箱舟を求めし少女は、試練の最終段階へ
お互いに粘るも、軍配はミラリアとツギルへ。
「ダッ……ハァ……!? ダ、ダメージで出力の維持がァ……!? こ、ここまでかァ……!?」
着地しながら残心を取る頃には、トラキロさんも力なく声を零すばかり。そのまま仰向けに倒れ込み完全にダウン。
かなり緊張した戦いだったけど、これで私の勝ちだ。呼吸を整えて残心も解く。
「フゥ……よかった。スペリアス様の魔剣も無事」
【かなり攻撃を受けたのに、刃こぼれ一つしてないな。まるで使い手の気持ちに応えたようだ】
「使い手の意図を汲み取ってくれるのは名刀。ツギル兄ちゃんもだけど、スペリアス様にも感謝したい」
床に突き刺してた魔剣も抜き取り、ツギル兄ちゃん同様に納刀。この刀があったからこその勝利でもある。
まるで本当にスペリアス様が私を守ってくれたみたい。こういう時こそもう一人のスペリアス様とも話したいけど、そう都合よくも行かない模様。
残念だけど、ありがとうの気持ちだけ胸に秘めておこう。あの人だって、私にとって重要な道を示してくれた人だ。
【ニャーハハハ! 聞いとる感じ、トラキロは負けてもうたか? フルパワー出してそれかいな?】
「ダハハハ……すいませんねェ……レオパル船長ォ。……だが、あんたも本気でやらねェと、足元斬り刻まれまさァ……」
【んなことは理解しとるわ。別にウチも今回ばっかしはお前を責めへん。最初はグダっとったが、ご苦労さんやったで】
この場での決着が着いたことは、どこかで聞き耳を立ててるレオパルさんも承知の様子。軽口混じりながらも、トラキロさんのことを労ってるみたい。
元々はレオパルさんが提案した箱舟への試練。そのために尽力してくれたトラキロさんへ、思うところもあるのだろう。
今回はこれまでと事情が違う。変態も鳴りを潜めてる。
【さーて……まあ、ここまではある意味準備運動や。ウチかて試練として、ミラリアちゃんの前に立ち塞がらせてもらう。それに勝てたら箱舟へ導いたるわ。……それぐらいせな納得できひんからなぁ?】
「くどい。何度も言わせないで。私は箱舟のために今ここにいる。……首を洗って待っててほしい。最後として立ち塞がるなら容赦しない」
【ニャハハハ……! 凛々しさ満点。タイミングが違えば、興奮して駆け付けたいところやわ……! ほんなら、ウチも待っとるで。トラキロ、後の手筈は任せるからな】
ここまでも長く険しかったけど、まだ最後の一人が残ってる。ロードレオ海賊団船長のレオパルさんこそ、この箱舟の試練最後の相手だ。
これまでとは違う声色で語り終えるのがまた緊張。トラキロさんへも指示を出すと、そのまま聞こえなくなっちゃった。
――これまで口を開けば変態発言ばかりだったから、落差で余計に身が引き締まる。
「さァてとォ……負けちまったとはいえ、オレも与えられた役目を果たすかねェ……」
「あれだけのダメージで、そんなすぐに立ち上がれるんだ……」
「タフさが売りなもんでなァ。まァ、戦えねェにしてもやれることはあらァ。ここから先のため、ミラリアちゃんの連れも案内しねェとなァ」
「ゼロラージャさんのこと? 案内するにしても、かなり時間がかかりそう。私達、かなり奥にいるよね?」
そんな一応真面目なレオパルさんとの対決も近いんだけど、ゼロラージャさんもその場へ案内してくれるらしい。
ただ、頑張って起き上がったトラキロさんは何やら壁をいじり始めてる。
そんなことをして、どうやって遠方にいるゼロラージャさんを案内するの? 転移魔法だって使えないよね?
「えっとォ……確かこの辺りだったなァ……」
ガコンッ ゴゴゴゴ
「何ぞ? 壁が開いたか? ミラリアにツギルもいるではないか?」
「ふえ!? ゼ、ゼロラージャさん!?」
【ど、どうしてここに!?】
あれこれ気になってると、突然壁がドアみたいに開かれる。トラキロさんがまた何かカラクリを作動させたみたい。
そして驚くことに、そこに立ってたのはゼロラージャさん。入口で別れたはずなのに、普通に目の前に立ってる。
「どうしても何も、我はずっとここでウヌらを待っていただけぞ?」
「ま、待ってた……だけ? なら、どうしてこんな近くに――」
【いや待て、ミラリア。俺も思い返してみたんだが、ここに至るまでのルートって確か……?】
「ここまでのルート――あっ」
どうしてか気になってたけど、ツギル兄ちゃんの言葉でハッとする。確認のため開いた壁の向こうを覗いてみれば、ドームに入る前の外の光景が広がってる。
そして、私達はこのドーム内で弧を描くように進行してた。外の景色が見えなかったから気付かなかっただけで、まさか――
「喧嘩祭りに使ったルートは、この建物の外周部分だァ。要するに、ミラリアちゃんはグルッと回って戻って来たってことだなァ。壁一枚隔てれば最初の場所だァ」
「……なんだか、損した気分」
座標的にはほぼ元の位置という。




