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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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転生で紡ぎし魔王は、かつての聖女へ託すために

これがこの世界における魔王の歴史。

 セアレド・エゴが逃げ出すために壊した壁から顔を見せたのは、転生魔竜の姿のままのゼロラージャさん。ただ、全身が痛々しいまでにボロボロだ。

 流石の魔王といえども、エステナ教団が用意した黒いドラゴンの軍団を相手するのはキツかったことが一目瞭然。それでもここまで来てくれたってことは、相応の戦果を上げてくれたことでもある。


「ドラララ……安心せよ。あのドラゴンどもは我が打ち破った……。階下の戦いも収まりつつあるし、この戦いの勝利は決まったぞ……グフゥ……!」

「わ、分かった! 凄く感謝してる! でも、これ以上喋らないで! 早く手当てを――」

「無駄ぞ……。魔王とて無敵では非ず……。どうやら、我にも死期が訪れたようぞ……」

「そ、そんな……!?」


 ただ、代償はあまりにも大きい。鱗が剥がれて血塗れのゼロラージャさんには、私からしても生気が弱まって見える。このままだと本当に死んでしまいそうなほどだ。

 なのに、ゼロラージャさんは死を受け入れるばかり。手当も拒み、壁から顔を覗かせてこちらの様子を疑ってくる。


「う……うぅ……」

「……その者が紛い物のエステナとして利用されていた器……か。死してなお利用され、望まぬ復活を遂げるとは憐れなものよ……。されど、我ならばこの者に『新たに別の生』を与えることもできようぞ……」

「ふ、ふえ……? 別の……生って……?」


 ゼロラージャさんの目線の先にいるのは、エステナの力が抜けたフューティ姉ちゃん。こちらも再び死へと向かっており、私では到底助けられそうにない。

 だけど、ゼロラージャさんには何か秘策があるみたい。ゼロラージャさん自身も瀕死だというのに、何をどうするつもりだろうか?




「方法は一つ……その者を『新たな魔王』として転生させる。代々の魔王がそうしてきたように、我ならば可能ぞ。……この者も元は闇瘴を浄化させる能力を持った聖女であろう? 素質は十分ぞ……」

「フューティ姉ちゃんを……魔王に転生……!?」




 語られる方法は到底想像もできなかったもの。ただ、魔王という種族が代々そういうものだってことはかすかに耳にしてた。

 魔王とは自らの生を別の人へ転生させ、その能力や役目を未来へ引き継がせる種族。『人間としての生』に限界を迎えつつあるフューティ姉ちゃんであっても『魔王としての生』を新たに付与すれば、その命を繋ぎ止めることができるのは理解した。


 ――だけど、それはゼロラージャさんの生を終わらせることになる。ゼロラージャさんが犠牲になることでフューティ姉ちゃんを救うのと同意だ。


「ドラララ……悲しそうな顔をするでない。むしろ、これは魔王という種にとって当然の成り行きぞ……。我の身も限界である以上、転生により次へ繋ぐことこそ道理よ……」

【だ、だが……そのためにあんたが死ぬってのは……】

「確かに我は死ぬ。されど、存在全てが忘却となるわけに非ず……。ゼロラージャという魔王の意志は、次の代へと引き継がれる……。者どもの記憶の中で生き続ける……。ウヌら兄妹にとってのスペリアスと同様に……な」

「記憶の中で……生き続ける……」


 そんなことはゼロラージャさんも承知の上での提案だ。元より、時間がないのはゼロラージャさんだって同じこと。

 このまま両方が犠牲になるぐらいならと考えれば、ゼロラージャさんの言い分は合理的と言える。いや、もっと重要なことは別にあるのかも。


 ゼロラージャさんはここで死んでも、私達は決して忘れない。思えば、この人がいてくれたことによる影響は大きい。

 傷ついたスペリアス様を匿ってくれて、箱舟を求める旅にも同行してくれた。今回の戦いにしたって、ゼロラージャさんがいてくれたからここまで辿り着けた。

 思い返せば感謝なんて言葉でも足りない。種族の差なんて関係なく、魔王という存在が私に与えてくれた恩恵は計り知れない。そう考えると、また涙が溢れて止まらない。


 ――そんなゼロラージャさんに対してできることは、よく知る私達が忘れないこと。スペリアス様と同じく、ゼロラージャさんはこれからもみんなの記憶で生き続ける。




「さて……時間もあまりない。ウヌには魔王の責務を押し付ける形となるが、ここで出会ったのも運命ぞ……。我が繋ぎし魔王の宿命、今度はウヌが繋いでくれ……」



 シュゥゥゥウウ



「う……うぅ……? か、体が……感覚が……?」




 これ以上思い返してる時間も許されず、ゼロラージャさんの肉体が霧となって消えていく。その霧はフューティ姉ちゃんの体へ入り込んでいく。

 これが新たな魔王を生み出すための行いだってことは理解できる。事実、私の抱えてるフューティ姉ちゃんにも変化が現れる。

 力の抜けてた体は少しずつ動き出し、容姿についても変化していく。着ていた白いローブはゼロラージャさんのものに似た黒いものへ変わり、ユーメイトさんみたいな角や尻尾も生えてくる。

 理屈じゃない変化から理解できる。今、フューティ姉ちゃんには魔王としての能力が引き継がれた。


 ――ゼロラージャさんの紡いできた進化が、フューティ姉ちゃんの止まった時間を正常に動かしてくれた。


「こ、これは……魔王の力……? 私、まだ生きられて……?」

「フュ……フューティ姉ちゃぁぁあん!!」

【フューティ様ぁぁあ!!】

「わわっ!? ミラリアちゃんにツギルさん!? ……そうですか。私も理解できてきました。魔王が私を救ってくださったのですね」


 ゼロラージャさんへの感謝と別れの寂しさ。魔王という存在の偉大さ。それら全てが頭の中を巡りつつも、目の前の人物へ泣きながら抱き着く衝動だけは抑えられない。

 髪はエステナだった時の緑色のままで、角や尻尾だって生えてる。かつてのフューティ姉ちゃんとは大きく違うけど、間違いなく本人だってことは抱き着いた感覚で分かる。

 語る言葉も懐かしい。一度は死んでもう二度と会えないはずだったのに、魔王という王様が奇跡を起こしてくれた。


 ――私にとって大きな後悔の一つが、時を経てこの邂逅により晴らされた。




「お帰りなさい……! フューティ姉ちゃん……!」

「ええ……ただいま、ミラリアちゃん。随分と心配させてしまいましたね」

新たな魔王――フューティ。

エステナの呪縛から解き放たれ、ここに再臨。

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