◆海護豹レオパルⅣ
レオパルの最終手段を前にしても臆さず決着を!
今のレオパルさんは両足に至るまで刃。切っ先ではしっかり踏み込むことすらできない。
形態を変えてから攻撃を止めなかったのも、コマみたいに回転してるのも、不安定な足元のせいでバランスを取りづらいからだ。
――ならば、起点となってる足元を崩せばいい。居合ではなく抜き身の刃でも効果は十分見て取れる。
「ク、クソが!? か、回転が!? せやけど……この程度で終わら――」
ズパァァアンッ!
「ニャ……ハッ……!?」
「こっちだってまだ終わってない……! 今回ばかりは、あなたの力を純粋に評価してる……!」
【一手潰して終わりとしないさ……! お前の攻撃を完全に終わらせるまではな……!】
再度回転して軌道修正を試みるレオパルさん。そのタイミングへ間髪入れずの震斬。
回転も弱まってたから、斬撃を弾けずまともに直撃。私とツギル兄ちゃんはこのタイミングを待っていた。
これで終わらないことは重々理解してる。攻撃を止めるのは一手に過ぎない。全ては確かな一閃を届かせるための布石だ。
「ニャッ……ハァァアア!! や、やってくれるやないけぇ……! せやけど、まだや……! まだこないなもんで、箱舟を託すには……!」
「レ、レオパル船長ォ!? 流石に限界でさァ! 火炎タービン分の出力も低下して、これ以上の継続戦闘は――」
「やかましいわ、トラキロ! おどれは実況を続けろや! せっかくのテンションが台無しやろがい……!」
肉体がアテハルコンの強度でも、ベースが人間であることに変わりはない。不意打ちで一撃食らえば、それだけで決定打にもなりうる。
何より、あそこまでメチャクチャな動きを続けてたレオパルさんだ。流石に疲弊が見えており、肩で息をするまで弱ってる。
それでも諦める様子はない。トラキロさんに心配されようと、刃の二本足でグラつきながら再度向かい合ってくる。
「来いやぁ! ミラリアちゃぁぁあん!! 箱舟は太古の人間が守りし希望で、ウチはその意志を紡ぎし番人! この仁義を曲げるんだけは……ウチがウチを許されへぇぇえん!!」
「……本当に気持ちが強い。尊敬する。……だったら、私も相応の力を見せるのが礼儀。あなたに敬意を表し、最大の切り札を使わせてもらう」
【……やるんだな。俺も賛成だ。どのみち、今のレオパルを止めるにはあの能力で完全に叩き伏せるしかない】
普段の変態からは本当に想像できない。レオパルさんがここまでの気概を見せるなんて、それだけ箱舟が大事なものってことなのだろう。
このまま攻防を続けても埒が明かない。レオパルさんは完全に倒れない限り、何度でも立ち上がってくる。全ては受け継いだ意志を守るが故か。
ならば、こちらも余計な出し惜しみはできない。心からの全力には、こっちも全力で応えたい。
ツギル兄ちゃんも同じ気持ちらしい。レオパルさんの動きは大きく鈍ってるし、発動させる時間も十分。
――やりすぎだとは思わない。これが私とツギル兄ちゃんによる『相応の礼儀』だ。
「魔剣解放……もう一度一つに!」
【後悔するなよ……レオパル!】
「何でも来いや……! なんぼでも相手したるわ! アホンダラァァアア!!」
完全に気力で持ちこたえてるレオパルさんはこっちの様子を見守ることしかできない。むしろ、最後の攻防を見極めようと構えなおしてくる。
こちらはツギル兄ちゃんの魔剣を横一文字に構え、かすかに刀身を見せてすぐさま納刀。あの時と同じく、周囲が光に包まれる。
――ツギル兄ちゃんが内側に入り込んで合体していく。アホ毛の感覚も含めて同じとなった。
【相変わらず、俺の意識はアホ毛なのか】
「アホ毛も前よりは慣れてる。もっとも、この程度は些細なこと」
「な、何や……!? この力は……いや、神々しさか……!? こ、これやとまるで、ミラリアちゃんが神にでもなったような……!?」
「あながち間違ってもいない。……でも、そういう御託はまた後で」
合体は無事に成功。ツギル兄ちゃんの意識はアホ毛に移り、魔力といった力は私の身に融合した。
レオパルさんは疑問に囚われてるけど、説明してる時間もない。この姿、かなり短い時間しか使えない。
――だから、今度はこっちが攻撃を止めない。正真正銘、これを最後にする。
タンッ――ズパァン! ヒュンッ――バシュン!
「ガハッ!? な、何やこのスピードは!? とはいえ、ウチかてそんぐらいのスピードは――」
ガキィィイン!!
「出せたとしても、私には届かない。もうあなたのスピードに戸惑わないし、あなたが私を捉えることもできない」
「んな……!? か、完全に読まれとるやと……!?」
合体状態の真骨頂は合わさった二人の経験からくる展開速度にあり。単純な速さだけでなく、先を見て体を動かす思考速度は常軌を逸する。
考えるより前に体が動き、見聞きした全てを瞬時に理解できる。こうなってしまえば、疲弊したレオパルさんではどう足掻いても届かない。
――でも、手を緩めたりはしない。それはここまで自分なりの筋を通したこの人への無礼になる。
「ア、アホな……!? い、いくら疲れてる言うて……こ、ここまでの差なんざ……!?」
「あ、ありえねェ……!? ミラリアちゃんはいったい、どこまでェ……!?」
超高速で展開される最後の攻防。内容としては完全に私の圧倒。
流石のレオパルさんも疲弊が勝り、完全に動きを止めてしまう。実況のトラキロさんも含め、周囲も神妙で奇妙なざわつきに包まれる。
「私もあまり長くはこの能力を維持できない。だから、次で終わりにする。これこそ、箱舟の番人に対する最大限の敬意」
「ハァ、ハァ……! な、何者なんや……!? ミラリアちゃんは……ホンマに……!?」
周囲に関係なく、こっちもそろそろ決めないといけない。なんとか動こうとするレオパルさんだけど、体は限界で後ろへふらついてる。
このままでは場外で溶岩へ真っ逆さま。箱舟のためにここまで頑張った人に、そんな結末は与えられない。
――後ろではなく、前に倒れてもらおう。無数の斬撃にて、前方へ誘う。
「刃界……理閃!!」
ズパパパァァァアンッ!!
「ま、負けた……か……? フルパワーの……ウチが……?」
今回は全力にて、純粋にレオパルの敗北。




