試練と決闘は、先にある目的のために
ついに決着、ロードレオ総大将レオパル戦。
「こ、これは……!? レオパル船長、ダウゥゥン! 勝者ァ! チャレンジャー……ミィィラァァリィィアァァア!!」
「レ、レオパル様が……!?」
「し、信じられないしー!?」
「お、俺らの愛が足りなかったか……!?」
刃界理閃をまともに食らったレオパルさんは、うつ伏せに倒れたまま動かない。実況のトラキロさんも確認し、決闘の終焉も告げられた。
観客席では元Aランクパーティーを始めとしたロードレオ海賊団が、揃って『信じられない』といった絶叫を上げている。
「て、てやんでい……!? ま、まさか、本気のレオパル船長を倒すとは……!?」
「アッシらはミラリアちゃんが実際に戦うのは、初めて見ましたねい……! しかし、これほどとは……!?」
「ウヌらを束ねし者も大した気骨ではあったな。されど、ミラリアとツギルが上を往くか。見事な決闘であったぞ。我も催しとして楽しめた」
一応は私サイドのみんなも驚きの声に染まってる。ゼロラージャさんは凄く余裕な態度だけど。
ともかく、これで与えられた試練は全て踏破。箱舟の約束も果たしてもらえる。
クラ――ドサッ
「ふ、ふえ……? あっ、そうだった……疲れた……」
【集中してると、消耗さえも忘れるな……】
ただ、私とツギル兄ちゃんも限界。一気に襲い掛かる疲労で動けなくなる。
おまけに今回は凄く眠い。ここから箱舟のお話なんてできそうにない。
「あれほどの激闘ぞ。消耗して当然よ。誰か、かの者どもの介抱を頼む」
「てやんでい! オッレが行くでい!」
「トラキロ副船長も頼めますかねい?」
「オレはレオパル船長の面倒で入り用だァ。そっちは任せたぜいィ」
薄れゆく意識の中で、みんながてんやわんやしてる声だけは聞こえた。
介抱してくれるみたいだけど、後で箱舟のことを話してくれるのを祈るばかりか。
■
「むう……だいぶ楽になった。おはよう」
【目が覚めたか。俺も今起きたが、かなり眠ってたみたいだな】
「魔界から始まり、この地に至るまでの連戦ぞ。急いだ方が良いとはいえ、休息も重要ぞ。この場も貸し与えてくれたようだし、しばし休め」
次に目が覚めたのは、ロード岩流島内にあるらしきお部屋の中。周囲の壁が金属製なのが分かりやすい。
魔剣へ戻ったツギル兄ちゃんとゼロラージャさんも一緒にいるし、束の間の休息もできるみたい。
クキュルル~
「オネンネはできたけど、ご飯が足りない……」
「てやんでい! そう言うと思って、オッレとネモト料理長で飯の用意も万全でい!」
「ミラリアちゃんも気に入ってくれたモツ煮ですねい。しっかり作っておきましたんで、どうぞ食べてくださいねい」
【準備がいいし、まだいるし……】
なお、ヤカタさんとネモトさんは相変わらず一緒してくれる。私が気に入ったモツ煮も器にてんこ盛りで持ってきてくれて、お腹も満たせる大盤振る舞い。
結局『セメント』とやらが何かは分かんなかったけど、こうしてご飯を用意してくれるだけでも十分すぎる。モツ煮を摘まめばアホ毛まで元気が戻ってくる。
「ほォう? ミラリアちゃんも目が覚めたかァ」
「あっ、トラキロさん。レオパルさんは?」
「あァ……そのことかァ。ちょっとミラリアちゃんには説明しづれェなァ」
「ふ、ふえ? 何かあったの?」
そうこうしてると、タイミングを計ったようにトラキロさんが部屋へ入ってくる。確かあの後、レオパルさんの介抱をしてたんだっけ。
こっちも休めたし、レオパルさんとは箱舟のお話だってしたい。そう思って今どうしてるか尋ねてみると、どうにも反応がよろしくない。
確かに私も決闘でかなりボコボコにした。敬意もあったとはいえ、最後の合体してからトドメはやりすぎと言えなくもない。
もしかすると、今もダメージで苦しんで――
「いやー! やっぱ全力で動いた後のニャンニャンパラダイスは最高やで! 手厚く介抱してもろて、傷も疲れも吹っ飛ぶわ! お? ミラリアちゃんも目ぇ覚めたんか?」
「この通り、ビックリするほど元気だァ」
「……そう。ならいい」
――るのかと心配したけど、とんだ杞憂だった。トラキロさんから少し遅れて部屋に入るのは、元気そうでツヤツヤ笑顔なレオパルさん。
刃に変えてた両手両足も元に戻り、思いっきりブンブンさせてる。ちょっとでも心配したことを凄く後悔したくなる。
――なお、ニャンニャンパラダイス絡みについては聞かないでおく。また穢れそうになる。
「なんや、なんや? ミラリアちゃんの方がお疲れモードかいな? せやったら、特別にウチのニャンニャンパラダイスをミラリアちゃんのため――」
「いらない。お断りする。逆に疲れる。私はあなたとは違う」
「……断るにしても辛辣すぎひんか?」
「こっちとしては、もっと大事なことが他にある。動けるぐらいには回復してるから、早速案内してほしい」
私との決闘で見せた真面目な姿もどこ吹く風。完全にいつもの調子へ戻ってしまった。
とんでもないスイッチの切り替え。私には到底真似できない。する気もないけど。
ただ、元に戻って約束を忘れたとかは勘弁してほしい。
――試練も決闘もここへ至るまでの過程に過ぎない。本当の目的はその先にある。
「もちろん、ウチもそのために来たんやからな。……案内したるわ。古代の人間が秘匿させとった究極のカラクリ――箱舟になあ」
キャラは戻っても目的は忘れてない。




