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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
古代技術を守護せし豹と虎の拠点
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人と人の巡り合わせは、数奇な運命と理へ

場面のわりに真面目に話すミラリアちゃん。

「ミラリアちゃん、何か語りたいってェ気分かァ? それならこの時間で聞いてやるが、せっかくの飯も口にしなァ」

「てやんでい! フォアーグのモツ煮でい!」

「お待たせしましたねい。話の肴にどうぞ」


 こうしてトラキロさんとお話してると、最初にポートファイブで会った時を思い出す。

 今はこの後の戦いとかなしにしよう。出されたお料理も興味あるし、パクパクしながら語らせてもらおう。


「ムグムグ……とろける食感に奥深い味わい。これはクセになる」

「ミラリアちゃんみてェな子供にモツ煮は合わねェかと心配したが、気に入ってくれて何よりだァ。……おっと、今のミラリアちゃんを子供扱いってのも気が引けるかァ。最初に会った時と比べても、随分と中身の成長を感じるなァ。相手の気持ちに寄り添う態度とか、レオパル船長にも見習ってほしいぜェ」

「自分では分からないし、私はレオパルさんみたいに大きな組織を率いられない。でも、色々と思うことは増えてきた」


 ヤカタさんとネモトさんの作ってくれたモツ煮というのは美味。鳥か何かの内臓っぽいけど、臭みもなくてパクパクいけちゃう。

 そうしながらも、トラキロさんとのお喋りは続いていく。ここまでの疲れを癒しつつも、言いたいことは言える時に言いたい。


「私、これまでの旅で痛感した。人間って、常に誰かのことを考えて生きてる。一人ぼっちじゃ生きられない」


 ディストールにいた時も、スペリアス様やツギル兄ちゃんといったエスカぺ村のみんなを想ってたから帰ろうとした。

 エスターシャでフューティ姉ちゃんを助けようとしたことも、ポートファイブでペイパー警部とランさんの親子関係にモヤモヤしたことも。

 他で旅した時だって同じ。数え出せばキリがない。でも、一つだけ同じことがある。


 私も周囲もずっと、自分以外の誰かを想って歩んできた。普段は気にしない当たり前のことではあれど、自らの生い立ちを知ったからか深く考えたくなってくる。

 人間は一人じゃない。傍に誰かが一緒にいてくれるから、人は人として生きられる。

 一緒に過ごす過程で衝突して苦しくなることだってある。でも、それは『自分の見たい世界を相手にも見てもらいたい』って気持ちの表れでもあると思う。

 無論、全部が全部上手く行くわけではないし、時として相容れない時だってある。だけど、人はどこかで自分以外の誰かを求める。

 『嫌い』『叶えたい』『認められたい』とかも、全ては人との関りの中で生まれる感情。人との関わりを煩って苦痛から逃げれば、独りぼっちで空虚なままだ。


「人間だけでなく、世界って難しい。今こうして食べてるご飯だって、生き物の命をいただいてるってこと。日常的で単純に見えて、考察すればどこまでも深くなる」

「……ミラリアちゃんは随分と哲学的だなァ」

「そうは言っても、ふと思うだけ。何が答えかなんて分かんない。でも『答えがない』ってのは人間の関係にも通ずると思う」


 いつも美味しく食べてるご飯にしても、別の命があるからこそ。生き物は生きるために他の命を食べないといけない。

 酷いと言えば酷いかもしれない。だけど、世界の(ことわり)ってそうやって成り立ってる。

 完全に正しいものなんてない。ただ、人間だって命の一つ。あらゆる命と関わってこその『生きる』ってことだと思う。

 どうやって人同士で向き合うかを考えて悩むことも、生きていって進化することに繋がる。


 そうした(ことわり)を捻じ曲げる楽園が私は嫌い。全部の苦痛から逃げ出すことだけは間違ってると思う。

 無論、これも私がそう思うだけ。正しいと言える保証はどこにもない。




 ――これが哲学と言うならば、私が辿り着いたのは『答えなき答え』という哲学だ。




「成程なァ……言いてェことは分かる気がするぜェ。魔剣は兄貴だったなァ? いい妹さんを持ったじゃねェかァ」

【ええ、まあ。……つうか、本当に普通に談笑になったな。もう俺もそれでいいけど】

「ダハハハ。そういう感想も『人間の在り方』ってかァ。……ミラリアちゃんは立派だなァ。本当に立派な大人の人間だぜェ。そこは胸を張りなァ」


 トラキロさんは褒めてくれるけど、私なりにこれまでのことを考え直してみただけ。ちょっと変に考えすぎてる気もする。

 結局のところ、ツギル兄ちゃんみたいに『深く考えすぎない』ってのも人間の在り方だとは思う。たくさん考えすぎたら頭が破裂しちゃう。

 ただ、トラキロさんが褒めてくれた言葉は嬉しい。さりげなくだけど、私が欲しかった言葉を投げかけてくれた。


 ――『大人』じゃなくて『人間』ってところ。こういう考え方をするのも人間だからで、私のことを人間って認めてもらえたのが嬉しい。


「オレの『レオパル船長のために動きたい』ってェ気持ちも、ミラリアちゃんの話に通じるなァ。まァ、オレは哲学者でも何でもねェ。昔も今も、性根は荒くれ者だァ。暴れて動いて示すのが流儀だァ」

「それは私も知ってる。今回のお話でトラキロさんのことも知れたけど、ここからさきはまた別の話。勝負してくるなら受けて立つ」

「ダハハハ、上等だァ。オレは先に進んで、ミラリアちゃんの到着を待ってるぜェ。そっちは腹ごしらえして、落ち着いてから来なァ」


 いつの間にやら変な流れでらしくない話もしてしまった。でも、後味としては悪くない。モツ煮も含めて。

 先に食べ終えたトラキロさんは爽やかに笑って席を立ち、元のルートへ戻っていく。レオパルさんの意志を汲んで立ち塞がるなら、ご飯とは関係なく相手になる。


 ――私はこの複雑ながらも愛しい世界を守るため、今こうして戦ってるんだ。


「てやんでい。何やら、トラキロ副船長も憑き物が落ちたみたいな顔つきだったでい。これはミラリアちゃんからすると強敵でい。下手な話はしない方がよかったんじゃないでい?」

「結果がそうなっただけ。私にとって不利になるのも予測なんてできなかった」

【……本当に冗談抜きで、ミラリアは立派になってくれたもんだ】

「それほどでも。ともかく、私達もそろそろ向かう。ごちそうさ――あっ、ちょっと待って。二人にお願いしたいことがある」

「アッシらにですかねい? ミラリアちゃんの言葉なら、ある程度は融通を利かせますかねい」


 こっちもいつまでもご飯とはいかない。モツ煮を食べ終えてお水もゴクン。気持ちの切り替えもオッケー。

 トラキロさんを待たせたくもないし、後を追う形で早く先へ進もう。ただ、どうしてもヤカタさんとネモトさんにお願いしたいことがあって――




「さっきのモツ煮、気に入った。後でまた食べに来てもいい?」

【……おい、気持ちが切り替わってないぞ?】

真面目にSHI! ME! RO!

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