◆新開疑種レパス
VS 新開疑種レパス
直接対決は三回目。最早人とは呼べない異形との決着を。
「ここまで辿り着いたことは見事だが、神とも言える力を手にした僕の敵ではない。自らをエステナと騙ろうと、現実の力の差には無意味さ」
「口先だけ動かしても意味はない。……長々と話すのも腹が立つ。速攻で決めさせてもらう!」
いまだに自らの方が優位と述べ、挙句神を自称するレパス王子。その自信がどこから湧いてくるのか分からない。
とはいえ、そんなことに構いたくもない。剣を振り下ろしてはくるけど、十分に対処できる範囲。
「理刀流……反衝理閃!」
キンッ――ズパァンッ!
グゥゥチチチィィ
「フン。いつぞやのカウンター技か。とはいえ、僕の体には通用しないか」
【リースト司祭並の再生速度――だけじゃない!? こ、この感覚は!?】
「な、何これ!? 刀身が……重い!?」
自信を持って鞘ガードからの反衝理閃。技自体は問題なく決まり、レパス王子へカウンターの一閃。刃は確かに体へと刻みこめた。
ただ、斬った時の感触がおかしい。再生までは予測できたけど、この魔剣越しに重くのしかかるような感覚は予想外。
まるでゴムを斬ったといった方が近い。刃の通りが肉の感覚ではない。
「僕の体はリースト司祭以上の改良が施されていてね。捕らえた人間の死肉を凝縮して埋め込み、サイズはそのままに密度を向上させてある。剣を鍛えるのと同じさ。僕の体は苦痛を感じないどころか、質そのものが強化されている。このことを理解して、まだ勝てると思うかい?」
「……あなたのやってることに吐き気を覚えるのも飽きてきた。どこまで命を冒涜すれば気が済むの?」
【本当に虫唾が走るな……。さも自分の力のように語ってるが、結局は他者を犠牲に成り立ってるだけだろ?】
「何とでも言うがいいさ。強者には奪う権利がある。権利こそが世界を支配する」
以前より強くなってるとは思ったけど、その方法はあまりに予想外。ただ、ある意味ではレパス王子らしい。
かつてディストールでも見せた人肉のデプトロイドと同じことを、今度は自らの肉体へ施したらしい。サラッと語って来るけど、内容としては末恐ろしい。
レパス王子に『何人もの肉体が融合してるから』じゃない。『簡単に自分のために他者を犠牲にする』からだ。
――分かっていてもなお恐ろしい。レパス王子は他者を道具としか見ていない。
「これこそ、エデン文明が導いた本物の進化さ。あらゆる生命を凌駕する最強の権利。どれだけ君達が数を揃えても、僕は人そのものを身に取り込むことができる。これぞ、エステナさえ超える真に神の領域さ。真の神とは、烏合の衆さえ糧とできる」
「……もし本当にそれが神様の定義なら、私はやっぱり人間がいい。大切なみんなと一緒がいい。少なくとも、あなたを人とは認めない。……御託だって、もう聞き飽きた!」
正直、これ以上話をしてたら心が穢れる。魔剣を構えて踏み込み直し、一気にレパス王子へ斬りかかる。
自分のために他者を犠牲にし、その力に酔いしれる自称神様なんて見たくもない。私やエステナといった神様の定義とか関係なく、放置するのは気が収まらない。
今度はカウンターではないけれど、勢いと狙いを重視した一閃。いくら肉体の密度を上げようとも、アテハルコンのような強度があるわけでもない。
ならば、集中した居合で真っ二つに――
ズパァァ――グチィィイ
「ふえっ!? な、何これ!? ま、魔剣が吸い込まれてる!?」
【密度か!? 肉の密度のせいで、刀身を受け止められてる!?】
「その通りさ。もう君の魔剣にしたって、僕には届かない」
――しようと思ったけど、逆に刀身がレパス王子にめり込む形で止められてしまう。
相変わらずの肉というよりはゴムを斬ったような感覚。おまけに密度が尋常じゃないから、奥まで刃を通そうとすると逆に刃の勢いを殺される。
渾身の居合でさえも例外でなく、レパス王子の再生能力も合わせて体内へと埋まってしまう。なんとか引き抜こうとするものの、まるでビクともしない。
「は、放して……! ツギル兄ちゃんを返して……!」
「ハハハ、無駄さ。一度僕の体内へ取り込まれた以上、再度剣を動かすことも叶わない。……思えば、この魔剣とやらはかつて僕に斬られた君の兄だったか。ならばここでもう一度へし折り、あの時の再現としよう」
「や、やめて! ツギル兄ちゃんに酷いことしないで!」
おまけにレパス王子は体に力を込め、そのまま魔剣をへし折ろうとしてくる。居合も使えなければ、抜き身のままだからツギル兄ちゃんの消耗も激しい。
それに対し、レパス王子はスタミナまで無尽蔵。私がどれだけ力を込めて抜き取ろうとしても、ジワジワと確実に踏ん張ってくる。
このままだと、本当にツギル兄ちゃんが折られてしまう。焦らずにはいられない。
――何度も何度も、人の心もない怪物に大切な人を奪われたくない。
【ミラリア……そのまま引っ張ってろ! 振波!!】
ズゴォォオンッ!!
「ふ、ふえ!? びっくりした!? そういえば、その魔法だけは使えたんだった……!」
【へえ……魔剣まで足掻くかい。本当に無駄なことをしてくれる】
その気持ちは捕まってたツギル兄ちゃんにしても同じ。抜き身のままで居合が使えずとも、振波で刀身を震わせて隙間を作ってくれる。
私も全力で引っ張ってたから尻もちついたけど、おかげで肉の拘束から抜け出すことができた。レパス王子はすぐに再生して余裕綽々とはいえ、仕切り直すだけの時間もある。
一度距離を置いて魔剣を納刀。どうにか立て直しはするものの、問題は解決しない。
「ツギル兄ちゃん……! 何かいい方法はない……!?」
今のレパス王子を倒すためには、どんな技を使えばいいのか? ただ剣閃を加えるだけでは意味がないどころか、人体相手でのセオリーも通用しない。
向こうの攻撃を捌くのは問題ないとはいえ、突破口が見つからなくて焦ってしまう。こういう時、ツギル兄ちゃんなら何かいい方法を――
【……ミラリア、余計なことは考えるな。あいつの相手は無心でやれ】
「ツ、ツギル兄ちゃん……?」
淡々と攻める怪物相手に必要――いや、不要なものとは?




