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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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◆傀儡聖女フューティ

VS 傀儡聖女かいらいせいじょフューティ


エステナという括りに縛られた者同士が対峙する時。

「エステナ……として……命令を……!」

【く、来るぞ、ミラリア! 構えろ!】


 仮面を外し、緑の髪と伸びた触角がより強調されたフューティ姉ちゃん。この世界での伝承として語られるエステナの偽物が、本物のエステナでもある私へ襲い掛かって来る。

 今回は以前と違い、命令に従って待つようなことはない。仮面による制御さえ失い、暴走したように初手からこちらへ迫ってくる。

 能力の根源となってるセアレド・エゴも背後から姿を現し、巨大な腕でこちらを薙ぎ払おうと振りかぶってくる。当たれば私の小さな体なんて、簡単に吹き飛ばされてしまう。


 ――でも、なんだか避けたくない。



 ブオォォオン! ドゴォォオンッ!



「あぐぅ……!?」

【ミ、ミラリア!? なんで避けない!?】


 フューティ姉ちゃんが繰り出したセアレド・エゴの右腕を、躱すことなくあえてまともに食らいに行く。ツギル兄ちゃんも慌てるけど、私はこうした方がいい気がしてくる。

 だって、フューティ姉ちゃんは本心でこんなことしてないもん。もうとっくに死んじゃったのに、無理矢理動かされてるだけだもん。

 セアレド・エゴにしても同じ。二人とも無理矢理従わされ、エステナという存在に押し込まれてるだけ。

 そう考えると、本物のエステナである私も『ただ戦って倒す』だけじゃダメな気がする。何をどうすればいいのかなんて分かんないけど、この勝負だけは全てに真っ向から応えるべきだと思う。

 元より、相手となるのはフューティ姉ちゃん。私では手を出すことさえできない。


「ケホッ……フュ、フューティ姉ちゃん……。私のこと、思い出して……。あなたのことは……今でもずっと……」

「エステナとして……命令を……!」


 殴られれば吹き飛ばされ、全身に痛みが走る。こんな痛みは自分から受けにいってるだけで、成長や進化とは何も関係ない。

 それでも、私にはこうすることしかできない。こうせずにはいられない。

 エステナという神様から始まった因果を、エステナ自身である私が受け止めないと気が済まない。知ってしまった真実から目を背けたくない。


 ――この気持ち自体は神様ではなく、あくまで人間として。人の内に秘める気持ちに対して、正面から向き合いたいってだけ。



 ドガァ! ボゴォ! ゴガァ!



【ミ、ミラリア!? やめろ! こ、こんなことしても意味なんて……!?】

「い、意味がないか決めるのは……まだ早すぎる……! 私、こうじゃないと気が済まない……!」


 向こうの攻撃は以前のように槍の召喚はなく、セアレド・エゴを使役する形での肉弾戦のみ。

 それで何度殴られて吹き飛ばされようと立ち上がり、守ることなく身構える。どれだけボロボロになろうとも、一身に攻撃を受け続ける。

 私ではフューティ姉ちゃんを傷つけるなんてもってのほか。ならばできることは、心の赴くままに従うことのみ。

 これが無意味だとも思ってない。フューティ姉ちゃんを止めるためには、心に訴えることしか思いつかない。


「フューティ姉ちゃん……思い出して! あなたはスーサイドでも、わずかに私達のことを思い出してくれた! だったら……全部思い出して! あなたが本当は何者だったかも! エステナではなく……人として生きた記憶を!」

「ひ、人と……して……!?」


 フューティ姉ちゃんは他のエステナ教団の面々とは違う。ただ操られてるだけで、自らに欲望なんてない。

 死してなおその身を利用されてるだけ。ただ以前のことを思い出すと、どうしても期待してしまう。

 フューティ姉ちゃんの意識はまだその体のどこかに根付いてる。かすかにでも面影が見えるからこそ、呼びかけずにはいられない。


 ――ありえない可能性であっても期待したい。だって、人間は『可能性を信じたい』生き物だから。


「セアレド・エゴにしても分かるよね!? あなたはエステナの一部――私と同じ存在! あなただって、最初は外の世界への憧れで生まれたんだよね!? だったら、エステナ教団の好きに利用されてていいの!? あなたには……抵抗できる自我だってあるはずなのに!? ケホッ、ケホッ!」

「セアレド……エゴ……? わ、私の……内に……ウウウゥ……!?」


 口の中を切って血の味もするし、何度も殴られたせいでヘトヘト。ただ、わずかながらもフューティ姉ちゃんの動きは弱まってきてる。

 何度も何度も心のままに叫び続け、内に眠るセアレド・エゴにも語り掛ける。

 この場にいるのはエステナ教団による『苦痛なき強欲』の犠牲者達。単純に暴力で語る意味は希薄だ。

 私が望むのは、これ以上の犠牲が広がらないこと。そのために今この場における戦い方とは、剣を振るうことではなく言葉だと考えてる。


 ――この世界における魔法の詠唱のように、言葉には力があるって信じたい。




「ウグ……グウゥ……!? エ、エステ……!?」

【ソ、ソウダ……!? 私ハ本来、エステナトシテコノ世界ヘ解キ放タレテ……!?】

「そ、その声……!? まさか、セアレド・エゴが……!?」




 そんな願いがわずかにでも届いたように、フューティ姉ちゃんとセアレド・エゴに変化が現れた。

ただ力をぶつけ合うのではなく、心で語り合う戦い。

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