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その楽園、有無を疑う

そもそもの話、古代文明があると言われる楽園が本当にあるのか?

「楽園がもうないって……どういうこと?」

「考えてもみてください。楽園に繋がるエデン文明は、古代文明と言われています。それはつまり『永い時の中で眠りに着いた文明』ということになります」


 フューティ様が語るのは、楽園が本当にあるのかどうかということ。確かにエデン文明は凄い文明らしいけど、外の世界には伝わっていない。

 残っているのは古い文献といったものばかり。エスカぺ村にあったものだって、まるで封印するように眠ってた。


「そんな形で文明や文献は残されているのに、肝心の楽園はいまだに見つかりません。一説によると、かれこれ数百年は調査していてもです。そうなってくると、楽園そのものは永い時間の中で滅んでしまったと考えるのが適切かと……」

「確かにそうかもしれない。でも、私はそれでも構わない。楽園のあった場所でもいいから、そこに辿り着きたい」

「それはまた、どうしてでしょうか?」

「私は楽園を目指してる。だけど、最大の目的はスペリアス様に会うこと。スペリアス様は『楽園を目指せ』と言ってた。たとえ楽園が滅んでても、私が楽園を目指す理由は変わらない」


 エスカぺ村にいた頃は、苦痛のない楽園の存在への憧れで目指したかった。でも、今は違う。

 今楽園を目指すのは、そこがスペリアス様の指し示した場所だから。スペリアス様と再会して、これまでのことでごめんなさいしたいから。

 だから、楽園が実際にあるかどうかは関係ない。楽園がどんな場所なのかに興味はない。滅んでいたって同じこと。


 ――スペリアス様の導きこそが、今の私にとっての全てだ。


「……成程。ミラリアちゃんはあくまでお母さんに会いたいのが目的なのですね。しっかりとした指標をお持ちのようで。少し見ない間に、ミラリアちゃんも成長しましたね」

「まだまだ子供だとは思う。それでも、未熟な子供なりに頑張りたい」

「フフ。そういう考えができるのは成長の証ですよ。ツギルさんもいい妹さんを持ちましたね」

【色々と経験を積んで、ミラリアなりに思うところはあったようです。俺も今のミラリアが向かう先ならば、魔剣として力になりますよ】


 私に必要なのは楽園の有無ではなく、楽園が実際どこにあるのかということ。たとえ滅んでいても、そこに行けば何かが分かる。

 フューティ様やツギル兄ちゃんもそんな私の気持ちを理解し、明るく言葉を交わしてくれる。


 今の私に迷いはない。自分に嘘はついていない。

 確かな道を踏みしめ、これからも楽園を目指し続ける。





「フューティ様にミラリア様、おはようございます」

「ええ、おはようございます。ほら、ミラリアちゃんも起きてください」

「むにゃぁ……後一時間……」

【久しぶりにベッドで寝れたからか、村にいた頃の寝坊癖まで出てきたか……。いいから起きろって。フューティ様はとっくに起きてるぞ?】


 なお、心に誓うものがあったとしても、勝てないものだってある。眠気とか。眼鏡メイドさんがディストールの時と同じく、朝の挨拶に来てくれる。

 やはりベッドで寝るのは気持ちがいい。抜け出せない魔力があるけど、ここは頑張って起きよう。

 体を起こして背伸びをすれば、そこにいたのは部屋にやって来た眼鏡メイドさんと、すでに起きて読書をするフューティ様。

 ツギル兄ちゃんもすでに起きてて、かつて寝坊常習犯だった私のことを話に出してくる。


「ツギル兄ちゃんって魔剣だけど、やっぱり寝たりはするの?」

【そりゃするだろ。こんな体でも生きてるんだから】

「不思議だけど、そうかもしれない。気にしても仕方ないと見た」


 とりあえずはツギル兄ちゃんと軽く言葉を交えつつ、いつものように腰に魔剣を携える。

 相変わらず変装魔法でアホ毛がないけど、腰の刀だけは外せない。これまで外すとバランスがさらに崩れる。


「フューティ様。本日はどのようなご予定で?」

「エステナ教団の方には先のディストール王国での一件もあり、しばらく休暇をいただいてます。その間、私はミラリアちゃんと一緒に個人的な調査へ赴きます」

「かしこまりました。私もまだまだこちらでお世話になったばかりですし、部外者としても席を外しておいた方がよろしいでしょう。また何か不都合があればお申し付けくださいませ」

「すみませんね。こちらの都合に合わせていただいて」


 今日は昨日話した通り、フューティ様と一緒にエスターシャ神聖国を見て回りつつ、楽園に関する調査をする予定だ。

 眼鏡メイドさんは相変わらず淡々としてて、こっちの用事にも関わってこない。朝食だけ置いていくと、そのまま立ち去ってしまった。

 ディストール王国からお世話になってるのに、相変わらず分からない人だ。


【俺も話に聞いた限りだが、メイドってのはああいう態度も必要なんだとか。あんまり深く関わりすぎても、仕事に支障が出るんだとよ。残念だが、そこは切り分けておけ】

「残念って……ツギル兄ちゃんが? 眼鏡メイドさんにもデレデレしたいの?」

【お前はどんだけ俺に鼻の下伸ばす男イメージを植え付けたいんだ……!?】


 まあ、私としても優先事項はある。ツギル兄ちゃんは綺麗なお姉さんに囲まれたいのかもだけど、そこは我慢してほしい。

 それにフューティ様だって一緒なんだ。どうせ魔剣の姿で顔色なんて分からないんだし、こっそりフューティ様を見てデレデレしてればいい。


「ああ、そうでした。外に出る前に、ミラリアちゃんにはこれは着てもらおうと思います」

「これって……マント? しかもかなり大きい。私の体がスッポリ収まる」

「ええ。一応の配慮として、この方が身元もバレないと思われます」


 朝食を食べながら今日のことを考えていると、フューティ様から大きなマントを手渡される。

 私も旅用のマントは身に着けてるけど、それよりもずっと大きい。

 こんなものを身に着ければ、腰の魔剣も隠れて見えなくなるけど――




「ツギルさんというか、その魔剣もまたこの国では目立ちます。正体がバレないよう、このマントで隠しておきましょう」

【何!? それだと、俺は道中でフューティ様の姿を見ることが――】

「……ツギル兄ちゃん?」

ツギル兄ちゃんはエロガッパ。

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