{暴挙が形となる時}
章終わり三人称幕間。
楽園の脅威は現代で今も牙を剥く。
◇ ◇ ◇
「首尾はどうだ? カーダイス」
「ご安心くださいませ、レパス王子。すでに各大陸へも牽制を行い、必要な戦力もここディストールへ集結しつつあります」
ここはディストール王国にある王城の中。かつてミラリアが処刑されかけた玉座の間で言葉を交わすのは、現在のエステナ教団を動かすレパスとカーダイス。
互いに情報交換しつつ、顔に浮かぶは不気味な笑み。その身をエデン文明で人外へと成らせた者達は、今もなお人の道を外れた強欲のままに歩みを続けている。
「生体改造により、妾どもに従順な下僕も増えております。かつて聖女だったエステナについても、スーサイドの時より安定してきました。このまま行けば、世界そのものを手にする日も遠くはないでしょう」
「エデン文明――楽園の力は素晴らしいな。これほどの力を有して、何故に楽園という小さな箱に留まるのか。……まあ、そんなことはどうでもいい。いずれ世界を手にした後、楽園にだって攻め入ってみせるさ。僕達ならば、世界の全てを手中に収められる」
苦痛を阻害し、永遠を生きられる肉体。それらを手にしても、レパスとカーダイスの欲望は止まらない。暴走した欲望は世界へと手を伸ばし、全ての支配を望ませて行く。
今や世界のそこかしこでエステナ教団の暴挙が巻き起こり、戦火が今の時代を包んでいく。ミラリア達の手が届かないところで、どんどんと破滅の未来は広がっている。
その姿はかつてゲンソウに欲を抱き、怠惰の破滅を進んだ世界と同じもの。太古の意志が恐れて止めようとした力を使い、再び同じ過ちを繰り返そうとしている。
痛みを感じないのは肉体だけでなく、心さえも同じとなったまさに怪物。レパスとカーダイスを筆頭に、楽園の狂気は暴走を続ける。
「この調子ならば、私も役目を果たせそうです。あなたにも頑張ってもらいますよ」
「…………」
「ああ、そうでした。もう返事もできないのでした。……本物もあなたと同じぐらい従順であれば良かったのですがね」
それらを横で目にするのは、エステナ教団司祭にして引き金となったエデン文明を与えたリースト。傍らには偽神となったフューティが控えるも、まさに傀儡として佇まうのみ。
そのためなのか、リーストが語るのはほぼ独り言。ここまでしてレパスやカーダイスに力を与え、エステナ教団に世界へ牙を向けさせる理由を述べ始める。
「私は痛い思いも辛い思いも嫌なんです。かつて楽園で一人の魔女にそそのかされ、地上へ降り立ったのは過ちでした。簡単に帰ることはできなかったものの、一つだけチャンスをもらえました。……ようやく、その時が近づいているのです。楽園の力を外の世界へ至るまで示せる日が」
誰も聞き耳など立ててはいない。それでもリーストは一人吐露するように言葉を紡ぐ。
「エステナの変化は想定外でしたが、この約束を果たせれば私の願いは叶います。楽園の皆様も随分面倒を押し付けてくれましたし、こんなことをやる意味も分かりません。……ですが、あと少しです。あと少しで私もかの地へ戻ることが――」
リーストが願うはエステナ教団でなければ、レパスやカーダイスのことでもない。黙って動かないフューティに対し、自らの決意を改めるように語り続ける。
ただ、その姿を決意と評するのはあまりに横暴か。リーストが案じるは己の身のみ。
――リーストがここまで事を進めた理由がそこにある。
「さあ、始めましょう。全ては私があるべき場所に――楽園に帰るための布石です」
◇ ◇ ◇
この章はここまでです。
100万字超えてしまいましたが、もうちょっとだけ物語は続きます。




