少女の食卓は、笑顔溢れる輪の中で
戦いの時は近いが、腹が減っては戦ができぬ。
「てやんでい! オッレらが丹精込めた炊き出しカレーライスの完成でい! 全員、並んで受け取ってべらぼうめい!」
「スパイス、ヘルシー! 材料にはパサラダで育てた野菜に肉に調味料だ! 元気が出ること間違いなしのヘルシーグ!」
「アッシらもいい材料で料理できて、料理人冥利に尽きますねい。おかわりもあるので、腹いっぱい食べてくださいねい」
砦の中央に設置されたのは、みんなが座れるだけのテーブルに椅子。大きなお鍋も用意され、中からスパイシーで食欲を誘う香りが漂ってくる。
すでに受け取って食卓に着いてる人もいて、見てるだけでお腹が空いてくる。
「お、おいひぃ……! わたし、こんなごはんはじめて……!」
「からいのがいい! どんどんたべられる!」
「ディストールから逃げてきた時はどうなることかと思ったけど、子供達のこんな笑顔をもう一度見られるなんて……。ううぅ……!」
避難してきた人達にとって、このご飯はまさに至福の一言。大きな具材が茶色いソースに浮かび、お米と混ぜ混ぜしてスプーンでどんどんパクパクしていく。
カレーライスって、確かカムアーチにもお店があったよね。あの時は食べられなかったけど、こうして食べられるとは思わなかった。
「てやんでい! ミラリアちゃんには大盛でい!」
「こうした機会を用意してくれた先人として、遠慮なく食べてくださいねい」
「うん、ありがとう。……本当に大盛の山盛り」
【ミラリアの顔より大きくないか? 盛りすぎだろ……】
私も列へ並び、モリモリのカレーライスを受け取る。なんだか他の人より多いけど、実際これぐらいは食べたかったところだ。
まだまだたくさんあるみたいだし、変に遠慮する方が無作法というもの。早速どこか適当なテーブルに座って、みんなと一緒にパクパク――
「おお、ミラリア。貴様はこっちの席だ。専用のテーブルを吾輩達で用意しておいた」
「ふえ? アキント卿……どうして?」
「曲がりなりにも神に分類される上、ここまで貢献してくれた人間を粗末には扱えんだろう?」
――しようとウロウロしてたら、アキント卿に呼び止められてしまう。何やらポツンと用意された机を指差し、私をそこへ案内してくれる。
椅子も一つだけ。確かに今の砦内は大勢が入り乱れ、席を確保するだけでもちょっと大変。こうして用意してもらえたのはありがたいと言えばありがたい。
今の私にも立場があることだって、朧気ながらに理解できる。
「でも……不満」
「お、おい? ミラリアの席はこっちだと言っただろう? どこへ行く?」
とはいえ、納得はできない。
モリモリカレーライスを運びながら、用意された席を離れてウロウロ。再び人ごみの中でキョロキョロ。
「あっ、丁度空いてる。私も座らせて」
「お、おい、ミラリア? お前の席はアキント卿が用意してくれてんだろ?」
「こっちはかなり狭いですの! 広いお席の方がミラリア様も食べやすいですの!」
目線の先にいたシード卿とシャニロッテさんの辺りに空いた席があったから、頑張って人ごみを抜けてお邪魔します。
持ってたカレーライスの器も置いて、ようやくご飯の準備も万全だ。
「ミラリアちゃんはなんだかんだで特別だべ。他のみんなと一緒はどうかと思うべよ?」
「ミラリア君はここを繋げたリーダーのようなものじゃ。儂としても、大衆に紛れるべきではないと思うがのう?」
ホービントさんにコルタ学長といった人達の注意も入るけど、私はこの席がいい。ここを動きたくない。
何を言われようと、意味のある話をされようと、私にはどうしても納得できない。
「私、神様でもなければ偉くもない! 特別扱いとかいらない! みんなと一緒にご飯が食べたい! 一緒じゃなきゃ嫌!」
その理由については私のワガママと言えばワガママ。だけど、譲れない一線なのも事実。
だって私だけ特別扱いするなんて、まるで神様みたいだもん。何度も言ってるけど、私は神様じゃなくて人間。
エスカぺ村で人として育ててもらった時だって、村のみんなで一緒にご飯だってした。みんなの輪に入ってこその人間と言える。
リーダーとかの偉さもいらない。細かいことだってどうでもいい。
――私はただ『みんなと一緒にご飯が食べたい』ってだけ。
【……というのが、ミラリアの――『神様っぽいお子様』の意見みたいで。皆さんもご理解いただけて?】
「……アハハハ! そうだよな。ミラリアってのはそもそもが『そういう人間』だったよな。まあ、俺としても愛しい女の方から来てくれんなら歓迎だ」
「どうやら、わたくし達も少し特別扱いしてしまったようですの。ミラリア様を讃えるのと同時に、お友達として接しますの。……スーサイドの時と同じく、一緒にご飯ですの!」
「……そうだったべ。この子は神様でも何でもないベ。普通の人間の女の子だべ」
「スペリアスよ、見ているか? 君の娘は確かに立派な人間じゃよ……」
ツギル兄ちゃんも同調してくれて、みんなも私の気持ちを笑顔で理解してくれた。私を席から追い出すこともなくなり、一緒に食卓を囲んでくれる。
やっぱりこういうのが一番。ご飯はみんなで食べてこそ美味しい。
旅の時は一人でご飯もあったけど、たくさんの人達と一緒に食べることこそ最高のスパイス。元気の源にもなる。
「いい機会だから、みんなのお話も聞きながら食べたい。今は戦いのことも忘れて語らうのも悪くない。それ自体が戦いのために必要な心の療養」
これから私達『現代を生きたいと願う人間』は『過去の人間が作り出した負の遺産』と戦う。そのために必要なのは元気。
相手が神様であろうとも、私も本当は神様であろうとも、やりたいのは『人間として戦い抜く』ってこと。
――今のこの場の笑顔や想いを、次の時代まで繋いでみせる。みんなと同じ人間として。
その少女は明確な自我を持った人間であった。




