったら、あんた達は海賊辞めるところからじゃない?」
「うっさい! ニャンニャンパラダイス完成までは海賊辞めるわけにはいかんのや!」
「そのために海賊してるのですか!?」
「……どうやら、レオパル君はもう一度しっかり教育する必要があるようじゃのう」
「それって、スーサイドへ再入学ですの? ……わたくし、嫌ですの」
「スーサイドの娘っ子が嫌がるなら、相当ヤバいみたいだべ……」
「つうか、全員落ち着けって! ミラリアが飯を食えねえだろ!?」
最早ご飯とか席とか関係ない騒動へと発展する始末。みんながみんな、言いたい放題のしっちゃかめっちゃか。
私はお箸を手に持ったままで固まって見てることしかできない。気が付けばみんな揉みくちゃになってるし、ご飯よりこの状況をどうにかする方が先決だ。
ただ、思わず眼前で広がる騒動に見入ってしまう。ここにいるみんなって、私とも仲良くしてくれた人達だ。
ちょっと喧嘩っぽいけど微妙に違う。どちらかというとじゃれ合ってる感じ。
これまでの旅で出会ったみんなが傍にいてくれて、私の周りでワイワイキャンキャンやってるって考えると――
「……プッ! プハ、プハハハ!」
【え? ミ、ミラリア?】
――思わず変な笑いがこみ上げちゃった。
それはミラリアがこれまで紡いできた人々の輪。




