◇エスターシャ監獄突入戦Ⅲ
この突入戦における総大将、レパス王子。
エステナ教団代表と因縁の対決へ。
「ディストールの方をカーダイスとフューティに任せていたら、随分奇特な縁もあったものだ。僕としても、君はこの手で葬りたい」
「……言ってくれる。今の状況が理解できてないの?」
「まあ、予想外ではあったさ。わざわざ僕がゾンビにしてやっても負けるなんて、エステナ教団の人間も使えないね」
【あのゾンビにしても、お前の仕業だったのか……!】
かつて運命が大きく狂った部屋で相対するのは、運命を狂わせた最大の元凶。エスカぺ村にフューティ姉ちゃんといった犠牲を生み続けた悪鬼――レパス王子。
今この時にしても、わざわざ味方をゾンビ化させてけしかけたらしい。戦力として意味があるとはいえ、味方さえも生ける屍にする神経が分からない。
――もっとも、そういう常軌を逸した行動も『レパス王子ならやりかねない』って思えてしまう。
「少し前にリースト司祭が逃げ帰ってきたが、その時に君のことも語っていたよ。……なんでも、彼には『自分こそがエステナだ』なんて語ったそうじゃないか? 本当に笑えるほど世間知らずな小娘だよ。ハハハ」
「……その口ぶり。レパス王子は信じてないってこと?」
「ああ、信じてないとも。リースト司祭は愚かにも信じて逃げ出したようだが、僕は違う。そもそもの話、最早君が何者であっても恐れる必要などない。仮に本物の女神エステナが相手であろうと、今の僕は超えて行けるのさ」
「それはまた……どうして?」
「僕の体は痛みを克服し、完全に人間を超えた。リースト司祭が君を恐れたのも、単に未熟だっただけの話。……誰にも僕を止められはしない。僕こそが神をも超え、世界の頂点に君臨するに相応しい存在さ」
淡々と語るレパス王子の言葉は自信に満ち溢れてる。リースト司祭から話を聞いていても、関係ないとばかりに私より上だと言い放ってくる。
ずっと胸に抱いていた『世界を手にしたい』って欲望が膨れ上がりすぎて、きっと自分でも制御できてない。かつての楽園と同じく、行き過ぎた強欲が人としての概念を崩壊させてる。
こっちとしては別に上下関係をとやかく言うつもりはない。私がエステナだって信じないならそれでもいい。
ただ気になるのは、レパス王子の態度と言うべきか。それこそまるで、本当に自分が神様にでもなったと言いたいみたい。
「……そうやって苦痛から逃げ、恐れを拒んだ先の歴史をあなたは知らない。本来の進化という道筋から外れて、満足できると思ってるの?」
「奇妙なことを口にするものだ。人の歴史とは『苦痛から逃れることで進化する』ことにあるとは思わないかい? 僕からすれば、ミラリア達の方がおかしなものさ。エステナ教団という絶対的な力を前にして、どうしてここまで抗えるんだい? 苦痛と恐怖に屈すれば、過度に苦しむことだってないだろう? なのに、わざわざ自分から苦しむ意味がどこにあるのさ?」
「……やっぱり、あなたは何も分かってない。本当に大切なものが見えてない」
レパス王子はリースト司祭から与えられたエデン文明に酔いしれてるだけ。苦痛や恐怖から逃れたことで、人としての心さえ壊れてしまってる。
無情な語り口がこちらの神経を逆なでする姿は、私の周りにいるみんなと同じとは思えない。この人が人間だとは思わない。
――生い立ちを知ってもなお断言できる。私はこの人より人間だ。
「あなたは苦痛から逃げた。今の私達にしても、あなた達エステナ教団の描く未来から逃げたいって言えば逃げてる。逃げたい気持ちそのものは理解する」
「ハハハ、分かってるじゃないか。『逃れようとする気持ち』こそが人間の本質さ。そして、逃げて従うことも――」
「それは違う。私が言いたいのは『逃げるという行動の先にある意味』が大切ってこと。私達がエステナ教団を恐れるのは、あなたの逃避とは訳が違う」
「……久しぶりに苛立ちを覚えたものだ。何が言いたいんだい?」
今すぐにでも斬りつけたい気持ちだってある。でも、それ以上に言い返したい気持ちでいっぱい。
かつてこんな人に勇者ともてはやされた自身の行いを愚かと思いたくもなる。ただ同時に、そんな過去との決別の意味でも言い返したい。
――これが私の辿り着いた人間の在り方。この戦いに身を投じた意味だ。
「私達はこの世界で未来を掴みたい。恐怖と支配の世界なんて訪れさせない。……もう、あなたの言葉は何も届かない」
「……言いたい放題言ってくれる。まるで僕が『人畜生にも劣る愚物』とも言いたげだ。たかが世間知らずの小娘の分際で……!」
エステナ教団は怖い。エステナ教団が楽園の力で作る未来から逃れたい。そして、この世界における『本来の進化の道筋』の中で生きていきたい。
みんながいて、苦しくても頑張って、手を取り合って歩める世界。清濁入り混じった不思議に溢れてて、キラキラした可能性に満ち溢れてて、まだまだ先のある未来。
それらを守るために私はここにいる。楽園やエステナという過去に生まれた障害を排除するためにレパス王子とも対面してる。
――どれだけ世間知らずな小娘でも、私は人間としてこの地へ足をつけてる。そこだけは紛れもない事実だ。
「君の御託は聞き飽きた。どのみち、従わないなら力で屈服させるまでさ。エステナ教団へ奇襲をかけただけで勝ったと思わないでくれ。……君達では僕を超えられない」
「さっきからそればっかり。言いたいなら好きに言えばいい。……こっちも示してあげる。人として歩んだ道のりと、それに伴う進化を……!」
【ああ、見えてやれ、ミラリア。……今のお前なら大丈夫だ。今の世界を生きる人間様の力を、その勘違いした自称神以上の馬鹿に思い知らせてやれ……!】
レパス王子が苛立ちを抑えながら剣を抜くのを見て、こちらも腰を落として居合の構え。ツギル兄ちゃんとも言葉を交わし、気持ちを重ねて臨戦態勢へ入る。
こっちとしても、理解されない話をこれ以上続けたくない。この世界の未来にとって障害となるならば、斬り倒して道を開くのみ。
――相手が人間をやめた存在ならば、下手に気を遣う必要もない。それがレパス王子となれば尚更だ。
「さあ、来るがいい。真にこの世界を支配できる力、その身で味わって降伏するといいさ」
人から離れた自称神 VS 人となった神そのもの
この戦いにて決着を。




