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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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次なる一手は、孤立した砦を救うために

ひとまず凌いだとはいえ、まだまだ戦いは始まったばかり。

「おお、見ろ! 砦を守ってくれた英雄達の凱旋だ!」

「なんでも、あのアホ毛の少女が大活躍だったとか」

「何やらさらに頼もしい味方もいるみたいだし、今後の戦いにも勢いがつくな!」


 砦へ戻って来れば、大勢が歓声を上げて出迎えてくれる。さっきは少ししか様子を伺えなかったけど、思った以上の人達がいたみたい。

 これだけの人達をエステナ教団から守れたと思うと、本当に頑張ってよかったって思える。それにしても、これだけの人達が避難しないといけない現状なのか。


「ねーねー、ママ、にーちゃん。あのひとってもしかして、ユーシャだったミラリアさま?」

「もしそーなら、やっぱりミラリアさまはユーシャだったんだ! ここのごはんもなんとかしてくれるかな!?」

「こら、あなた達……。余計なことを言ってはいけませんって……」


「ふえ? あの親子って確かディストールの……?」


 人ごみをゆっくり眺めてみれば、どこかで見知った顔の人もいる。あの親子は私がディストール王国で勇者をしてた時にも見覚えがある。

 ディストールからここまで逃げて無事だったのは嬉しいけど、顔色はあんまりよくない。なんだか、ご飯をしっかり食べれてないみたい。


「吾輩も課題としているのだが、兵糧面でこの砦は難儀していてな。近くで調達しても、これだけの人数を満足に食べさせるのは苦しい」

「これまではエステナ教団から隠れられてたけど、今回の戦いで場所も割れちゃったからね……。今後どうやって食料を確保するかも問題か……」

「補給線が確立できてないのも痛いな。せっかくの凱旋だというのに、耳の痛い話を聞かせて申し訳ない」


 私の反応を見て気付いたのか、アキント卿とランさんが説明を加えてくれる。砦を見渡してみれば、ほとんどの人がご飯不足で体調が悪そう。

 今の砦内にはエスカぺ村より大勢の人達が集まってる。畑や田んぼはなくなってるし、ちょっと狩りした程度で食料は賄えない。

 一難去ってまた一難。エステナ教団を一時的に退けても、直面する問題はまだまだある。


「兵力についても、今のままでは心もとないな……」

「今回は良かったが、あのレベルがまた攻めてきたらと考えると……」

「他の都市への援軍要請も厳しいままだし、このまま戦いが長引いたら……」


 他の人達も先行き不安な恐怖に駆られてる。ある意味、今回は箱舟があったからエステナ教団を追い返せたという結果に過ぎない。

 箱舟だって、迂闊に頼り続けるわけにはいかない。楽園を目指すための足がかりという意味だってある。

 ここでの戦いを長引かせず、早急にエステナ教団と決着をつけられるのがベストではある。でも、砦が孤立した現状では道筋も見えない。


 ――ご飯に戦力。せっかくの勝利だというのに、喜ぶ以上の難問が立ち塞がってくる。




【――ふむ。ワシも事情は聞かせてもらったぞ。何やら、拭えない悩みがあるようじゃな。ミラリア】

「ふえ? ス、スペリアス様?」




 またしてもガラにもなく考え込んでしまってると、魔剣のスペリアス様から声が届く。お話できる時間は限られてても、周囲の状況は理解できるみたい。

 私がご飯や戦力に悩んでたこともお見通しみたい。私としても一人で考えこむより、気軽な相談相手がほしかったところだ。

 やっぱり、一人でモンモンするのは性に合わない。


「エステナ教団って悪い人達を倒そうにも、ご飯も戦力も全然足りない。この辺りは私達の故郷だけど、いい案も浮かんでこない……」

【ぶしつけですが、何かいい案はありませんか? 俺達だけじゃどうしようもなくて、誰かに頼らないことには……】


 魔剣のスペリアス様にできるのは『お話をするだけ』で、この状態では何もできないことは承知の上。でも、どうしても頼りたくなっちゃう。

 見た目や声だけとはいえ、スペリアス様の面影があるからかな? 私とツギル兄ちゃんにとって、スペリアス様はいつ何時でも頼れるお母さんだった。

 とはいえ、できることには限度がある。お話だけでは到底解決できない問題だし――




【方法なら一つだけあるのう。ワシ――というより、古代の記憶を眠らせた浮島の力があれば、一つだけ使える『ゲンソウの力』がある】

「えっ……!? そ、そんなのがあるの……!?」




 ――などと残念がってたら、スペリアス様から予想外の提案。てっきりお話するだけかと思ってたら、一つだけ使える力があるみたい。

 元々は『楽園というゲンソウに対抗する力』だったとはいえ、それ自体もカラクリの他にゲンソウが使われてはいる。だからこそできる芸当ってことなのかな?


【ワシに搭載されているゲンソウの力――所謂魔法じゃが、これは開発者の博士が『一番最初に生み出したゲンソウ』じゃ。ミラリアにも覚えがないかのう?】

「確か……今で言う転移魔法だったっけ?」

【その通り。元々は博士の『世界をより深く繋ぎたい』という願望のもとに生まれたのがゲンソウ――今の魔法じゃ。ワシならばその一番最初の力を行使することができる。まさに原種にして純粋な能力としてのう】

「……それで今の状況を打破できるなら、是非とも使ってほしい。どうかお願い」

【まあ、ワシとしてもそれが最善じゃと思うておる。ただ一つ、ミラリアに問いかけて確認したいことがある】

「わ、私に確認……?」


 スペリアス様の語る内容はなんとなく読めてきた。世界を繋ぐことができれば、砦で孤立する状況だって打破できるかもしれない。

 そのために使うのは『最初のゲンソウ』とも言うべき力。だけど、スペリアス様は単純には使ってくれないみたい。


【この力はあくまで『楽園を終わらせる』という目的のためにある。ワシには『ゲンソウを生み出した後悔の記憶』も刻まれておる。今バランスの取れた世界へ、迂闊な介入はしたくない】

「……分かってる。私だって、全部が全部あなたに頼るつもりはない。最初のきっかけだけでもいい。……神様じゃなくて人として、古代から願い続けたあなたのことも信じたい」

【……うむ。良い答えを聞けたものじゃ。ならば、しばし待つがよい。ここから先はおぬしの器量も問われるぞ】


 その理由としては、ゲンソウの力が再び世界を乱さないかという恐れ。それだけスペリアス様の持ってる能力が強大であることの表れでもあるのだろう。

 この人って『自我はない』って言ってるけど、昔の人の願いはしっかり詰まってる。私だって、見せてもらった歴史をもう一度繰り返すのは嫌。

 『逃げることの意味』と同様、力とは使い方次第。古代の力がこの先の未来を繋ぐ足がかりになってくれればいい。


 ――それこそ、お願いした私の責任でもある。




【今ここに、最初期のゲンソウを発現させよう。ルーンスクリプト『ᛏᛖᚾᛁᚾᛟᛗᛟᚾ』……開門せよ】

それこそ、博士が本当に見たかった世界。

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