◇エスカぺ要塞防衛戦Ⅱ
これまでとは違う軍勢同士の激突!
それでも生きるため、誰一人として怯まない!
「す、凄い……! ミラリアの奴、あれだけの怪物にも渡り合ってる……!?」
「おい、貴様ら! 吾輩どもも怖気てばかりはおれぬ! あんな少女が先陣を切ってくれたのに、大の大人が何もせんままでは恥どころではないぞぉお!!」
「は、はい! アキント卿! 総員、遠距離武器を準備! 魔術師は魔法で、それ以外の者は弓や大砲で応戦しろぉぉお!!」
私の姿を見てた後方でも、負けじとばかりに気合の入った声が響いてくる。アキント卿の指揮により、砦を守る兵隊さんも追撃へ入ってくれる。
流石の私もこれだけの数を全部相手にするのは無理がある。どれだけ素早く動けても、取りこぼしは必ず出てくる。
バウゥンッ! ゴウゥンッ!
ドゴォォオンッ!!
「奥の怪物は狙わんでよい! ミラリアが怯ませ、まだ起き上がろうとする者だけ狙え! 完全に追い打ちで仕留め、砦への侵攻を許すなぁぁああ!!」
「アキント卿、いい判断! 後ろは任せる!」
そんな取りこぼしは、後ろのみんなが対処してくれる。アキント卿も的確な指示で声を張り上げ、次々と私の斬った怪物へ追い打ちをかけてくれる。
一度聖天理閃が通ってしまえば、闇瘴の効果は薄まっていく。そのことは怪物から抜け落ちる闇瘴を見ても明らかで、即座に理解して作戦を追撃重視へと変えてくれる。
この調子で行けば砦を守り切れる。後方は任せ、私も前方へ集中できる。
「ただ、凄い数……!? 後どれぐらいいるの……!?」
【いくらこっちが強くなっても、数の不利はどうしようもないか……!?】
「合体――は、使わない方がいいよね……!?」
【ああ。この戦いは持久戦だ。継続することを優先しろ……!】
とはいえ、問題なのはこの戦いがいつ終わるのか。闇瘴相手に対抗手段があっても、長引けば不利となる。
怪物は平原の先にある森の奥からまだまだ出てくるし、今はよくても私やみんなが疲れてきたら不利。反撃もいつまで続けられるか分からない。
押し寄せる怪物はまさに海の如し。私達という壁が崩れれば、一気に雪崩れ込んでしまう。
【おい、ミラリアちゃん! ウチや! 聞こえるか!? レオパルや!】
「レ、レオパルさん!? もらったシーバーから!?」
【こっちも空から様子を伺っとるが、さっきからドンパチしとるんってミラリアちゃんやろ!? 何があったか知らへんが、どえらいことがまた起こっとるな……!】
どうにか打開策を模索してると、胸元に入れてたシーバーから声がしてくる。どうやらレオパルさんもはるか上空からだけど、ある程度の様子は見えてるみたい。
かすかに見上げれば箱舟の姿も見える。とはいえ、あの位置からではすぐに助太刀なんてできそうにない。
【ともかく、黒い怪物みたいな軍団をどないかすればえんやな!?】
「うん、そうしたい! でも、私達だけは苦しい!」
【せやったら……ええ機会や! この箱舟に搭載しとるとっておきで、怪物軍団を一網打尽にしたる! 試し撃ちにも丁度ええわ!】
「何か手立てがあるの!? だったらお願い!」
【ああ! ただ、こいつを使うまでには時間がかかる! それまではどないかして持ちこたえてくれや!】
それでも、レオパルさん自身はこっちの力になろうと助言してくれる。あんな高い空の上から何をするつもりか知らないけど、頼れる人は全部頼りたい。そうしないと勝てない。
少し時間が必要らしいけど、打開策があるならまだまだ耐えてみせる。
【ミラリア!? 話してばかりもいられないぞ!? 怪物の軍勢がさらに数を増やして……!?】
「くうぅ……!? どこまでもこっちを消耗させてくる……!」
だけど、敵もこのままとはいかない。
こっちの目論見を知ってか知らずか、さらなる物量で圧し潰すような進撃。少し疲れも見えてきたし、時間との勝負さえも辛い。
「ヤ、ヤバい!? ミラリアの先陣を抜けた連中が!?」
「ア、アキント卿! 弾薬量に限界が!?」
「ええい! マナの聖水を武器に宿した連中も出ろ! 砦の防衛線を崩すなぁぁああ!!」
砦のみんなはまだ持ちこたえてくれるけど、まさにジリ貧といった状況。箱舟の準備が整うまで、どれぐらいの時間が必要かも分からない。
必死に試行錯誤で持ちこたえてはくれてるけど、武器さえも乏しくなってる。何か別の武器を用意できればいいけど――
「ッ!? そうだ! ねえ、トラキロさん! 聞こえる!?」
【どうしたァ!? 何か頼みかァ!?】
「箱舟から落としてほしいものがある! 忙しい中だけどお願い!」
――そんな中、一ついい考えが頭に浮かんでくれた。すぐさまシーバーに声をかけ、トラキロさんを呼んでみる。
あの人ならならすぐに理解できるはずだ。箱舟に詰んでるのかさえ不明だけど、今は一つでも可能性に賭けるしかない。
「今、ランさんが一緒にいる! だから、あの時の――」
【皆まで言われずとも理解したぜェ! あの小娘の改造は面白かったから、オレも箱舟に積ませておいたァ! 一度はこっちで回収した一品だが、この際ケチなことは言わねェ! 今、落下傘でそっちへ送ってやるよォ!】
トラキロさんもこの窮地で頭を回し、私の狙いをすぐに理解してくれる。しかも箱舟に載せてくれてたなんて幸運だ。
全部を言い終わる前にトラキロさんは動き出してくれたらしく、箱舟から傘のようなものをつけて何かが落ちてくる。
「え……? そ、空から何か落ちて来て……?」
「ランさん! それを使って! あなたならできる!」
さらに幸運なのは、それがランさんの近くへ落ちてくれたこと。ある程度スピードを殺し、壊れないように工夫までしてくれたみたい。
この中であれを使えるのはランさんだけ。今は頼らせてほしい。あの時と同じ確かな腕前を。
「こ、これって……アタイが改造したスナイパーライフル!?」
「それで援護して! あなたなら……怪物の眉間だって撃ち抜ける!」
今回は焦らず準備できたぜ!




