少女と海賊の衝突は、つかぬ間の休息へ
ほとんどまともに戦ってないけど、トラキロも含めて休憩タイム。
トラキロさんの後ろをトコトコ歩いてやって来たのは、ルートから少し逸れたお部屋の中。
なんだか美味しい匂いも漂ってて、ついついアホ毛も反応しちゃう。
――でも、今って仮にも戦いの最中じゃなかったっけ? 流されるまま来ちゃったけどいいのかな?
「てやんでい! 話には聞いてたが、本当にアホ毛ちゃんが来てくれたでい! こいつはオッレも嬉しいでい!」
「今回は喧嘩祭りということで出番がないと思ってやしたが、アッシも顔を見れて嬉しいですねい」
「ヤカタさんにネモトさん、お久しぶり。私も嬉しい」
まあ、ご飯となれば私だって胸躍る。ツッコミたい気持ちを抑えて奥へ進めば、カウンター席の向こうに懐かしい顔が二つ。
ロードレオ海賊団で料理長を務めるヤカタさんにネモトさん。トトネちゃん救出作戦の時もお世話になったけど、相変わらずロードレオの台所を担ってるみたい。
喧嘩してる様子もなく、二人揃って仲良くお料理。美味しい匂いも含めて、当時の美味しい出会いが脳裏に蘇る。
「それじゃァ……オレはモツ煮込みにするかァ」
「てやんでい。なら、冷酒もおつけするでい?」
「いやァ、まだ喧嘩祭りは継続中だァ。酒は呑めねェよォ」
「仕事が大変みたいですねい。アホ毛ちゃん――ああ、ミラリアちゃんでしたっけねい。注文は同じでいいですかねい?」
「うん。ここのメニューは知らないからお任せする。……でも、こんなことしてていいのかな?」
「いいんだよォ。前線指揮してるオレだっているからなァ。血生臭い話は後にして、少し一緒に飯としようじゃねェかァ」
お料理してもらえるのもあの時と同じ。前は確か、ヤカタさんとネモトさんの勘違いでご馳走になったんだっけ?
当時も奇妙だったけど、今回はもっと奇妙。だって、絶賛戦ってる最中にいきなりご飯だもん。
トラキロさんは当たり前のように注文するし、私にも注文を求められるし。一応は休憩ってことでいいのかな?
【地味に気になってたんだが、あんただって本当はこうやってミラリアを試す真似はしたくないんじゃないか? レオパルの命令でやってるだけで】
「そうと言えばそうなるなァ。オレだってロードレオ海賊団の一員で、副船長にしても船長の配下だァ。従うしかねェってのはあるなァ」
「にしては、凄く素直に言うこと聞いてる。スーサイドの時って、凄く荒れてなかったっけ? 今回はレオパルさんに逆らおうとか考えないの?」
ご飯が出されるまでの間、トラキロさんと一緒にカウンター席へ腰かけてちょっぴり談義。どうしてこんな空気になったのかはもう置いといて、いっそ気になることを質問しよう。
内心、私もツギル兄ちゃんと同じことを考えてた。スーサイドでは『下剋上だ!』って感じで逆らいまくってたのに、今回は凄く忠実にレオパルさんの命令を守ってる。
どれだけダウンしようとも、結局ここまで追いついてきた。離脱してもおかしくないのに、凄まじい執念で食らいついてきてる。全部空回りしてるけど。
そこまでする理由があるのかな? どうせだったら休憩中に尋ねておきたい。
「まァ、ここ最近のレオパル船長はかなり思慮深かったからなァ。これまでみてェに女の尻追っかけまわすのとは訳が違うなァ。……それにオレだって、一応はあの人に恩義があるからなァ」
「……恩義?」
尋ねてみれば、トラキロさんはカウンターに差し出されたお水入りコップ片手にしんみり語ってくれる。
最近のレオパルさんの動向も気になるけど、もっと気になるのは恩義って話。そういえば、トラキロさんみたいな人がどうしてロードレオ海賊団にいるんだろ?
「オレも昔は冒険者だったが、かなりの荒くれでもあってなァ。ダンジョンに潜って生傷作るのは日常茶飯事だァ。荒っぽいから仲間も作らず、一人無鉄砲に旅してたもんだァ」
「それって、ロードレオ海賊団より前の話だよね? もしかして、サイボーグになる前の話?」
「その通りだァ。サイボーグになったのもレオパル船長に出会ったのも、そうした冒険者稼業の中での話でなァ。……ある日、焦って失敗して魔物に襲われ、ボロボロになってたところをレオパル船長に拾われてなァ。そしてボロボロの命をどうにか繋ぐため、オレはサイボーグに改造されたってことさァ」
どうやら、トラキロさんは昔レオパルさんに命を助けてもらったみたい。サイボーグになった経緯も見えてきた。
そういった恩義があるから、レオパルさんの言うことには一定以上逆らえない。というか、逆らいたくないのだろう。
嫌になる時はあっても、心の底から見捨てたり離れたりしたいわけじゃない。私とスペリアス様の関係にも似てる。
「レオパル船長からしてみれば『サイボーグ実験に丁度都合のいい奴が転がってた』程度の認識だったらしいがなァ。当時は今ほどカラクリの技術も確立してなくて、色々と試行錯誤してたみてェでよォ。要するにオレは実験台にされたわけだが、別に恨んでもいねェよォ。ロードレオ海賊団についても、素直に従う気になれたァ。……ただ、あそこまで酷い女癖は予想外かァ」
【あの女癖に関しては、スーサイドで学生だった時からだもんな……。多分、一生治らないか】
「だろうなァ。とはいえ、ロードレオもかなりデカい組織になったァ。目的はどうあれ、船長にはしっかりしてもらいてェ。だからオレも口酸っぱく言ってるが、結局は同じかァ。それでも今回みてェに真面目にやることはあるし、そこは素直に従いてェ。……一応」
きっと、レオパルさん自身はそこまで深く考えていなかったのだろう。それでもトラキロさんは確かな恩義を感じ、少しでもためになろうと動いてたんだ。
レオパルさんに文句を言うのだって、そういった気持ちの裏返し。これまでまともに聞くことがなかったからか、余計に話に感心しちゃう。
――それに、私も思うところが出てくる。
「……多分だけど、トラキロさんのそういった気持ちも人間として大事。誰かのを事を考えて、誰かのために動くってことが」
語ってるけど、戦ってる最中にする話か?
とはいえ、ミラリアには思うものがある。




