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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
強欲との決着をつけるべき約束の地
435/503

◆無情司祭リーストⅡ

リースト司祭もある程度の事情は把握している。

ただ欲望は独善的であり、眼前の少女こそが最大の鍵とは気づかない。

「楽園の力を示す……!? そのために、世界中を敵に回して……!? しかも、エステナを不要とするために……!?」

「あなたがご存じかは知りませんが、エステナは元々ただのカラクリに過ぎなかったのですよ。だというのに、人と同じような自我が芽生えてしまいまして。楽園の住人も危惧していたのですよ」

【そのことも知ってたのか……!】


 リースト司祭の目的は楽園のためにあり、エステナにも通ずるもの。エステナ教団を先導して世界へ戦火を広げることも、そのための布石に過ぎない。

 最終的な狙いは『エステナを不要とする』ことらしいけど、そこの意図が見えてこない。自我を持ったエステナの存在を知った上での対策ではあるらしい。


「ゲンソウとは、太古より『人々の願いの果てに生まれた力』です。言い換えれば、それは信仰ともなります。幸せになりたい、苦しみたくない、楽に生きたい。そういった願望が力となれば、自我なんて不純物を含んだエステナの代用にもなります」

「つまり、みんながエステナ教団や楽園をより意識すればいいってこと? ……でも、そのためにみんなを苦しめる必要なんてない。あなた達がやってることはただの暴力」

「形なんて関係ありません。暴力だろうと崇拝だろうと、楽園の力にひれ伏してくれればそれでいいのです。何より、強大なエデン文明がある以上、力で示す方が分かりやすいでしょう? この世界が楽園を恐れれば恐れるほど、エステナに代わる新たなゲンソウは強さを増すのです」

【……今までもだったが、本当に吐き気のする野郎だな。自分のためだったら、周囲は全部ゴミってか? ふざけるなよ……! フューティ様にしたって好き放題利用して……!】


 ある程度の意味は理解した。自我を持ったエステナが怖いから、代わりとしてさらなるゲンソウを求めてるってことらしい。

 そのために必要なのが楽園への信仰。ただ、それはただ『畏れさせる』ってだけに過ぎない。

 みんなが楽園を恐れれば、それだけゲンソウが強くなる。強くなったゲンソウをエステナの代わりにできる。理屈を完全に理解できなくても、話の筋道は見えてくる。


 ――だからって、許されないことをしてる事実は変わらない。


「……あなたは人間じゃない。自分が楽園へ戻りたいがために、どうしてここまで世界を巻き込めるの? 楽園にしたって、どうして外の世界のことは考えないの? この世界にはたくさんの命がある。楽園が好き勝手にしていい道理はない」

「どうぞ好きに仰ってください。強さこそが正義であり、絶対の真理なのです。何よりあなた方が相手にするのは、この世界で女神と呼ばれるエステナの使徒。抗ったところで、本気で勝てるとお思いで?」

「……思ってる。私達だって……そのためにここまで来た!」


 もう御託は聞き飽きた。私の意志は変わらないどころか、より強固なものへ変化する。

 楽園もエステナも終わらせないと、この世界が滅びの道を歩むのは明白。もう怠惰で好き勝手する人達の思い通りにはさせない。

 無礼ではあれど、言葉を交わしながらの居合一閃。不意打ちでリースト司祭へ斬り抜くけど――



 スパァン――グチチチチィ



「だから、勝てるはずがないと言ってるでしょう? 楽園がもたらす恩恵は、あなたのようなただの人間の小娘では届かないのです」

「……予想はしてたけど、あなたもレパス王子やカーダイスさんと同じってことか」

【回復速度も速いな……! ちょっとした痛みさえも感じてないか……!】


 ――斬撃音と同時に肉が蠢く音が響き、リースト司祭の体が元通り再生していく。

 痛がる素振りさえ見せてない。傷も痛みも何もかも、嫌なものは全部感じないのはレパス王子やカーダイスさんと同じみたい。

 予想してたけど、こうなるとどう倒せばいいのかが見えてこない。コルタ学長が一緒の時と違い、毒の類なんて持ってない。

 言ってしまえば不死身の相手。私の斬撃程度のダメージでは届かない。


「あなた達って、本当に人間を辞めちゃってる。そんな傷も苦痛も残らない体で生きて、楽しいこととかあるの? 生きることがつまらなくならないの?」

「『つまらない』という感情さえ、エデン文明があれば排他可能です。苦痛となる負の感情は全て取り除き、不安なき生の謳歌を可能とした力ですよ? あなただって楽園を目指しているならば、理解できるはずでしょう?」

「理解できない。私の経験はあなたの言う楽園の理屈を否定する」

「おやおや、本当にけったいな小娘ですね。レパス王子やカーダイス嬢と違い、素直に物事を受け取らないのは困りものです。スペリアスに育てられた影響でしょうか?」


 残心を取りながらも、リースト司祭から攻撃してくる気配はない。ゆっくり納刀を終えて振り返る余裕すらある。

 怪物も砦への侵攻に集中させてるらしく、私やリースト司祭に意識を向けることはない。おかげでちょっとした会話さえ交えられる。

 とはいえ、内容については右から左へ流したくなるもの。スペリアス様や私のことを何も知らないくせに、好き勝手言わないでほしい。


 ――ただ、今はまだ怒る時じゃない。我慢だって必要だ。


「こっちの魔剣だと厳しい。なら、もう一刀で挑ませてもらう」

【……成程。俺はミラリアの判断に任せる。考えがあるのは読めたさ】

「おやおや、魔剣をもう一本用意してましたか。ですが、それに何の意味があるのでしょう? そっちの方が攻撃力が高いとでも? 残念ながら、武器を変えた程度で効果はありませんよ」


 多分、タイミング的にはあと少し。ツギル兄ちゃんも私の狙いが読めたのか、素直にスペリアス様の魔剣へ後を託してくれる。

 気付いてないのはリースト司祭だけ。こっちは二刀目の魔剣を抜き身で構えて準備もできた。これでないと作戦は成功しない。


 この人を始め、楽園の力に契合しすぎた肉体へ明確なダメージを与えるのはかなり難しい。斬撃ではすぐに再生されるから、少なくとも『それ以外の強大な力』が必要になる。。

 今の私ではそんな力は出せない。魔剣の居合でツギル兄ちゃんの力を借りても、明確なダメージを通せるビジョンが見えてこない。


 ――ならば、今この場で用意できる別の力に頼るのみ。




「総員! 退避ぃぃい!!」

【ミラリア! 合図だ!】

「うん! 待ってた!」




 そのタイミングは、私からシーバーを受け取ったアキント卿が教えてくれた。

いざという時の作戦をも活かすのは、これまでの経験に裏打ちされた信頼と進化!

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