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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
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神と呼べる少女は、あくまで人として

勝利の中でミラリアは少し考える。

「あの憎たらしい笑顔の司祭もいなくなったんだ。束の間の勝利でも喜ばなきゃ罰が当たるさ」

「あまり目立ちたくないらしいが、今回の防衛戦はミラリアの活躍あってこそだ。空からの攻撃も含めて吾輩も詳細は聞きたいが、今は胸を張るといい」

「ランさんにアキント卿も……」


 私とリースト司祭の会話は聞こえてなかったのか、肩に手をかけながら声をかけてくるランさん。アキント卿も安全を確認し、近くまで寄ってくれる。

 周囲を見渡せば、怪物達がいなくなったことで歓喜の声を上がる兵隊さん達の姿も見える。リースト司祭ばかり意識して、私も気がつけてなかったみたい。


「や、やった! やったぞ! これで砦は守られた!」

「エステナ教団にも一泡吹かせられたな! まったく、助っ人のアホ毛ちゃん様様だぜ!」

「あの光の槍にしても、アホ毛ちゃんの仲間か何かがやったことなんだろ!? そんな凄い味方がいるなら、俺達にも紹介してくれよな!」

「え、えっと……」


 兵隊さん達も私の方へ集まってきて、喜びながら語りかけてくれる。みんなにワチャワチャされて、アホ毛も一緒にモニュモニュしちゃう。

 思えば箱舟の説明すら省いてたし、伝えなきゃいけないことは山ほどある。

 とりあえずはエステナ教団の侵攻を食い止められたけど、こんなのは一手目に過ぎない。次のための備えだって必要だ。まだ気は緩められない。


【なんやなんや? とりあえず、一難去ったって認識でええんかいな? ウチもそっちに行った方がええか?】

「そうだ、ミラリア。吾輩が預かっていたこれも返しておこう。……にしても、吾輩はここから聞こえる声に聞き覚えがあるのだが?」

「アキント卿、ありがとう。詳しいことは戻ってから説明する。……箱舟の方はそのままでお願い。みんなにもじっくり説明したいし、混乱を避ける意味でもそっちの方がいい」

【なんや、ミラリアちゃんらしからぬ思慮深さやな。とはいえ、言いたいことは分からんでもない。どのみち、ウチらはミラリアちゃんに従うまでや。こっちは連絡来るまで待機しとくで】


 アキント卿からもシーバーを返してもらいつつ、必要となるのは今後の動きについて。箱舟の説明についても必要だけど、事態はまだまだ混沌を極めてる。

 こういう時、一気に情報を出し過ぎるとみんなも混乱しちゃう。エステナ教団との戦いにしても、楽園の破壊を目指す(もう一人のエステナ)が巻き込んだ形と見て取れる。

 今後もお願いは必要になるし、しっかりどう説明するかを考えて――




「ミーラーリー……ア! 何を複雑そうに考えてんだい、あんたらしくもない。旅の間で何があったか知らないけど、アタイの知るミラリアはそんな奴じゃなかったでしょ?」

「ふ、ふえっ!? ……ランさん?」




 ――などと考えこんでたら、ランさんが私の背中をスナイパーライフルでバンバン叩いて諭してくる。

 ちょっと痛いし、考えてたことまで吹き飛んじゃいそう。ちょっとは空気を読んで欲しいけど、事情を知らないランさんなら仕方ない。


「まあ、何があったかまではアタイも理解できないさ。ただ、無理にらしくない思慮なんてする必要もないんじゃない? かつてアタイを諭してくれた時だって、あんたの行動こそ『らしくなかった』けど、胸に抱く優しさは『ミラリアらしさ』に溢れてたじゃんか」

「む、むう……あの時とは事情も違うし……」

「そうやって理由に逃げるのも、当時の『同じことが起こりそうで怖い』って気持ちに当てはまるんじゃない? 怖いから逃げたくなる気持ちが出るのは当然だろうけど、一人で抱え込むこともないじゃんか。今のあんたにはアタイやアキント卿を含めた仲間もいるわけだし、らしくないのはここいらにしときなよ?」


 ただ、事情を知らなくても言える言葉ってのはあるみたい。その内容については、ポートファイブでの出来事を彷彿とさせてくる。

 あの当時の私はエスカぺ村やフューティ姉ちゃんの消失という事態に心を塞ぎ、自分らしくもなく人を避けてた。今の状況についても同じようなことが言える。

 自分の生い立ちを知って、らしくもなく方向に思考が逃げてる。深く考えすぎて、気がついたら自分自身の足元が揺らいでる。

 これではリースト司祭のことをどうこう言えない。私もまた『自分から逃げてた』のかもしれない。




「別にミラリアは神様でもないんだし、悩みも打ち明けてみんなと一緒に進めばいいのさ。それが『人間』ってもんだろ?」

「ッ……! うん、ランさんの言う通り」




 ただ、今はそのことを指摘してくれる人がいる。違うと思ったことを教えてくれるから、自分でも気づくことができる。

 そういった関係がありがたいし、事情を知らないままでも私を『神様ではなく人間』って思ってもらえることもまた嬉しい。


【なあ、ミラリア。お前も自分の生い立ちから、考えこみたくなる気持ちは分かる。役目から逃げたくないって気持ちも理解してる。だが、そういう考えは受け取り方次第だ。『負けるから逃げる』ことも『次勝つために逃げる』って言えるだろ?】

「……ツギル兄ちゃんの言いたいことも分かる。私も少し考えすぎてたのかも」

【少なくとも、今のミラリアはしっかり前を見れてる。リースト司祭のように、志自体は逃げてない。……今のお前なら、自然と正しい道を信じることができる。気負わずに行けばいいさ。今から勝利の凱旋なんだし、キリッと切り替えて行けよ】


 みんなと一緒に砦へ戻る途中、ツギル兄ちゃんもアドバイスを述べてくれる。結局のところ、私自身が『逃げたくない』って気持ちや『本当は神様』ってことに引っ張られてたのかも。

 大事なのは『逃げるという行動』でも『本当は神様って事実』でもない。その内側に眠ってて、これまでの経験が導き出した想いの果てだ。

 明確な正解なんてないけれど、信じたいものは存在する。そのためならば、私が逃げていようが神様だろうが関係ない。




 ――進むべき道は一つ。ここにいるみんなと住むべき世界を守ることだ。

深く考える必要はない。ミラリアは確かに「人間として」進むべき道を歩んでいる。

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