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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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◆新開疑種レパスⅢ

ミラリアとレパス。

対立する二人の行く末。

「な、何を知った風な口を……! 僕を超えて神にでもなったかのように……!」

「だから最初にも言った。私のもう一つの名前は……エステナ。あなたも求めたエデン文明の根底が、私という存在を創り出した」

「きゅ、究極の進化を遂げた僕が……まさかこんな……!?」


 脳天を割られたレパス王子はよろめき、まともに剣を振るうことさえできない。憎まれ口はなおも叩いてくるけど、こっちからすれば完全に負け惜しみ。

 下手にダメージが入らないから、何度も攻撃を食らってしまう。カーダイスさん同様、自分が本当にどれだけ傷ついてるかも把握できてない。


 ――こんなものは生命の辿る進化じゃない。創生装置(エステナ)よりもよっぽど『物』だ。


「ま、まさか、本当に貴様が神だと――エステナだと……!?」

「別に強さで示そうとは思ってない。私自身、神様よりも人間でありたいって願ってる。……でも、必要ならば神様とも名乗る。それであなたを屈服させて、エステナ教団を止められるのならば」


 スペリアス様の魔剣を握り、レパス王子の喉元へ突きつけての挑発。また自分でも『らしくない』ことをしてるって思うけど、本心では『こうしておきたい』って気持ちが先行する。

 エスカぺ村のみんなにフューティ姉ちゃん。それ以外にも大勢の命を犠牲にしてきた罪を味合わせないと気が済まない。

 肉体的に倒すことが叶わずとも、精神的には完全に追い詰める。これまで自分がしてきたことを、今度は自分がされる時だ。


 ――どれだけ苦痛から逃げても、その心だけはもう逃がさない。




「……ククク。ハーハハハ! ざ、戯言を! 神のくせに人間になりたいなどと、そんなはずがないだろう!? 神の声だろうと関係ない! 僕が……僕こそがこの世界の神となんだ! 苦痛を超えた究極の存在だ! もうそれ以外信じないぞ! ハーハハハ!」




 ただ、肝心のレパス王子は突如狂ったように笑い始める。心を追い詰められたことで、完全に壊れちゃったみたい。

 言ってることも支離滅裂。敗北を認められず、自分が一番だって言い続ける。

 きっと、そうしないと自我を維持できないのだろう。最早、エステナ教団を使って世界を手にするなんて野望もどこ吹く風と見える。

 私がやったことだから、多少の罪悪感はある。でも、本当に『多少』ってだけ。

 自分でもびっくりするぐらいレパス王子に共感できない。むしろこれまでの行いを振り返ると、こうなって当然とさえ思えてしまう。


「まだだ……! まだ僕には奥の手がある! この場はカーダイスとフューティに任せておけばいい! リースト司祭とも合流できれば、僕の体はさらに進化できる……! そうすれば、貴様だろうがエステナだろうが……アヒャヒャヒャ!」



 ヒュンッ!



「……消えた。転移魔法で逃げたみたい」

【最後の方は完全にイカれてたな……。俺も憐れむ気にはなれないが】


 最早肉体どころか精神まで狂ってしまったレパス王子。きっと本人には『何が自分を苦しめるのか』ってことさえ理解できてない。

 苦痛を拒みすぎて、現実からも目を背けてしまった成れの果て。楽園の人達についても同じような感じかもしれない。


 ――あんな姿を見ると、本当にエスカぺ村で育てられてよかったって思う。一歩間違えれば、私もああなってた可能性はなきにしもあらずか。


「ツギル兄ちゃん、レパス王子がどこへ行ったか分かる?」

【正確にどこまで行ったかは分からないが、少なくともこの近辺にはいない。奴が使った転移魔法は術式からして『特定の目的地用の遠距離タイプ』だったからな。もしかすると、この大陸からも離れたかもしれない】

「そう。それならいい。……フゥ」


 普段と違い、無心を意識した戦い。そのせいか変に気疲れしちゃったから、安全を確認すると一息つかずにいられない。

 魔剣を二刀ともしっかり納刀したのを確認し、肩の力を抜いてため息を一つ。いくら修行感覚で相手したとはいえ、慣れないことってやっぱり辛い。

 レパス王子にはまだ何か秘策があるらしいけど、ツギル兄ちゃんが言うには今何か大事を起こす気配はない。警戒は必要だけど、逃げたならそれでいい。


 ――結局、あの人は最初から最後まであらゆる事象から逃げてただけか。一時でも信じてた自分が恥ずかしくなる。




「ミラリア様! 大丈夫ですの!?」

「何やら物音も聞こえましたが? 顔色も優れないようですが?」

「シャニロッテさんにユーメイトさん……大丈夫。少し疲れただけ」




 部屋の中で一息入れてると、私が戻るのを待ちきれなかったのか姿を見せる二人。少し疲れが残ってるといっても、あんまり悠長にしてられない現実だってある。

 いくらレパス王子がいなくなったとはいえ、エステナ教団はまだまだ健在。話からして、まだカーダイスさんだって残ってる。


 ――それと、フューティ姉ちゃんも。どれだけ変わり果てていようとも、もう一度会いたい気持ちだってある。


「そっちの様子はどうなってる?」

「この聖堂はほぼ制圧できましたの。今はディストール側の戦線とも繋げ始めて、確実に攻められてますの」

「ですが、一つ気になる情報もあります。こちらのシーバーとやらでアキント卿から連絡も入ったのですが、ディストール側で難儀しているとのことでして」


 いずれにせよ、戦いはまだ続く。心持ち休憩もできれば、戦況を確認して再び行動を考えないといけない。

 エスターシャは予定通りに侵攻できてるけど、敵本丸とも言えるディストールはまだ落とせてないないみたい。

 いくら代表のレパス王子が逃げたといっても、エステナ教団は素直に止まってくれない。やはり残りの戦力も打破しないといけないか。


 ――だったら、私のやることも自然と決まる。




「ここはみんなに任せる。……私、今からディストールに向かう」

エステナ教団との戦いはまだ終わらない。

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