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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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◇ディストール本丸決戦Ⅱ

ディストールへ向かった戦力とて、並大抵のものではない。

「わ、我々魔王軍でも歯が立たぬだト……!? に、人間……我々を置いて逃げロ……! アレから逃がれられヌ……!」

「馬鹿言ってんじゃねえよ! お前達も一緒に逃げるぞ! 共に戦う仲間を見捨てられるかよ!」


 城門を抜けて、辿り着いたのはディストールの城下町。私もかつてはここで生活してて、ちょっとした懐かしさもある。

 でも、広がる光景は当時の記憶と全然違う。建物は倒壊し、これまで以上に激しい戦火が覆いつくしてる。

 これをやったのはこっちのみんなじゃない。むしろシード卿が鎧の魔物さんに肩を貸したりして、必死に逃げ惑うばかりだ。

 決してみんなが弱いわけじゃない。魔王軍も含めた最高戦力が揃ってるぐらいだ。


「シード卿! 何があったの!? 魔王軍がここまで――」



 ドゴォォォォオオンッ!!



【ま、またさっきの音が!? ……って、あれはまさか……ドラゴンか!?】

「魔王軍のドラゴンじゃねえ! エステナ教団が用意した連中だ! おまけにその力は尋常じゃねえ!」

「我々の同胞であるドラゴンもほぼやられてしまっタ……! まさか、人間が魔王軍の象徴とも言えるドラゴンを使役するなどと……!」


 道中と違い、ディストールでの戦いが劣勢なのは明らかだ。シード卿へ駆け寄って事態を確認しようとすると、こうなった理由も遠方に見える。

 城下町を蹂躙するように闊歩するのは、黒々とした肉体の巨大なドラゴン。その足元に転がるのは、私も見覚えがある魔王軍のドラゴンさん達。


 ――戦火から伸びる黒煙も合わさり、まさに地獄絵図。これまでとは次元の違う力がこちらへ攻め寄せてくる。


「グギャオォォオオ! ギャオォォオオ!」

「あ、あのドラゴンさん達……なんだか苦しそう……」

「おそらく、闇瘴を過剰に取り込んで無理矢理進化させられたのダ……! あんなものは魔王軍でも見たことがなイ……!」

「ディストールの城にしたって、黒い結界で覆われてやがる……! あれを破壊しねえと、中にいるエステナ教団も倒せねえってのに……!?」


 直感とその場の状況からしか理解できる要素はない。ただ、エステナ教団がまた命を弄ぶようなことをしてるのだけは分かる。

 闇瘴はエステナから漏れた苦痛であり、その苦痛は進化の鍵にもなる。そんな力を過剰に取り込ませれば、膨れ上がりすぎた力に苦しみながら暴れることしかできない。

 成長痛と似たものであれ、その中身はあまりに異質。無理矢理与えられた苦痛なんか毒でしかない。


 ――レパス王子がいなくなっても、エステナ教団の狂った理念は止まらない。


【おい、シード卿! ウチの声が聞こえとるな!? なんやヤバすぎる連中がおるなら、箱舟の天閃理槍で――】

【待つんじゃ、レオパル君! あの一撃は強力過ぎて戦ってる皆を巻き込む! 何より、城の結界を破壊する手段としても必要じゃ! ここで使えば、本当の本丸を突破することも叶わんぞ!】

【コ、コルタ学長……!? そ、そないなこと言うてもやな……!?】


 迫る脅威を前にして立ちすくんでると、シード卿の持ってたシーバーから声が漏れてくる。どうやら箱舟にいるレオパルさんとコルタ学長も状況が見えてるみたい。

 上を見れば煙に紛れてかすかに映る箱舟の姿。確かに天閃理槍があれば、エステナ教団のドラゴン軍団だって倒せるかもしれない。


 ――ただ、それはあまりに諸刃の剣。みんなへの被害もあれば、次の一手を捨てることにもなりかねない。


「……ともかく、私は戦う。怪我したみんなだって逃がさないといけないし、このままにはできない」

「ミ、ミラリア……。気持ちは分かるが、あいつらの相手は流石にヤバすぎる。俺だってどうにかしてえが……!」

「わ、私達……いったいどうすれば……!?」

【クッソ……! あと一歩だってのに……!?】


 シード卿やトトネちゃん達は不安で圧し潰されそうになってる。私やツギル兄ちゃんだって不安でいっぱい。

 だけど、ここで逃げたら全部がダメになる。ここまで一緒に戦ってくれたみんなを見捨てることだけはしたくない。

 魔王軍のドラゴンさえ蹂躙する力。ツギル兄ちゃんとの合体を使っても、とても届きそうになり戦力差。

 せめて、少しでも時間を稼ぐしかない。今はダメでも、別のみんなが来てくれれば――




「……どうやら、我の出番のようぞ。魔王軍も人間もイルフ人も下がるがよい。ここは我が単騎にて出る」

「ゼ、ゼロラージャさん……!?」




 ――そう思って前へ出ようとすると、遮るように大きな影が先に一歩前へ。この事態を見て駆けつけてくれたのか、魔王であるゼロラージャさんも戦場へ姿を見せてくれた。

 心強い味方だけど、いくらゼロラージャさんでもあれだけの数で荒れ狂うドラゴンの相手は荷が勝る。一人で挑むなんて無茶苦茶だ。


 ――そう思いはしても、ゼロラージャさんの全身から滲み出る『覚悟』から、言葉として発することはできない。


「グギャァ! ギャァァアア!!」

「人の手で歪められた我が同胞……か。別の生物をベースとして生み出したと見えるな。……神の力とは恐ろしきものよ。いや、真に恐ろしきはこのように利用する狂った強欲か」

「あ、あの……ゼロラージャさん……?」

「ミラリアよ。ウヌらは先へ進め。ここは我が受け持つと言ったであろう。……ヌンッ!!」


 黒いドラゴン達へ迫りながら、ゼロラージャさんも紫色のドラゴンへと変身。こっちは転生魔竜というこの世界に適応した進化の姿だ。

 この世界の進化における闇と光が対面するような光景だ。わずかに呼びかけた私の声も気にかけず、そのまま巨体を揺らして前へと進む。


 ――いくらゼロラージャさんとはいえ、あまりに相手が悪すぎる。でも、その背中には反論を入れる余地がないほどの気迫さえ感じて、ただただ従うことしかできない。




「行け、スペリアスの娘よ。我は魔王という王。者どもの先に立ち、道を切り開く者ぞ」

ドラゴンの頂点に君臨する魔王、ついに出陣。

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