◇エスカぺ要塞防衛戦
VSエステナ教団、第一フェーズ。
かつての故郷を死守せよ。
「クッ……!? どんな要塞であろうとも、いつまでも隠れることは叶わぬか!?」
「マ、マズいよ!? ここには避難した一般人だっているのに!?」
「……みんな、私も出番が来たみたい。ここにはまた来る。行こう、ツギル兄ちゃん」
【ああ行くぞ、ミラリア。エスカぺ村を何度も襲わせはしない】
唐突だけど、お参りもここまで。敵が姿を見せた以上、こっちも迎え撃つ必要がある。
みんなのお墓へお辞儀をしたら、魔剣を携えて入口の方へ。ここには逃げ延びた人達だっているし、落とされるわけにはいかない。
「ミ、ミラリア。戦ってくれるのはありがたいが、あんただってせっかく故郷に戻ったばかりで――」
「だからこそ、余計に守らないといけない。ここは私の故郷でもある。そんな場所を何度も襲わせはしない」
「……本当に強い小娘だ。ならば、吾輩達も後れを取るわけにはいかんな。すぐに兵を集め、ミラリアと共に出陣するぞ!」
ランさんにアキント卿といった味方だっている。一緒に戦ってくれる人だっているし、故郷は失っても寂しくなんかない。
今はただ振るうのみ。ここまで育てて繋いでくれたみんなの意志を、兄である魔剣を手にして。
■
「アキント卿! 来てくださりましたか! ……後ろのその少女は?」
「心強い助っ人だ。それより、敵の状況は?」
「あ、あまり言いたくありませんが、想定外すぎてどうにも……!?」
砦の入口まで来れば、私の紹介も足早に状況確認が始まる。兵隊さんも大勢集まってるけど、どこか及び腰だ。
まだ戦いも始まってないのに、気持ちで負けたら勝てるものも勝てなくなる。こういうのって最初が肝心って、スペリアス様にも教わった。
――でも、そう考えたくなる気持ちも分からなくはない。
「あ、あれって……闇瘴で生まれた怪物……!? しかもたくさん……!?」
【う、嘘だろ……!? 一匹でも手こずるのに……!?】
「人の姿は見えないけど、あの怪物どもの体に描かれてるのは紛れもなくエステナ教団のものだよね……!? かつてのカラフライみたいな怪物に襲わせてるのか……!?」
敵として姿を見せたのは、エステナ教団の人間なんかじゃない。人ならざる巨大な怪物達で、体から闇瘴を吹き出しながらゆっくり近づいてくる。
まさかと思うけど、エステナ教団って闇瘴の怪物まで支配下にしちゃったの? 自分達で生み出して、手足として動くように差し向けてきたの?
――エデン文明のみならず、エステナに蓄積した苦痛さえも利用してるってこと?
「やはり、あれは闇瘴に起因するものなのか……!? おい! ポートファイブでマナの聖水は用意してあるんだったな!?」
「錬金釜で量産もできてますが、流石に数が多すぎます……! あれだけの数を相手にするとなれば、とても足りるようには……!?」
相手は普通の人間ではなく、闇瘴で大幅に強化された怪物。意図的な苦痛で無理矢理進化させられた存在と言ってもいい。
対抗手段となりうるマナの聖水もかつて私やトラキロさんで用意したものがあるにはある。でも、あそこまで形となって数を増やせば関係ない。
まさに不安や恐怖がそのまま襲い掛かって来るということか。普通の人間では太刀打ちできない。
「……みんな、後ろに下がってて。ここは私とツギル兄ちゃんで先陣を切る」
「お、おい!? ミラリア!? 流石のあんたでもあの数は――」
【安心してくれ、ランちゃん。ミラリアは昔よりはるかに成長した。自分のやるべきことをしっかり見極めることもできる】
ならば私の出番だ。ランさんといった砦を守るみんなを制し、一人で怪物の迫る平原へと躍り出る。
一見すると無謀でも、ツギル兄ちゃんはしっかり理解してくれる。今の私達がどれぐらい強くなったのかはお互い理解してる。
だからやらせてもらう。まずは先陣として、エステナ教団の怪物の鼻を明かしてやろう。
「聖閃付与……完了。向こうも突っ込んで来た」
【下手にこっちからも突っ込む必要はない。一番重要なのは砦まで辿り着かせないことだ。そうなると結界の意味もない】
「分かってる。ここを最初で最後の一線とする。みんなのもとへ行かせない」
闇瘴に対抗するための準備もできた。魔剣があるからこそ可能にした理刀流の技だ。
理刀流こそ、闇瘴といった乱れたゲンソウをも打ち砕くゲンソウ。理へ続く可能性だ。
これまでだって、魔王や箱舟の番人を乗り越えてきた。それらは確かな自信となってる。
だから――
「聖天理閃!!」
ヒュパァァァアンッ!!
ヒュパァァァアンッ!!
「な、何今の!? 前より速くない!?」
「あの小娘……また腕を上げたのか!?」
――守るという意志を抱き、迷わず魔剣を振るえばいい。その場からはほとんど動かず、向かってくる闇瘴の怪物を片っ端から相手にする。
聖閃付与もできており、確かなダメージを刻むことも可能。知能はそれほどでもないらしく、私を迂回して奥を狙うといった動きもない。
居合の速度も切れ味も確かなもの。再び故郷の地へ戻ってきた想いも、私を強く支えてくれる。
――そう何度も故郷を奪わせはしない。別に神様なんてなりたくないけど、必要ならば名乗らせてもらう。
「エステナ教団……覚悟して。あなた達の前にいるのは……人間の守護神だから」
形なんかじゃない。確かな中身が支えとなる。




