番人が守りし箱舟は、意志を継ぐ者達と共に
いよいよ対面。本物の箱舟。
「この先はロードレオ海賊団においても立ち入れる人間は限られとる。箱舟が眠るロード岩流島において、一番重要な場所やさかいな」
「よもや、そこへ案内するのがミラリアちゃん達だとは思わなかったでさァ。最初からは想像もできねェ運命でさァ」
案内される場所へ進めるのは、ロードレオ海賊団でも一部の幹部クラスとのこと。ヤカタさんやネモトさんといった料理長も立ち入れない。
二人とはお別れして、レオパルさんとトラキロさんの後ろをトコトコついて行く。ツギル兄ちゃんとゼロラージャさんも一緒だ。
「ロード岩流島って、ほとんどの壁が金属製だった。この通路も同じどころか、さらに厳重になってる」
「壁面を見るに、アテハルコン派生の金属と思われるな。これだけの規模にしても相当ぞ」
「誰か知らへんが、よう分かっとるやないけ。ウチが調べた限り、太古の人間は『世界を脅かす何か』に対抗するため箱舟を作った。その素材にはアテハルコンが使われとる。アテハルコンは神の金属と呼ばれとるが、箱舟を作った人間は『毒を以て毒を制すしかない』とも書き残しとった。……そこから考えられるんは、ウチよりミラリアちゃんの方が詳しいんやろな」
「……レオパルさんの考察で多分合ってる。私が挑む相手はそれほどまでに強大」
通路を歩きながら言葉も交えれば、レオパルさんがここまで箱舟を重要視してた背景も見えてくる。
レオパルさんは私より先に箱舟の意図へかすかながらに辿り着いてた。それこそ途方もない話で、完全に信じてたってわけではない。
ただ、見つけてしまった技術を野放しにもできなかった。強大さを誰よりも理解できるからこそ、こうして厳重に管理し続けてきた。
――神となったエステナに挑める可能性。ゲンソウを生み出して世界を転生させたことへの贖罪は、レオパルさんを通してここまで紡がれた。
「この扉の奥や。トラキロ、準備はできとるな?」
「ロードレオの精鋭にも命令して、整備を進めさせてまさァ。後はここを開ければご対面でさァ」
長い歴史の意志。神へ対抗できる力の全容。
それが今、開かれた扉の前に広がる。
「ッ……!? こ、これが……箱舟……!?」
【帆もついてないし、水に浮いてもいない……!? ほ、本当に宙に浮いて……!?】
「昔の人間はどえらいもんを作ったもんやで。……これぞ、ウチが守り続けた空飛ぶ船――箱舟や」
開かれた扉の先に広がるのは、闘技場よりも大きな空間。上下にも広くて、底はどこまで深いのかも分からない。
その中央では何人かのロードレオ海賊団がせっせと作業してて、動かすために準備をしてる。荷物の箱を運んだりして、中央に浮かぶものへ集めてる。
中央に鎮座する船はこれまで見てきたどの船とも違う。宙に浮かんでるだけでなく、全体が金属で黒光りするデザインも特徴的。
帆だってないし、海を進むようには見えない。代わりにガラスのようなものが広く配置され、何か力が集められてるように感じる。
――これこそが箱舟。イルフ人のみんなが再現しようとしたものと違い、太古の意志が作り出した本物だ。
「流石に実物を見たら驚くわな。この船はずっとこの空間で、長い年月ずっと保管されとったみたいやわ。それこそ『動かすべき人間が現れる日』を待つようにな。……それこそがミラリアちゃんなんやろ? 全部言わんでも分かるわ」
「……今はまず感謝させてほしい。レオパルさんが箱舟を守ってくれたから、ここまで辿り着くことができた。ありがとう」
「ニャハハハ、照れるやないかい。……冗談の一つでも言いたいが、そないな空気でもないんやろな」
実際に浮いてる状態で保管されてることにもレオパルさんの配慮が見て取れる。これには素直にお礼のお辞儀をペコリ。
普段の不気味な笑みとは違う自然な笑顔と共に語るのは、これから先のことを理解したようなセリフ。
この箱舟で目指すのものは、ニャンニャンパラダイスなんかとは比較にならない。レオパルさんがここまで守り抜いた意味に匹敵する戦いが控えてる。
「船全体がアテハルコンでコーティングされ、燃料もアテハルコンベースとなってらァ。希少な材料をこれだけ使ってるからこそ実現した、まさに神に匹敵するカラクリってもんでさァ」
「ふむ……見事ぞ。確かにこれならば、神へ挑むことも可能なり。神の金属アテハルコンも、おそらくは楽園から生み出されたゲンソウか。……神のゲンソウを破るべき人のカラクリとは面白い」
トラキロさんに解説されながら、ゼロラージャさんも満足そうに箱舟を見回ってる。
私も一緒に見て回ったけど、中の様子も『凄い』の一言。雪山地下で見た施設に近いけど、何より大きな違いはそれらがしっかり『動いてる』ってこと。
ロードレオの精鋭らしい人達も整備に追われ、飛び立つ準備もどんどん進んでる。
「よっしゃ。整備の方も順調みたいやな。ほんならこれからやが、まずは試運転をしようと思う。どこへ行きたい云々はその後やな」
「喧嘩祭りみたいに空回りしないため?」
「まァ、それを言われると身も蓋もねェなァ。……それにしてもレオパル船長ォ。後で行き先をミラリアちゃんに託すってことは、オレにも話した通りにするってことですなァ?」
「まあ、そういうこっちゃ。他の連中には整備をさせといて、ウチとお前だけでも筋を通しとかなな」
「……むう? 何の話?」
これで楽園に向かうわけだけど、早速とはいかない。私も練習は大事だと思う。
本格的に飛ばすのは初めてみたいだし、喧嘩祭りみたいな空回りは勘弁願いたい。空を飛ぶなら尚更だ。
ただ、一番気になるのはレオパルさんとトラキロさんの態度。
ロードレオの二強とも言える二人が、揃って私の前で膝をついて頭を下げてくる。
「ウチらロードレオ海賊団! こっから先はミラリアちゃんに従ってお供するでぇえ!」
「荒くれ海賊とはいえ、カラクリの技術は一級品だァ! 箱舟の番人として、箱舟と共に力にならァア!」
魔王軍に続いて、ロードレオ海賊団もミラリアと共に。




