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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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◆傀儡聖女フューティⅡ

狂った時間は再び動き出すのか?

「ッ!? フューティ姉ちゃん!? 聞こえる!? 私の声、届いてる!?」

「ウ……ウゥ……私は……!?」

【エステナトシテ……グゴォ……!?】

【セアレド・エゴも目を覚ましてるのか……!? こ、これは……何が起こって……!?】


 関わってるのが本物のエステナ同士だからなのか、言葉の力が魔法のように意味を成したのか、詳細なんて判断できない。

 ただ、これまで攻撃してたフューティ姉ちゃんは触角の生えた頭を抑え、悶えながらその動きを止めてくる。憑依してるセアレド・エゴにしても同じこと。

 揃って外から押し寄せてきた心に苦しんでるみたい。その心とは、他でもない私の言葉で届かせたもの。


 ――苦しむ姿を見るのはこっちも苦しい。でも、チャンスはわずかに見えてきた。


「ねえ、思い出して! フューティ姉ちゃんはエステナなんかじゃない! みんなから聖女と慕われて、私のお姉ちゃんである人間!」

「わ、私は……エステナではなく……人間……?」

「セアレド・エゴにしてもそう! あなたはエステナ教団に操られる道具じゃない! 装置が自我を持って、外の世界を求めるために生まれたもう一人のエステナ! 私と同じ存在! フューティ姉ちゃんを縛り付けないで! お願い……解放してあげてぇぇえ!!」

【セアレド・エゴ……エステナ……!?】


 私が握りしめるのは魔剣じゃない。今もなお苦しみ続けるフューティ姉ちゃんの体だ。その体へ腕を回して抱き着き、胸元に顔を押し付けて必死に呼びかけ続ける。

 フューティ姉ちゃんをここまで苦しめてるのは私の言葉だけど、声をかけることしかできない。気持ちを口にすることしか思いつかない。




 ――私はただ助け出したい。死すら歪められた摂理を終わらせることで。




【ソ、ソウダ……! ワ、ワタシノ望ミハ……外ノ世界ヲ手ニシテ――ウグオォォオオオ!!】



 ドゴォォオオンッ!!



「ッ!? セ、セアレド・エゴが……!?」

【壁を突き破って……逃げ出したのか……?】




 その願いが通じたのか、これまでフューティ姉ちゃんへ憑りついていたセアレド・エゴに大きな変化が見える。

 絶叫を上げながら憑依を解き、玉座の間にある壁を突き破っての逃走。おそらく、自らが何者だったかを思い出したんだ。

 あの人も私もエステナだからかなんとなく分かる。意識も何も封じられて利用されるのなんて、進化にさえ繋がらない無意味な苦痛だったのだろう。

 どこを目指したのかまでは分からない。ただ、これで『偽物のエステナ』を作る要因は取り除かれた。


 ――私の抱き着いてた体からも力が抜けて寄りかかってくる。


「あ……うぅ……ミ、ミラリアちゃん……ですか……?」

「フューティ姉ちゃん!? 私のこと、分かるの!? 元に戻ったの!?」


 寄りかかったフューティ姉ちゃんに目を向けると、頭の触角がなくなっている。髪は緑色のままだけど、意識は確かに戻ってる。

 私の顔も思い出してくれた。まだお互いに困惑するけど、かつてのフューティ姉ちゃんが確かにここにいる。

 嬉しさがゴッチャになって、この気持ちをまともに表現できない。涙を流し、抱き着きながら呼びかけることしかできない。


 一度はレパス王子に殺されたフューティ姉ちゃん。命の時計を止められてなお利用されてきた私の恩人――もう一人の家族とも言える人。

 そんな人の時間が再び動き出したのだ。エステナ教団の傀儡としてではなく、自分自身の確かな意志を持ってくれてる。


 ――この喜びを表現できる言葉が見つからない。


「何やら……長い間、悪い夢を見ていたような……? う、うぅ……体が……意識が……」

「ッ!? ダ、ダメ! しっかりして! お願いだから……もっと私の傍にいて! ようやく……ようやく会えたんだから……!」

【……まさに奇跡だな。だが、それも一時的なものか。フューティ様の時間はとっくに止まってる。エステナ教団やセアレド・エゴにより、無理矢理動かされていただけに過ぎない。……偽物のエステナとしての力を失った今、その時間ももう終わる】


 ただ、この喜びは束の間のもの。ツギル兄ちゃんの言いたいことは私だって理解してる。

 フューティ姉ちゃんが生き返ったのは、あくまでセアレド・エゴという要因が存在したからに過ぎない。聖女という肉体を利用され、偽物のエステナの器となっていただけの話。

 だからセアレド・エゴがいなくなった今、無理矢理動いてた時間だってじきに止まる。それが本来の命の在り方だってことも理解してる。


「お……お願い! もっともっとお話させて! 私、フューティ姉ちゃんがいなくなってから、ずっと後悔もしてて――」

「き……気に病むことは……ありません……。私がすでに死した身であることは……かすかながらも理解してます……。死んだ人間が生き返ることなど、本来あってはならないこと……。ミラリアちゃんが気に病むことはなく……元の摂理に戻るだけで……」

「嫌……嫌! 摂理とかでも嫌! 二度も私の前でフューティ姉ちゃんが死ぬなんて嫌! こんなの受け入れるなんて……嫌ぁぁああ!! うあぁぁああ!!」


 だけど、理解しても嫌という気持ちしか湧いてこない。事実を理解できても、認めて受け入れることができない。

 せっかくお話のできたフューティ姉ちゃんがまた死んじゃうなんて嫌。スペリアス様の時と同じ気持ちを味わうのが嫌。

 もう『嫌という感情』しか湧いてこない。人間って、やっぱり事実を素直に受け入れられない場面がある。


 ――それぐらい嫌という気持ちが大きくて、私の心も一緒に壊れてしまいそうなほど苦しい。




「……どうやら、そちらは一応上手く行ったようだな。ただ、我の方は限界か……」

「え……え……? ゼ、ゼロラージャ……さん……?」

終わりの直前に駆けつけるのは、足止めを担った魔王。

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